「NBI-1117568」結果データの詳しい分析/オランザピンに勝る有効性【フェーズ2試験成功】

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はじめに

NBI-1117568のフェーズ2試験の結果が出たので、結果データを考察してみます。主に投資家の方々向けです。(一応言っておきますと、自分はネクセラ社やニューロクライン社の株主ではありません。)

この記事は、長くて難しめなので、印刷して読んでもらえたら大変有り難いです。

今回の治験結果は、簡単にいいとも悪いとも言いにくい複雑な結果です。データの項目によって、ポジティブな事もネガティブな事も言います。

結論としては、患者側の立場からすれば、また、ニューロクライン社の言っている事を信じるとすれば、良好な結果だったと思います。

この記事では次の5つの事を述べます。

  1. 低用量では有効性が高く、高用量では有効性が低いという事については、ニューロクライン社の言っている事を信じる
  2. ベースラインからの改善幅-18.2は、大きいと言われているが、普通位
  3. プラセボ調整後の改善幅」は、8以上が目指されて7.5であったが、どちらにしてもあまり大きくはない
  4. 効果量0.61大きい。効果量で有効性を見ればオランザピンより高く、KarXTやエムラクリジンと同じ位の有効性になると思う。
  5. 副作用やや軽い。KarXTのような消化器系の副作用や心血管系の副作用の心配がない。鎮静作用より強い可能性がある。

とりあえず、有効性に関する結果データを下の表に載せます。

プラセボ
(68人)
20mg
(35人)
40mg
(38人)
60mg
(34人)
30mg
×2
(26人)
ベースラインからの改善幅(スコア平均減少幅)-10.8-18.2-12.6-13.7-15.8
プラセボ調整後の改善幅(プラセボとの差)-7.5-1.9-2.9-5.0
効果量0.610.270.390.23
p値p=0.011P=0.282p=0.189P=0.09
PANSSスコア推移97
→78.8
95
→82.4
96
→82.3
98
→82.2

*当ブログでは、「ベースラインからの改善幅」を「スコア平均減少幅」、「プラセボ調整後の改善幅」を「プラセボとの差」と言い換えています。

これらのデータは、PANSS(陽性陰性症状評価尺度)という尺度を使って出されています。

PANSS(パンス)は、統合失調症の重症度を測定する尺度です。PANSSの点数が高い程、統合失調症の重症度が重いです。

治験薬の投与によって、PANSSのスコアをどれ位減少させられるかで、薬の有効性が調べられます。

PANSS(パンス)については、こちらの記事を参考にしてください。
「PANSS」陽性陰性症状評価尺度/抗精神病薬の有効性測定に使われる尺度

①低用量(20mg)投与群だけ有効性が高い

上の表に示した通り、今回のフェーズ2試験では、低用量の20mg投与群だけ有効性が高く出ています。

40mg投与群、60mg投与群、30mg一日2回投与群、の効果量は、順に、0.270.390.23、となっていて低いです。20mg投与群だけ効果量0.61と大きくなっています。

(効果量は一般的に、0.8で大、0.5で中、0.2で小、と言われています。)

ある一定以上の高用量で有効性が上がらなくなる、と言うのならわかりますが、逆に下がっている、というのはどういう事でしょうか?

ニューロクライン社やネクセラ社の説明によると、このように用量を増やし過ぎると逆に有効性が下がるというのは、向精神薬の場合、よくあるそうです。

ネクセラ社によると、脳がホメオスタシス(恒常性)を維持するために、薬の作用に対抗するような反応を起こして、その結果、全体として薬の効果が落ちる、という事があるらしいです。

ですが、原因ははっきりとはわかっていません。

リスパダールやハロペリドールなどでも、用量を増やし過ぎると有効性が下がるという事が見られています。

また、同じムスカリン系の抗精神病薬のエムラクリジンも、高用量で陽性症状への効果が下がっています。陽性症状への効果は、30mg投与で効果量0.7240mg投与0.41、となっています。

ムスカリン系の抗精神病薬についても、高用量で効果が下がる事はあるようです。

ニューロクライン社は、20mgの投与で一番有効性が高く出るというのは、予測していたそうです。フェーズ3試験でも20mg投与での高い有効性は再現できる、と強く主張しています。

フェーズ1試験でも20mg投与で効果量が0.7もあったそうなので、大丈夫かもしれないです。

ニューロクライン社の話によれば、NBI-1117568の真の有効性は20mg投与に表れている、という事だと思います。ですので、以下では、20mg投与の結果データについてだけ考えてみる事にします。

