はじめに
この記事では、今のところ一番期待している開発中新薬である、カルナ社のKarXT(Cobenfy)について書く。
前の記事では、KarXTの主成分であるキサノメリンや、副作用、開発状況について書いた。前の記事へのリンクはこちら。
「KarXT」の概要/オランザピンに勝る効き目/体重増加&錐体外路症状が少ない
この記事では、KarXTの有効性をフェーズ2の治験結果で考えてみる。このフェーズ2試験は、EMERGENT-1(エマージェント1)とも呼ばれている。
エマージェント2について書いた記事へのリンクはこちら。
【フェーズ3試験/EMERGENT-2】KarXT、オランザピンに勝る有効性を示す(2回目)
エマージェント3について書いた記事へのリンクはこちら。
【フェーズ3試験/EMERGENT-3】KarXT、オランザピンに勝る有効性を示す(3回目)
追記:ムスカリン作動薬全体についてまとめた記事もあります。
【革新的】開発中の抗精神病薬まとめ(前半)/ムスカリン作動薬【初心者用記事】
追記:KarXTについてのまとめ記事はこちらです。
【2026年日本発売予測】KarXT(Cobenfy)の5つのメリット【初心者用まとめ記事】
追記:コベンフィについてまとめた動画も作りました。
有効性(治験結果)
KarXTの統合失調症への有効性は、フェーズ2試験でPANSS(パンス、陰性陽性陰性症状評価尺度)を使って測定された。
「統計的に有意な改善」とともに、「臨床的に意味のある改善」が示され、高い有効性があるという結果が出た。
PANSSや治験データ(プラセボとの差、p値、効果量など)については、こちらの記事を参考にしてもらいたい。
PANSS 陽性陰性症状評価尺度(有効性測定に使われる尺度)
KarXTは、182人の患者に35日間投与され、有効性が測定された。PANSSのデータ結果を下の表に示す。
PANSSの、「投与前と投与後の平均スコア」「スコア平均減少幅」「プラセボとの差」「95%信頼区間」「p値」「効果量」がデータとして発表された。
KarXT投与前 | KarXT投与後 | |
PANSS合計スコア | 平均97.7点 (著しい程度の症状) | 平均80.3点 (並程度の症状) |
KarXT投与によるスコア平均減少幅 | プラセボ投与によるスコア平均減少幅 | プラセボとの差 | 95%信頼区間 | p値 | 効果量 | |
PANSS 合計 | -17.4 | -5.9 | -11.6 | (-16.1~-7.1) | p<0.0001 | 0.75 |
PANSS 陽性 | -5.6 | -2.4 | -3.2 | (-4.8~-1.7) | p<0.0001 | 0.59 |
PANSS 陰性 | -3.2 | -0.9 | -2.3 | (-3.5~-1.1) | p<0.001 | 0.56 |
今回は、KarXTの有効性データのうち、一番右の列の「効果量」についてだけ見ていく。
全般的な効果(陽性症状、陰性症状、その他の症状、の合計)
フェーズ2試験におけるKarXTのPANSS合計の効果量は、0.75となっている。これはかなり有効性が高いとみなされる値だろう。
ただ、まだ1回だけの試験結果なので、エビデンスとしてはまだ弱い、ということを断っておく。
エビデンスとしてより強いものに、何百という臨床試験の結果を統合した、メタ分析の結果がある。メタ分析で算出された他の薬のPANSS合計の効果量は、下の表のようなものになっている。
KarXTが含まれたメタ分析はまだ行われていない。仕方ないので、KarXTのフェーズ2試験で出た効果量と、他の薬のメタ分析で出た効果量を、比較してみる。
PANSS合計 | 効果量 | ||||||
クロザピン | 0.89 | ハロペリドール | 0.47 | シクレスト | 0.39 | ||
ソリアン | 0.73 | クロルプロマジン | 0.44 | ラツーダ | 0.36 | ||
オランザピン | 0.56 | セロクエル | 0.42 | カリプラジン | 0.34 | ||
リスパダール | 0.55 | エビリファイ | 0.41 | イロペリドン | 0.33 | ||
インヴェガ | 0.49 | ジプラシドン | 0.41 | レキサルティ | 0.26 | ||
ドグマチール | 0.48 | セルチンドール | 0.40 |
繰り返すと、KarXTのフェーズ2試験でのPANSS合計の効果量は、0.75だった。
上の表の通り、メタ分析においてクロザピンのPANSS合計の効果量は0.89だったので、KarXTは、それに次(つ)いで高いという結果になっている。ソリアンの0.73や、オランザピンの0.56よりも高い。
クロザピンは危険な副作用があり、他の薬が効かない場合にしか使えない。つまり、難治性の患者にしか使えない。
なので、難治性の統合失調症でない普通の患者にとっては、KarXTは、有効性の面でトップの薬になる可能性もある。
陽性症状への効果
以上で、KarXTの総合的な有効性について見た。次に、KarXTの陽性症状だけに絞って効果を見てみる。
KarXTのPANSS陽性スコアの効果量は、発表されていないが、手計算で算出してみたところ、0.59だった。
