はじめに
Cerevel社のエムラクリジン(CVL-231)は、ニューロクライン社(ネクセラ)のNBI-1117568や、カルナ社のKarXTと同種の薬で、M4受容体に作用する抗精神病薬になっている。
これらのムスカリン作動薬は、今のところ一番期待しているタイプの薬になっている。なので、多めに記事を作成していこうと思う。
NBI-1117568とKarXTの記事へのリンクはこちら。
NBI-1117568(ネクセラのM4作動薬) /特異性のある注目のムスカリン作動薬
「KarXT」の概要/オランザピンに勝る効き目/体重増加&錐体外路症状が少ない
これらの薬については、フェーズ2やフェーズ3などの臨床試験のデータが出る度(たび)に記事にしたいと思う。
この記事では、Cerevel社がエムラクリジンのフェーズ1bのデータを発表したので、有効性や副作用などについて書いてみたい。
追記:ムスカリン作動薬全体についてまとめた記事もあります。おすすめ記事です。
【革新的】開発中の抗精神病薬まとめ(前半)/ムスカリン作動薬【初心者用記事】
追記:エムラクリジンのフェーズ2試験の結果が出ています。
エムラクリジン/フェーズ2試験失敗/ムスカリン系薬剤は有効性が高くない?
有効性データ(治験結果)
エムラクリジンの有効性は、PANSS(陽性陰性症状評価尺度、パンス)を使って測定された。
PANSSや治験データ(p値、プラセボとの差、効果量など)については、こちらの記事を参考にしてもらいたい。
PANSS 陽性陰性症状評価尺度(有効性測定に使われる尺度)
フェーズ1bでは、エムラクリジン30mgの、PANSSのスコア平均減少幅、プラセボとの差、効果量、p値は、次の表のように出た。
6週間 (42日間) | スコア平均減少幅 (エムラクリジン) | スコア平均減少幅 (プラセボ薬) | プラセボ との差 | 効果量 | p値 |
PANSS 合計 | -19.5 | -6.77 | -12.7 | 0.68 | 0.023 |
PANSS 陽性 | -6.8 | -2.5 | -4.27 | 0.72 | 0.016 |
PANSS 陰性 | -3.0 | +0.1 | -3.07 | 0.80 | 0.009 |
PANSS 総合精神病理 | ? | ? | -4.92 | 0.52 | 0.085 |
全般的な有効性
今回は、一番重要な「効果量」だけを見ていく。上の表のように、エムラクリジンのPANSS合計の「効果量」は、0.68となっている。この0.68という数値は、結構高いものになっている。
あるメタ分析では、他の抗精神病薬のPANSS合計の「効果量」は、次のように出た。
PANSS合計 | 効果量 | ||||||
クロザピン | 0.89 | ハロペリドール | 0.47 | シクレスト | 0.39 | ||
ソリアン | 0.73 | クロルプロマジン | 0.44 | ラツーダ | 0.36 | ||
オランザピン | 0.56 | セロクエル | 0.42 | カリプラジン | 0.34 | ||
リスパダール | 0.55 | エビリファイ | 0.41 | イロペリドン | 0.33 | ||
インヴェガ | 0.49 | ジプラシドン | 0.41 | レキサルティ | 0.26 | ||
ドグマチール | 0.48 | セルチンドール | 0.40 |
エムラクリジンの0.68という値は、クロザピンやソリアンよりは低いが、オランザピンの0.56より高いとなっている。
また、KarXTのフェーズ2の効果量0.75よりは低い。けれど、KarXTのフェーズ3の効果量0.61よりも高いものとなっている。今の所、エムラクリジンは、KarXTにも匹敵する可能性がある。
ただ、エムラクリジンの0.68という効果量は、まだ1回だけの治験結果なので、エビデンスとしてはまだ弱い。別の臨床試験(治験)でもっと高く出たり、低く出たりする可能性もある。
エムラクリジンの全般的な有効性は、クロザピン、ソリアンより低い可能性があるが、オランザピンより高い可能性がある。KarXTにも匹敵する可能性がある。
オランザピンより高ければ、かなり優秀な部類に入ると思う。
陽性症状への効果
次に、エムラクリジンの陽性症状への効果に絞って見ていく。
エムラクリジン30mgのPANSS陽性スコアの効果量は、0.72となっている。
他の薬のPANSS陽性スコアの効果量は、次の表のようなものになっている。
PANSS陽性 | 効果量 | ||||||
ソリアン | 0.69 | ハロペリドール | 0.49 | ラツーダ | 0.33 | ||
クロザピン | 0.64 | シクレスト | 0.47 | カリプラジン | 0.30 | ||
リスパダール | 0.61 | ジプラシドン | 0.43 | イロペリドン | 0.30 | ||
クロルプロマジン | 0.57 | セロクエル | 0.40 | レキサルティ | 0.17 | ||
オランザピン | 0.53 | セルチンドール | 0.40 | ||||
インヴェガ | 0.53 | エビリファイ | 0.38 |
エムラクリジンの0.72という効果量は、なんとソリアンの0.69やクロザピンの0.64を上回り、一番高い。
今回、これ程PANSS陽性スコアの効果量が高くなったのは、プラセボのPANSS陽性スコアの減少幅(改善幅)が小さかった事も原因かもしれない。
けれど、とりあえず、陽性症状への効果は十分あり、高い可能性がある。
フェーズ1bでは、エムラクリジンの陽性症状への有効性は高く出ていて、トップの有効性だった。陽性症状への効果は十分あり、高い可能性がある。
陰性症状への効果
次に、エムラクリジンの陰性症状への効果に絞って見ていく。
エムラクリジン30mgのPANSS陰性スコアの効果量は、0.80となっている。