②ベースラインからの改善幅(-18.2)は大きいか

「スコア平均減少幅」か、それとも「効果量」か

このセクションでは、「ベースラインからの改善幅」、当ブログで言う所の「スコア平均減少幅」について考えます。

今回、NBI-1117568の20mg投与による「スコア平均減少幅」は、-18.2です。

この数値が大きいかを考える前に、臨床の場における有効性を予測する時に「スコア平均減少幅」を見るか、それとも「効果量」を見るか、について考えます。

実際の治療の現場で、どの程度の効果が出るかを予測する時、治験薬の「スコア平均減少幅」も参考になりますが、「効果量」も参考になります。

「効果量」は、次のような計算で算出されます。

*「プラセボとの差」-7.5は、算術平均ではなく、最小二乗平均の数値です。ですので、-7.4ではありません。

*標準偏差は、データのばらつき度合い表します。データのばらつきが小さい方が、一貫性や再現性が高いとされ、効果量は大きくなります。

上の計算式を見てもらえばわかるように、治験薬の「スコア平均減少幅」は、「プラセボ効果」の分(-10.8)が差し引かれるの値です。

「効果量」の場合、治験薬の「スコア平均減少幅」から、プラセボの「スコア平均減少幅」を引いた後、その値を「標準偏差」で割り算をして算出されます。

ですので、「効果量」は、「プラセボ効果」の分(-10.8)が差し引かれたの値です。

実際の治療の現場では、プラセボ効果は起こります。ですので、医師は、プラセボ効果を内に含む(治験薬投与による)「スコア平均減少幅」の方を重視する場合もあるようです。

ですが、プラセボ効果を引いた方が、治験薬の真の有効性を表しているという見方もあります。

一般的には、「効果量」も「スコア平均減少幅」も、両方見た方がいいと言われています。

実際の治療現場での有効性を予測するためには、「効果量」と「スコア平均減少幅」が見られます。一般的に、両方とも見る必要があると言われています。

「スコア平均減少幅」(-18.2)は大きいか

今回のNBI-1117568の「スコア平均減少幅」-18.2は、大きいのでしょうか?

他の抗精神病薬の「スコア平均減少幅」は、知る限りで、下の表のようになっています。

治験薬投与期間治験段階治験薬のスコア
平均減少幅
ブリラロキサジン4週間フェーズ3試験-23.9
KarXT5週間フェーズ3①-21.2
KarXT5週間フェーズ3②-20.6
エムラクリジン6週間フェーズ1b-19.5
ラツーダ6週間フェーズ3②-19.3
NBI-11175686週間フェーズ2-18.2
ラツーダ6週間フェーズ3①-17.9
KarXT5週間フェーズ2-17.4
ウロタロント4週間フェーズ2-17.2
ルマテペロン4週間フェーズ3-14.5

これらの数値は、投与期間も含めて試験デザイン(試験の設計)の仕方がそれぞれ違うので、単純には比較はできません。だいたいの話です。

この表の全ての治験薬の「スコア平均減少幅」を平均すると、-18.97です。ですので、NBI-1117568の「スコア平均減少幅」-18.2は、普通位です。

KarXTのフェーズ2試験の-17.4よりは大きいですが、KarXTの二つのフェーズ3試験の-21.2-20.6、よりも小さいです。また、エムラクリジンのフェーズ1b試験の-19.5よりも小さいです。

有効性の目安の一つである「スコア平均減少幅」で見てみると、NBI-1117568の有効性は、普通という結果でした。

③プラセボ調整後の改善幅(-7.5)は大きいか

次に、「プラセボ調整後の改善幅」、当ブログで言う所の「プラセボとの差」について述べます。

「プラセボとの差」は、もちろん次のような計算で算出されます。

先程の「スコア平均減少幅」や「効果量」は、実際の医療現場での有効性を予測するために見られるものでした。

一方、「プラセボとの差」は、治験薬の承認のために、プラセボよりどれ位優れているかを見るために用いられます。

ざっくり言って、「プラセボとの差」は、患者医者が見る値と言うより、投資家開発社側規制当局などが重視する値です。

今回のフェーズ2試験での「プラセボとの差」は、-7.5でした。これは大きいのでしょうか?