他の薬のPANSS陽性スコアの効果量は、次のようなものになっている。
PANSS陽性 | 効果量 | ||||||
ソリアン | 0.69 | ハロペリドール | 0.49 | ラツーダ | 0.33 | ||
クロザピン | 0.64 | シクレスト | 0.47 | カリプラジン | 0.30 | ||
リスパダール | 0.61 | ジプラシドン | 0.43 | イロペリドン | 0.30 | ||
クロルプロマジン | 0.57 | セロクエル | 0.40 | レキサルティ | 0.17 | ||
オランザピン | 0.53 | セルチンドール | 0.40 | ||||
インヴェガ | 0.53 | エビリファイ | 0.38 |
KarXTの0.59という値は、ソリアンの0.69や、クロザピンの0.64、リスパダールの0.61、よりは低いが、オランザピンの0.53よりも高いとなっている。
KarXTの陽性症状への効果は、リスパダールに近づいていて、オランザピンより優る可能性がある。十分な効果であると思われる。
陰性症状への効果
次にKarXTの陰性症状だけに絞って効果を見てみる。
KarXTのPANSS陰性スコアの効果量は、0.56と手計算で出た。
他の薬のPANSS陰性スコアの効果量は、次のようなものになっている。
PANSS陰性 | 効果量 | ||||||
クロザピン | 0.62 | インヴェガ | 0.37 | ハロペリドール | 0.29 | ||
ソリアン | 0.50 | クロルプロマジン | 0.35 | ラツーダ | 0.29 | ||
オランザピン | 0.45 | エビリファイ | 0.33 | レキサルティ | 0.25 | ||
シクレスト | 0.42 | ジプラシドン | 0.33 | イロペリドン | 0.22 | ||
セルチンドール | 0.40 | カリプラジン | 0.32 | ||||
リスパダール | 0.37 | セロクエル | 0.31 |
KarXTの0.56という値は、これもクロザピンの0.62に次(つ)いで高い。ソリアンの0.50や、オランザピンの0.45よりも高い。
KarXTの陰性症状への効果は、今回の治験結果だけに関して言えば、驚くべきことにソリアンより高いという結果が出ている。
まとめ
- KarXTの全般的な有効性は、危険な副作用のあるクロザピンを除くとしたら、トップになる可能性がある。
- KarXTの陽性症状への効果は、リスパダールに近く、オランザピンよりも優る可能性がある。
- KarXTの陰性症状への効果は、ソリアンよりも高い可能性がある。
コメント
繰り返すが、KarXTは今のところ1番期待できる薬になっている。
新薬の良し悪しを見る時には、PANSS合計の効果量は、高い方がいい。
だがそれよりもPANSS陽性の効果量がいくらかあった上で、PANSS陰性の効果量が高いことが重要だと思う。
また、認知機能への改善効果、副作用の少なさ、が大事になってくると思う。
KarXTはそれらをだいたいクリアしている可能性がある。
他の薬に関しても、PANSS合計の有効性だけでなく、陰性症状への効果、認知機能への改善効果、副作用の少なさ、について良い薬が出てくるのを期待したい。
2024.7.13追記:DelveInsightというサイトの分析によると、日本発売は2026年の可能性があるらしいです。
2024.9.27追記:KarXTは、2024年9月にFDAに承認されました。Cobenfyという商品名です。2024年中に米国で発売されます。
2022年8月12日追記:KarXTのフェーズ3試験(エマージェント2)の結果が出ました。
【フェーズ3試験/EMERGENT-2】KarXT、オランザピンに勝る有効性を示す(2回目)
2023年3月28日追記:KarXTのフェーズ3試験(エマージェント3)の結果が出ました。
【フェーズ3試験/EMERGENT-3】KarXT、オランザピンに勝る有効性を示す(3回目)
関連記事はこちら。
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追記:ムスカリン作動薬全体についてまとめた記事もあります。
【革新的】開発中の抗精神病薬まとめ(前半)/ムスカリン作動薬【初心者用記事】
追記:KarXTについてのまとめ記事はこちらです。
【2026年日本発売予測】KarXT(Cobenfy)の5つのメリット【初心者用まとめ記事】
参考文献
- https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC6891890/
- https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMoa2017015
- https://investors.karunatx.com/static-files/c09991a8-81fa-4ab9-aa15-8f200d73f3d1
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