はじめに
先日、KarXT(Cobenfy、コベンフィ)という新しい抗精神病薬が、FDAに承認されました。米国では、2024年10月に発売されます。
次のリンク先の記事では、日本での発売は2026年と予測されています。
https://www.delveinsight.com/blog/schizophrenia-treatment-and-management
この記事では、今までKarXT(コベンフィ)について書いてきたことをまとめます。特に重要と思う事をまとめます。なるべく短く簡単な記事にします。
コベンフィの5つのメリット
まず、コベンフィを服用する事のメリットを5つ書きます。
メリット1 有効性が高い
コベンフィは有効性が高いと思われます。陽性症状への効果は、かなり高い可能性があります。
下の表は、陽性症状への有効性(効果量)のランキングです。コベンフィの効果量は、2つの治験で0.59という結果と0.80という結果が出ています。
ですので少なくとも、オランザピンやクロルプロマジンよりも有効性が高い可能性があります。もしかしたら、リスパダールやクロザピンやソリアンより高いかもしれません。
PANSS陽性 | 効果量 | ||||||
ソリアン | 0.69 | ハロペリドール | 0.49 | ラツーダ | 0.33 | ||
クロザピン | 0.64 | シクレスト | 0.47 | カリプラジン | 0.30 | ||
リスパダール | 0.61 | ジプラシドン | 0.43 | イロペリドン | 0.30 | ||
クロルプロマジン | 0.57 | セロクエル | 0.40 | レキサルティ | 0.17 | ||
オランザピン | 0.53 | セルチンドール | 0.40 | ||||
インヴェガ | 0.53 | エビリファイ | 0.38 |
ただし、陰性症状への効果はわかりません。治験では、陰性症状への効果は、一貫していません。高い可能性もあるし、低い可能性もあります。
コベンフィの陽性症状への効果はかなり高い可能性があります。陰性症状への効果は不明です。
メリット2 認知機能障害の改善効果
コベンフィの有効成分であるキサノメリンは、元々認知症に対する薬として開発されていました。ですので、コベンフィは統合失調症の認知機能障害にも効く可能性があります。
2008年の、ある予備試験では、語い学習、ワーキングメモリーで最も強固な改善効果がありました。
リスト学習、ストーリー想起、記憶保持、数字逆読み上げテストで、有意な改善が見られました。
けれど、注意力や情報処理速度には、有意な改善は見られませんでした。
また、フェーズ2試験の事後分析でも、認知機能障害への効果が確認されています。
ただし、認知機能障害があまりない患者には、効果が低かったようです。
一方、並以上に認知機能障害がある患者には、高い改善効果がありました。
コベンフィの認知機能改善効果は、やはりあるのかもしれません。とても期待しています。
メリット3 体重増加が少ない
コベンフィを一年間投与された患者は、平均して2.6kg体重が減少しています。65%の患者は、体重が減少しています。
コベンフィは、消化器系の副作用があります。それによって、むしろ体重が減少するのかもしれません。
コベンフィは、体重が増加するより、むしろ減少する人の方が多いです。
メリット4 錐体外路症状が少ない
コベンフィに2%以上発生した錐体外路症状は、アカシジア(3%)だけです。
コベンフィには、錐体外路症状は、ほぼないと言われています。従来の抗精神病薬と比べて、この点も大きなメリットです。
メリット5 補助薬として効果を増強
コベンフィは、既存薬の補助薬としての適応が目指されています。既存薬の使用だけでは、幻聴などが残ってしまう患者に対して、効果がある可能性があります。
治療抵抗性(難治性)の患者にも効くかもしれません。
コベンフィの補助薬としての使用については、まだ情報があまりないので、確かな事はわかりません。ですが、既存薬と作用メカニズムが大きく異なるので、併用した時、効果を増強する可能性はあると思います。
コベンフィの2つのデメリット
次に、コベンフィ服用時のデメリットについて書きます。
デメリット1 一日2回飲む必要がある
コベンフィは、一日2回飲む必要があります。薬の管理が苦手な患者にとっては、煩(わずら)わしいかもしれません。服薬遵守(ふくやくじゅんしゅ)されにくくなり、再発にもつながりかねないです。
KarXTを改良したTerXTや、持効性注射剤も開発されているらしいです。TerXTは、一日1回の服用で済みます。
コベンフィは、一日2回服用が必要です。
デメリット2 消化器系の副作用
コベンフィは、消化器系の副作用が懸念されています。
フェーズ2試験では、特に、便秘(17%発生)、吐き気(17%発生)が多かったです。
他に、口喝(9%)、消化不良(9%)、嘔吐(9%)、下痢(2%)、食欲低下(2%)などがありました。
一年間投与されて、副作用が原因で投与を中止した患者は、15%いました。このうち消化器系の副作用が原因で投与を中止した患者が、どれ位いるかはわかりません。
一部、消化器系の副作用が原因で服用中止する患者は、いるかもしれません。
だいたいの消化器系の副作用は、軽度か中等度の重症度で、一時的だったと言われています。
コベンフィは、消化器系の副作用が懸念されています。実際に使用されてからでないと、どれ位のものかはよくわかりません。
追加で言うと、高血圧などの心血管系副作用の懸念も少しあります。
まとめ
メリット
- コベンフィは、陽性症状への効果が特に高い可能性があります。陰性症状への効果は不明です。
- 認知機能障害への効果も期待が高いです。
- 体重増加は少ないです。むしろ、体重減少する人の方が多いです。
- 錐体外路症状は、ほぼないと言われています。
- 既存薬との併用で、効果を増強する可能性があります。
デメリット
- コベンフィは、一日2回服用する必要があります。
- 消化器系の副作用が懸念されています。
コメント
抗精神病薬が発明されたのは、約70年前です。最初の抗精神病薬はクロルプロマジンでした。それ以来、基本的に、ドーパミンを遮断して統合失調症を治療してきました。
コベンフィは、脳のアセチルコリン系の活動を作動させる事によって、間接的にドーパミンの活動を抑制します。クロルプロマジン以来の革新的な作用メカニズムで、統合失調症を治療します。
ドーパミンを直接遮断しないので、既存薬にはあった副作用がほとんどないです。また、アセチルコリンと似た仕方で脳に作用する事によって、認知機能障害を改善させる可能性があります。
とても期待しています。日本でも早く導入して欲しいです。日本では、2026年に発売される事が予測されています。
米国でコベンフィを服用した患者の感想もウォッチしていきたいです。それをこのブログでお知らせしていきます。是非参考にしてみてください。
関連記事はこちらです。
【革新的】開発中の抗精神病薬まとめ(前半)/ムスカリン作動薬【初心者用記事】
2026年日本発売予測「KarXT(Cobenfy)」の概要/オランザピンに勝る効き目/体重増加や錐体外路症状が少ない
参考文献
- https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/33626254/
- https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/38104575/
- https://jamanetwork.com/journals/jamapsychiatry/fullarticle/2818047#google_vignette
- https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC6891890/
- https://psychiatryonline.org/doi/full/10.1176/appi.ajp.2008.06091591
- https://www.nature.com/articles/s41398-022-02254-9
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