他の抗精神病薬の「プラセボとの差」は、知る限り、下の表のようになっています。

治験薬治験段階プラセボとの差
エムラクリジンフェーズ1b-12.7
KarXTフェーズ2-11.6
ブリラロキサジンフェーズ3-10.1
KarXTフェーズ3①-9.6
KarXTフェーズ3②-8.4
NBI-1117568フェーズ2-7.5
ウロタロントフェーズ2-7.5
ラツーダフェーズ3②-6.6
ラツーダフェーズ3①-4.8
ルマテペロンフェーズ3-4.2

この表の全ての治験薬の「プラセボとの差」を平均すると、-8.3です。ですので、NBI-1117568の「プラセボとの差」-7.5は、中の下くらいです。あまり大きくありません。

エムラクリジンのフェーズ1b試験での-12.7より、かなり小さいです。KarXTの3つの試験の-11.6-9.6-8.4、より小さいです。

NBI-1117568のフェーズ2試験での「プラセボとの差」は、あまり大きいとは言えない結果でした。8以上が目指されていたようですが、8でも小さいと思います。ムスカリン作動薬ならば、もっといけると思います。フェーズ3試験では、9以上は出て欲しいです。

④効果量0.61は大きいか

次に、効果量について述べます。

当ブログでは、効果量を一番興味を持って見ています。抗精神病薬の有効性を比較する時、普通は効果量が一番使われます。

「効果量」は「プラセボとの差」を「標準偏差」で割り算をして、標準化したものです。

標準偏差は、データのばらつき度合いを表します。ばらつきが少ない程、一貫性や再現性が高いとされ、効果量は大きくなります。

NBI-1117568のフェーズ2試験では、データのばらつきが小さかったそうです。つまり、標準偏差は小さかったです。

そのため、「プラセボとの差」は、-7.5とあまり大きくなかったにも関わらず、効果量は0.61と大きくなりました。

他の抗精神病薬の効果量は、あるメタ分析で下の表のように算出されています。

(メタ分析では、何百という臨床試験の結果が統合されています。個別の臨床試験や治験の結果よりエビデンスのレベルが高いです。)

PANSS合計効果量
クロザピン0.89ドグマチール0.48シクレスト0.39
ソリアン0.73クロルプロマジン0.44ラツーダ0.36
オランザピン0.56セロクエル0.42カリプラジン0.34
リスパダール0.55エビリファイ0.41イロペリドン0.33
インヴェガ0.49ジプラシドン0.41レキサルティ0.26
ハロペリドール0.47セルチンドール0.40

NBI-1117568のフェーズ2試験での効果量0.61は、オランザピンの0.56よりも大きいです。オランザピンより有効性が高い可能性があります。オランザピン自体も、とても優れた抗精神病薬です。

ですが、クロザピンやソリアンよりかは、有効性は低いかもしれません。

KarXTについては、フェーズ2試験で、効果量0.75、2つのフェーズ3試験では、効果量0.610.60を出しています。エムラクリジンは、フェーズ1b試験で効果量0.68を出しています。

NBI-1117568は、フェーズ1試験では、効果量は0.7だったそうです(20mg投与群)。

ですので、NBI-1117568は、他のムスカリン系の抗精神病薬(KarXT、エムラクリジン)と同じ位の有効性はあるのではないかと思っています。

NBI-1117568の効果量は、オランザピンより大きいです。KarXTやエムラクリジンと同じ位の効果はあるかもしれません。データのばらつきが小さかった結果、効果量で見た場合、有効性は高いとなりました。

⑤副作用は軽い、鎮静作用がやや強い?

次に、NBI-1117568の副作用について述べます。

今回のフェーズ2試験で5%以上発生した副作用は、眠気、めまい、吐き気、便秘です。

他のムスカリン系の抗精神病薬のKarXTやエムラクリジンで5%以上発生した副作用と比べてみます。

まず、KarXTに多い消化器系の副作用だけ見てみます。

NBI-1117568KarXTエムラクリジン
吐き気5%17%7%
便秘5%17%(5%未満)
消化不良(5%未満)9%(5%未満)
嘔吐(5%未満)9%(5%未満)
口喝(5%未満)9%6%

