【フェーズ2試験/EMERGENT-1】「KarXT」オランザピンに勝る有効性を示す(1回目)

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はじめに

この記事では、今のところ一番期待している開発中新薬である、カルナ社のKarXTについて書く。

前の記事では、KarXTの主成分であるキサノメリンや、副作用開発状況について書いた。前の記事へのリンクはこちら。

「KarXT」の概要/オランザピンに勝る効き目/体重増加&錐体外路症状が少ない

この記事では、KarXTの有効性をフェーズ2の治験結果で考えてみる。このフェーズ2試験は、EMERGENT-1(エマージェント1)とも呼ばれている。

エマージェント2について書いた記事へのリンクはこちら。
【フェーズ3試験/EMERGENT-2】KarXT、オランザピンに勝る有効性を示す(2回目)

エマージェント3について書いた記事へのリンクはこちら。
【フェーズ3試験/EMERGENT-3】KarXT、オランザピンに勝る有効性を示す(3回目)

追記:ムスカリン作動薬全体についてまとめた記事もあります。おすすめ記事です。
【革新的】開発中の抗精神病薬まとめ(前半)/ムスカリン作動薬【初心者用記事】

有効性(治験結果)

KarXTの統合失調症への有効性は、フェーズ2試験PANSS(パンス、陰性陽性陰性症状評価尺度)を使って測定された。

「統計的に有意な改善」とともに、「臨床的に意味のある改善」が示され、高い有効性があるという結果が出た。

PANSS治験データ(プラセボとの差、p値、効果量など)については、こちらの記事を参考にしてもらいたい。

PANSS 陽性陰性症状評価尺度(有効性測定に使われる尺度)

統合失調症の治験薬の有効性の見方

KarXTは、182人の患者に35日間投与され、有効性が測定された。PANSSのデータ結果を下の表に示す。

PANSSの、「投与前投与後平均スコア」「スコア平均減少幅」「プラセボとの差」「95%信頼区間」「p値」「効果量」がデータとして発表された。

KarXT投与KarXT投与
PANSS合計スコア 平均97.7
著しい程度の症状
 平均80.3
(並程度の症状
重症度 (116点位 最重度) (95点位 著しい) (75点位 並) (58点位 軽度)   
KarXT投与によるスコア平均減少幅プラセボ投与によるスコア平均減少幅プラセボとの差95%信頼区間p値効果量
PANSS
合計
-17.4-5.9-11.6(-16.1~-7.1)p<0.00010.75
PANSS
陽性
-5.6-2.4-3.2(-4.8~-1.7)p<0.00010.59
PANSS
陰性
-3.2-0.9-2.3(-3.5~-1.1)p<0.0010.56

今回は、KarXTの有効性データのうち、一番右の列の「効果量」についてだけ見ていく。

全般的な効果(陽性症状、陰性症状、その他の症状、の合計)

フェーズ2試験におけるKarXTのPANSS合計効果量は、0.75となっている。これはかなり有効性が高いとみなされる値だろう。

ただ、まだ1回だけの試験結果なので、エビデンスとしてはまだ弱い、ということを断っておく。

エビデンスとしてより強いものに、何百という臨床試験の結果を統合した、メタ分析の結果がある。メタ分析で算出された他の薬のPANSS合計の効果量は、下の表のようなものになっている。

KarXTが含まれたメタ分析はまだ行われていない。仕方ないので、KarXTフェーズ2試験で出た効果量と、他の薬メタ分析で出た効果量を、比較してみる。

PANSS合計効果量
クロザピン0.89ハロペリドール0.47シクレスト0.39
ソリアン0.73クロルプロマジン0.44ラツーダ0.36
オランザピン0.56セロクエル0.42カリプラジン0.34
リスパダール0.55エビリファイ0.41イロペリドン0.33
インヴェガ0.49ジプラシドン0.41レキサルティ0.26
ドグマチール0.48セルチンドール0.40