他の薬のPANSS陰性スコアの効果量は、次のようなものになっている。
PANSS陰性 | 効果量 | ||||||
クロザピン | 0.62 | インヴェガ | 0.37 | ハロペリドール | 0.29 | ||
ソリアン | 0.50 | クロルプロマジン | 0.35 | ラツーダ | 0.29 | ||
オランザピン | 0.45 | エビリファイ | 0.33 | レキサルティ | 0.25 | ||
シクレスト | 0.42 | ジプラシドン | 0.33 | イロペリドン | 0.22 | ||
セルチンドール | 0.40 | カリプラジン | 0.32 | ||||
リスパダール | 0.37 | セロクエル | 0.31 |
エムラクリジンの0.80という効果量は、これもクロザピンの0.62を大きく上回り、一番高い。
けれど、今回の治験では、プラセボ薬のPANSS陰性スコアの減少(改善)はなく、逆にプラセボ投与患者の陰性スコアは、増加(悪化)している。(+0.1)
そうすると、エムラクリジンの効果量はとても大きく出てしまう。次回以降の治験では、おそらく、0.80という、とても大きな効果量は出ないと思う。
それでも、陰性症状への効果が高いグループには入るかもしれない。
フェーズ1bでは、エムラクリジンの陰性症状への効果は、クロザピンを大きく上回りトップと出た。
これは、プラセボ薬の改善がなかったためだと思われる。次回以降の治験をよく見て、陰性症状への効果が本当に高いかよく見ていきたい。
開発状況
エムラクリジンは、米国で2022年中頃にフェーズ2試験が始まる予定。2024年上半期にそのデータが公表される予定。
52週間の長期投与試験も行われる予定なので、長期の有効性や安全性のデータが公表される事を期待したい。
エムラクリジンは、「認知症に伴う精神病」への適応も目指されているようだ。
日本では、まだ治験が始まっていない。
副作用
有害事象は、概してプラセボと同等だった。
消化器の副作用、錐体外路症状、体重増加は、プラセボと同等となっている。KarXTと違って、消化器の副作用が少ないのは、強みになるのではないか。
頭痛が一番多い副作用で、28%の患者にあらわれた。次に、吐き気が多く、7%の患者にあらわれた。
重篤な有害事象については、新型コロナウイルス感染が1人。オーバードーズが1人。統合失調症の症状悪化が1人いた。
心配されている心血管への副作用については、血圧上昇が0人で、心拍数の上昇が1人起っただけだった。プラセボと同等だった。
2%以上出た有害事象は次の表のようになっている。
頭痛 | 28% |
吐き気 | 7% |
背中の痛み | 6% |
めまい | 6% |
口喝 | 6% |
傾眠(眠気) | 6% |
皮膚のかゆみ | 4% |
まとめ
- エムラクリジン、NBI-1117568、KarXTなどのムスカリン作動薬は、今のところ1番期待している。
- エムラクリジンの全般的な有効性は、クロザピン、ソリアンよりは、低い可能性があるが、オランザピンより高い可能性がある。優秀な部類かもしれない。今の所、KarXTにも並ぶ可能性がある。
- 今回の試験の結果では、エムラクリジンの陽性症状への有効性は、表の中で一番高く、十分あると思われる。
- 今回の試験の結果では、エムラクリジンの陰性症状への有効性は、表の中で一番高いが、プラセボ薬の改善がなかったので、実際にそれ程高いかはわからない。
- 副作用も軽く、心血管や消化器の副作用、錐体外路症状、体重増加はプラセボと同等だった。
- 米国でフェーズ2を2022年中頃開始予定。データ公表は2024年前半。
コメント
フェーズ1bのエムラクリジンの有効性データは、全体的に高めに出ていると思う。特に、陰性症状への効果は高く出過ぎだと思う。プラセボの改善が、かなり小さかった事が原因になっている。
次回以降の試験でも、同じように有効性が高く出るかはわからないが、それでも、高い部類に入るように思われる。KarXTと同じ位の有効性を示す事が望まれる。
副作用の面では、KarXTの持つ胃腸への副作用がないし、現在使われているD2遮断薬と違って、体重増加や錐体外路症状がほとんどない。一部の人たちにとっては、とても有用な薬になる可能性がある。
フェーズ2やフェーズ3の結果をよく見ていきたい。
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参考文献
- https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC6891890/
- https://www.globenewswire.com/news-release/2021/06/29/2254559/0/en/Cerevel-Therapeutics-Announces-Positive-Topline-Results-for-CVL-231-in-Phase-1b-Clinical-Trial-in-Patients-with-Schizophrenia.html
- https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/36528376/
- https://www.stocktitan.net/news/CERE/cerevel-therapeutics-to-present-at-40th-annual-jp-morgan-healthcare-j6biax8pc454.html
- https://adisinsight.springer.com/drugs/800056372
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