表を見てみると、やはりKarXTで消化器系の副作用が目立ちます。エムラクリジンやNBI-1117568は、特段、消化器系の副作用が多いわけではないようです。

次に、エムラクリジンに多い副作用を見てみます。

NBI-1117568KarXTエムラクリジン
頭痛(2.5%)7%28%
背中の痛み(5%未満)(5%未満)6%

エムラクリジンに多い副作用は、頭痛と背中の痛みです。頭痛28%も発生しています。

次に、NBI-1117568に多い副作用を見てみます。

NBI-1117568KarXTエムラクリジン
眠気12.5%6%6%
めまい12.5%(5%未満)6%

NBI-1117568に特に多かったのが、眠気やめまいです。他より倍くらい発生しています。

NBI-1117568は、眠気が心配です。けれど眠気は、不眠気味の患者や、興奮が強い患者には良い場合もあります。

この記事のまとめ

  1. NBI-1117568の真の有効性は、20mg投与に表れている。
  2. NBI-1117568のスコア平均減少幅-18.2は普通位。スコア平均減少幅で有効性を見た場合、有効性は普通位。
  3. プラセボとの差-7.5は、あまり大きくない。フェーズ3試験ではもっと出て欲しい。
  4. 効果量0.61は大きい。オランザピン以上の有効性はある可能性がある。KarXTやエムラクリジンと同じ位の有効性はあるかもしれない。データのばらつきが小さかったので、効果量は大きく出た。
  5. 副作用少なめ。けれど、眠気の副作用が多い。不眠気味の患者には、いい場合がある。

追記:プラセボの改善幅(-10.8)は大きいか

追記として、今回のNBI-1117568のフェーズ2試験で、プラセボの「スコア平均減少幅」は大きかったかどうかも考えてみます。

下の表の1番右の列にプラセボ薬投与による「スコア平均減少幅」を載せました。

治験薬投与期間治験段階治験薬のスコア
平均減少幅
プラセボ薬のスコア平均減少幅
ブリラロキサジン4週間フェーズ3試験-23.9-13.8
ラツーダ6週間フェーズ3①-17.9-13.1
ラツーダ6週間フェーズ3②-19.3-12.7
KarXT5週間フェーズ3②-20.6-12.2
KarXT5週間フェーズ3①-21.2-11.6
NBI-11175686週間フェーズ2-18.2-10.8
ルマテペロン4週間フェーズ3-14.5-10.3
ウロタロント4週間フェーズ2-17.2-9.7
エムラクリジン6週間フェーズ1b-19.5-6.77
KarXT5週間フェーズ2-17.4-5.9

この表の全てのプラセボ薬の「スコア平均減少幅」を平均すると、-10.69です。ですので、NBI-1117568のフェーズ2試験のプラセボの「スコア平均減少幅」-10.8は普通位です。

最近では、プラセボの「スコア平均減少幅」は、-10ポイントくらいが一般的だと聞きました。ですので、-10.8は、だいたい普通位です。

ところで、上の表を見てみると、KarXTフェーズ2試験のプラセボの改善幅は、-5.9となっていて、かなり小さいです。

-5.9と小さかったせいで、「プラセボとの差」も大きくなり、結果、効果量が0.75と大きくなりました。

また、エムラクリジンも、フェーズ1b試験のプラセボの改善幅が-6.77と小さいです。そのため、効果量も0.68と大きくなりました。

フェーズ1試験は、効果量が大きく出やすいと思います。エムラクリジンのフェーズ2試験では、プラセボの改善幅はもっと大きくなり、効果量も下がると思います。0.6前後になると予想します。

そうなった場合、NBI-1117568とエムラクリジンは、同じ位の有効性という事になります。自分の予想では、エムラクリジンとNBI-1117568は、同じ位の有効性だと思います。

プラセボの改善幅によって、効果量が大きくなったり、小さくなったりする場合があります。

NBI-1117568のフェーズ2試験ではプラセボの「スコア平均減少幅」は普通位でした。プラセボの改善幅は、特別に大きくも小さくもありませんでした

コメント

微妙なフェーズ2試験の結果でしたが、患者にとっては、まだまだ期待が持てる有望な薬だと思います。フェーズ3試験の結果が良い事を期待します。

自分の予測では、NBI-1117568の日本発売は、早くても2030年です。米国では、2028年前後の発売が見込まれています。うまくいった場合には2027年内の米国発売もあり得るそうです。

ところで、今回発見したのが、NBI-1117568の眠気の副作用が、KarXTやエムラクリジンより多い事です。もしかしたら、より鎮静的な薬なのかもしれません。

統合失調症の患者には、鎮静作用があった方がいい場合もあります。不眠気味の患者も多いので、夜にNBI-1117568を服用すれば、良いかもしれません。

何個かあるムスカリン系の抗精神病薬の使い分けとして、鎮静が必要な場合、NBI-1117568を選択するという事もできるかもしれません。

本当に鎮静作用がより強いのか、今後よく見ていきたいです。

NBI-1117568は他にも、「認知機能障害の改善効果がある」「錐体外路症状がほぼない」「体重増加がほぼない」という事が見込まれています。

また、KarXTと同じように、既存薬の補助薬としての適応も目指してもらいたいです。治療抵抗性の統合失調症患者には、望まれるところだと思います。

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