【フェーズ3試験/EMERGENT-2】「KarXT」オランザピンに勝る有効性を示す(2回目)

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はじめに

KarXTフェーズ3試験のデータについて、いろいろと考えてみます。この記事では、フェーズ3試験のうちのEMERGENT-2の試験について書きます。EMERGENT-3とは別の試験です。

KarXTのEMERGENT-2の結果は、とても良かったと思う。とりあえず、結果を表にしてみる。

KarXT投与KarXT投与
PANSS合計スコア 平均98.3
著しい程度の症状
 平均77.1
(並程度の症状
重症度 (116点位 最重度) (95点位 著しい) (75点位 並) (58点位 軽度)   
スコア平均減少(KarXT)スコア平均減少(プラセボ薬)プラセボとの差効果量p値
PANSS合計-21.2-11.69.60.61<0.0001
PANSS陽性-6.8-3.92.9<0.0001
PANSS陰性-3.4-1.61.8=0.0055
PANSSマーダー陰性-4.2-2.02.2=0.0022

KarXTの有効性の測定には、PANSS(パンス)という尺度が使われた。PANSSについて詳しくは、こちらの記事を参照。
PANSS 陽性陰性症状評価尺度(有効性測定に使われる尺度)改訂版

効果量

オランザピンより効果が高い

一番重要なのが、「効果量」なので、最初に見てみる。上の表にあるように、KarXTのPANSS合計効果量は、0.61となっている。

効果量」は、数値が大きいほど、有効性が高い。他の抗精神病薬のPANSS合計スコアの「効果量」は、あるメタ分析で次の表のように出ている。

PANSS合計効果量
クロザピン0.89ハロペリドール0.47シクレスト0.39
ソリアン0.73クロルプロマジン0.44ラツーダ0.36
オランザピン0.56セロクエル0.42カリプラジン0.34
リスパダール0.55エビリファイ0.41イロペリドン0.33
インヴェガ0.49ジプラシドン0.41レキサルティ0.26
ドグマチール0.48セルチンドール0.40

KarXTのフェーズ3でのPANSS合計の「効果量」は、0.61なので、クロザピン0.89や、ソリアン0.73よりかは、有効性が低いと出た。

しかし、オランザピン0.56リスパダール0.55よりは、有効性が高いという結果になっている。

オランザピンは、とても優れた薬なので、それ以上の効果があると出たのは、KarXTも有効性の面で、かなり優秀であるかもしれない。

フェーズ2より効果量が小さい

けれど、フェーズ3試験でのKarXTのPANSS合計の効果量0.61は、KarXTのフェーズ2試験での効果量0.75より、かなり低いと思われるかもしれない。

低いかもしれないが、この差は、今回、プラセボ薬の「スコア平均減少幅(改善幅)」がやや大きかった事が、一因になっている。

というより、前回のフェーズ2プラセボ薬の「スコア平均減少幅」がかなり小さ過ぎたとも言える。

今回のフェーズ3のように、プラセボ薬の「スコア平均減少」が大きく出た場合、有効性の数値「プラセボとの差」が小さくなってしまう。そうすると、連動して「効果量」も小さくなる

いずれにしても、KarXTの有効性は高い可能性があるオランザピンより高いかもしれない。

スコア平均減少幅

効果量」の次に言いたいのは、KarXTのPANSS合計の「スコア平均減少」が、今回、かなり大きいという事。

スコア平均減少」は、マイナスの数値が大きい程、症状の改善幅が大きいという事になる。大きい程、有効性が高いとみなされる。

PANSS合計スコア平均減少(KarXT)スコア平均減少(プラセボ薬)プラセボとの差効果量
フェーズ3-21.2-11.69.60.61
フェーズ2-17.4-5.911.60.75

フェーズ3-21.2という「スコア平均減少」は、今まで見てきた中で一番大きい。KarXTのフェーズ2「スコア平均減少-17.4だったので、もちろんそれより大きい。

けれど、「効果量」については、フェーズ3よりフェーズ2の方が大きい。それはフェーズ2の「プラセボ」の「スコア平均減少」が-5.9と小さ過ぎる事が原因になっている。