繰り返すと、KarXTフェーズ2試験でのPANSS合計効果量は、0.75だった。

上の表の通り、メタ分析においてクロザピンPANSS合計の効果量は0.89だったので、KarXTは、それに次(つ)いで高いという結果になっている。ソリアン0.73や、オランザピン0.56よりも高い。

クロザピン危険な副作用があり、他の薬が効かない場合にしか使えない。つまり、難治性の患者にしか使えない。

なので、難治性の統合失調症でない普通の患者にとっては、KarXTは、有効性の面でトップの薬になる可能性もある。

陽性症状への効果

以上で、KarXTの総合的な有効性について見た。次に、KarXTの陽性症状だけに絞って効果を見てみる。

KarXTのPANSS陽性スコア効果量は、発表されていないが、手計算で算出してみたところ、0.59だった。

他の薬のPANSS陽性スコア効果量は、次のようなものになっている。

PANSS陽性効果量
ソリアン0.69ハロペリドール0.49ラツーダ0.33
クロザピン0.64シクレスト0.47カリプラジン0.30
リスパダール0.61ジプラシドン0.43イロペリドン0.30
クロルプロマジン0.57セロクエル0.40レキサルティ0.17
オランザピン0.53セルチンドール0.40
インヴェガ0.53エビリファイ0.38

KarXT0.59という値は、ソリアン0.69や、クロザピン0.64リスパダール0.61、よりは低いが、オランザピン0.53よりも高いとなっている。

KarXTの陽性症状への効果は、リスパダールに近づいていてオランザピンより優る可能性がある。十分な効果であると思われる。

陰性症状への効果

次にKarXTの陰性症状だけに絞って効果を見てみる。

KarXTのPANSS陰性スコア効果量は、0.56と手計算で出た。

他の薬のPANSS陰性スコア効果量は、次のようなものになっている。

PANSS陰性効果量
クロザピン0.62インヴェガ0.37ハロペリドール0.29
ソリアン0.50クロルプロマジン0.35ラツーダ0.29
オランザピン0.45エビリファイ0.33レキサルティ0.25
シクレスト0.42ジプラシドン0.33イロペリドン0.22
セルチンドール0.40カリプラジン0.32
リスパダール0.37セロクエル0.31

KarXT0.56という値は、これもクロザピン0.62に次(つ)いで高い。ソリアン0.50や、オランザピン0.45よりも高い。

KarXTの陰性症状への効果は、今回の治験結果だけに関して言えば、驚くべきことにソリアンより高いという結果が出ている。

まとめ

  • KarXTの全般的な有効性は、危険な副作用のあるクロザピンを除くとしたら、トップになる可能性がある。
  • KarXTの陽性症状への効果は、リスパダールに近くオランザピンよりも優る可能性がある。
  • KarXTの陰性症状への効果は、ソリアンよりも高い可能性がある。

コメント

繰り返すが、KarXTは今のところ1番期待できる薬になっている。

新薬の良し悪しを見る時には、PANSS合計の効果量は、高い方がいい。

だがそれよりもPANSS陽性の効果量がいくらかあった上で、PANSS陰性の効果量が高いことが重要だと思う。

また、認知機能への改善効果副作用の少なさ、が大事になってくると思う。

KarXTはそれらをだいたいクリアしている可能性がある。

他の薬に関しても、PANSS合計の有効性だけでなく、陰性症状への効果、認知機能への改善効果、副作用の少なさ、について良い薬が出てくるのを期待したい。

2022年8月12日追記:KarXTのフェーズ3試験(エマージェント2)の結果が出ました。
【フェーズ3試験/EMERGENT-2】KarXT、オランザピンに勝る有効性を示す(2回目)

2023年3月28日追記:KarXTのフェーズ3試験(エマージェント3)の結果が出ました。
【フェーズ3試験/EMERGENT-3】KarXT、オランザピンに勝る有効性を示す(3回目)

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