つまり、フェーズ3の方が「スコア平均減少」が大きいのに、フェーズ2の方が「効果量」が大きいというねじれ現象が起きている。

有効性を判断する時、「スコア平均減少」も参考にできるが、「効果量」の方がエビデンスとして強い

にもかかわらず、私見では、「スコア平均減少」と「効果量」は、両方注目するべきだと思う。両方高ければ、確かに有効性が高いと判断できると思う。

KarXTのフェーズ3では「スコア平均減少」と「効果量」両方、申し分ないので、確かに有効性は高いと、安心できる。

(フェーズ2では、「スコア平均減少」の方は、それ程大きくなかった。)

※ところで、今回はデータが公表されていないものがある。なので、この記事では、陽性症状や陰性症状に絞って細かく見る事はできない。全般的な有効性だけを考えてみた。

有害事象(副作用)

最後に有害事象について書く。

深刻な有害事象は、自殺念慮、虫垂炎、統合失調症の悪化などがあった。しかし、KarXTの投与と関係があるかはわかっていない

KarXTを投与した患者の中で5%以上に出た有害事象は、次のようになっている。

便秘、胃の痛みやもたれなどの不快な腹部の症状、吐き気、嘔吐、頭痛、血圧上昇、めまい、胃食道逆流症、腹部不快感、下痢

これらの有害事象は、すべて軽度から、中等度だった。

他のムスカリン作動薬であるエムラクリジンの場合、5%以上の患者に出た有害事象は、次のようになっている。

頭痛、吐き気、背中の痛み、血中クレアチンホスホキナーゼ増加、めまい、口渇、眠気

エムラクリジンと比べてみると、KarXTは、やはり胃腸の副作用が多いように思う。

けれど、KarXTは、鎮静や眠気、体重増加、錐体外路症状は、ほとんどなかったようだ。

KarXTは、安全性や忍容性は概して高いが、やはり胃腸の副作用が多いかもしれない。

胃腸の副作用が酷くてダメな人は、エムラクリジンやNBI-1117568などのムスカリン作動薬を使うという事も考えられる。

まとめ

  • KarXTの有効性は、オランザピンより高い可能性がある。
  • フェーズ3試験では、フェーズ2試験と違って、プラセボ薬の症状の改善幅大きかった。それにも関わらず、KarXTの有効性は高いという結果だったので、確かに有効性が高いという可能性が高まった。
  • KarXTは概して副作用は軽いかもしれないが、胃腸の副作用に関しては、出てしまう人もいるかもしれない。

コメント

今回のKarXTのフェーズ3試験の結果によって、ムスカリン作動薬の有効性が、本当に高いという可能性がさらに高まった。ネクセラファーマ(ニューロクライン社)のNBI-1117568や、Cerevel社のエムラクリジンにも期待したい。

今後、妙な副作用が見つかったりしなければ、ムスカリン作動薬は、現在使われている非定型抗精神病薬より優先的に使われるようにもなるかもしれない。

というのも、非定型抗精神病薬は、体重増加などのやっかいな副作用がある。

より使われるためには、陰性症状や認知機能障害への効果も必要かもしれない。ムスカリン作動薬はその辺りも期待できると思う。

KarXTは、2023年中頃にも承認申請がFDAに提出される予定。順調にいけば、米国では2024年に販売承認が下り、発売されるはず。

関連記事はこちら。
【フェーズ2試験/EMERGENT-1】KarXT、オランザピンに勝る有効性を示す(1回目)

【フェーズ3試験/EMERGENT-3】KarXT、オランザピンに勝る有効性を示す(3回目)

ネクセラのM4作動薬「NBI-1117568」はKarXTやエムラクリジンに勝るか

【フェーズ1b試験】エムラクリジン/KarXT並の有効性/消化器系副作用が軽い

NBI-1117568(ネクセラのM4作動薬) /特異性のある注目のムスカリン作動薬

追記:ムスカリン作動薬全体についてまとめた記事もあります。おすすめ記事です。
【革新的】開発中の抗精神病薬まとめ(前半)/ムスカリン作動薬【初心者用記事】

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