概要
いくつかのM1作動薬、M4作動薬と呼ばれる抗精神病薬が、何年か後に出てくるかもしれない。個人的な意見では、非定型抗精神病薬の到来にも匹敵する可能性のある薬になるとも思われる。
それらは特に、認知症状への効果に期待が持てる。M4作動薬のHTL16878(NBI-1117568)も、認知症状への効果がある可能性があり、もしあれば患者にとって、重要性のある薬になるだろう。
NBI-1117568と類似した薬である、VU0467154、VU0152100、CVL-231というM4アロステリック作動薬にも、前臨床試験(動物実験)などにおいて、認知機能の改善効果がみられたという報告がある。
2022年にも、NBI-1117568のフェーズ2臨床試験が行われると言われている。
この記事は、実験的に前臨床試験(動物実験)について書いてみる。些細(ささい)な内容で、難しくなるかもしれず、興味を持たれないかもしれない。が、NBI-1117568という認知機能に効果のありそうな抗精神病薬が、開発中であるという事実だけでも知ってもらいたいと思って書く。
今後、NBI-1117568の開発経過をおっていって、フェーズ2試験などの結果についても書いていきたいと思う。
イントロダクション
クロルプロマジンの発見の1950年代以来、統合失調症はドーパミンD2受容体アンタゴニスト(D2遮断、D2阻害)で治療されてきた。
その間、ここニ、三十年位に非定型抗精神病薬の使用開始はあったが、非定型抗精神病薬も定型抗精神病薬と同じで、D2遮断作用で治療する事は変わらない。
D2遮断(ドーパミンD2アンタゴニスト)作用でない作用で治療しようとする薬が、これからいくつか出てくるかもしれない。
TAAR1アゴニストで治療するSEP-363856や、カルボニルストレス仮説に基づき終末糖化産物生成を阻害するピリドキサミン、グルタミン酸仮説に基づいたグルタミン酸受容体調節薬、などを今まで記事にしてきた。他にもたくさんあるようだ。
D2遮断作用での治療法でない薬の中でも、今一番期待できるのは、ムスカリン性アセチルコリン受容体アゴニスト(M1及びM4作動薬)だろうと思う。少なくとも、統合失調症患者にとってとても重要な、認知症状への改善効果については最も有望ではないだろうか。
M1、M4作動薬であるKarXTのフェーズ2の成功によって、投資家たちにも興奮が表れているようにみえる。ポジショントークも含まれるかわからないが、「これから、M1、M4が市場を席巻(せっけん)するだろう。」などと言っている人もいた。
あんまり統合失調症の開発中新薬は、いいものが少ないと以前に言ってしまったが、もしかしたら見落としもあるかもしれない。M1、M4受容体に作用するタイプのこれから出てくる臨床試験、前臨床試験にある薬なども、結構良い薬になるんじゃないかと思い始めた。
M1、M4薬は認知症への適応も目指されてもいて、統合失調症患者の認知機能を改善する可能性があるし、陽性症状、陰性症状にもよく効きそうだし、体重増加や錐体外路症状(EPS)も少なそうだ。
ネクセラファーマは、自社のM4作動薬を革新的なものになる可能性があると言っているが、あながち嘘でもなく、完全なブレークスルー(飛躍的進展)とまでは言えないかもしれないが、非定型抗精神病薬の到来と同じくらいのものにはなるのではないか。
もちろん、開発中新薬の中には、前臨床試験(動物実験)ではうまくいっても、臨床試験で失敗する事も多いようなので、M1、M4についてもわからない。KarXTがフェーズ2でかなりうまくいったのは、希望になっているのではないだろうか。
KarXTについてはこちらの記事も参考に。
「KarXT」の概要/オランザピンに勝る効き目/体重増加&錐体外路症状が少ない
そこで、この記事では、2022年にもフェーズ2試験が行われるという、ネクセラファーマが開発しているNBI-1117568というM4作動薬の、認知症状への効果について書いてみる。M1に認知機能への効果があることはよく言われている事なので、M4にもあるかどうかを探ってみる。
統合失調症患者にとって、認知機能へ効果があるかどうかは、かなり重要になっているので、NBI-1117568にその効果があるかどうかは、この薬の重要性を決めることにもなるかもしれない。
NBI-1117568自体の認知機能改善効果については、ネクセラは、まだはっきりとしたことは言っていないようだ。そこで、NBI-1117568ではない薬でM4受容体に作用する薬について、前臨床試験(動物実験)などの調査論文を見てみる。M4作動薬もM1作動薬と同じく、認知機能への改善効果があるか、特にその可能性を探ってみる。
M4アロステリック作動薬について
それで、M4作動薬にも認知機能を改善する可能性があると言いたいのだが、その根拠は今、臨床試験、前臨床試験の段階にあるM4受容体に作用する薬のうちいくつかの薬で、そのような改善効果が見られるという事にある。その調査結果等について次の項から書く。
その前に断っておきたい事がある。これから、VU0467154、VU0152100、CVL-231、というM4受容体に作用する薬について説明するが、これらはM4受容体に間接的に作用するだけのアロステリック作動薬となっている。ネクセラのM4作動薬のNBI-1117568のような、直接M4受容体に作用するオルソステリック作動薬ではない。
NBI-1117568のようなオルソステリック作動薬は、通常の薬剤と同じように、受容体のオルソステリック部位(真の部位)に直接結合し、神経伝達を起こす。
一方、オルソステリック作動薬でなく、CVL-231などのアロステリック作動薬は、M4受容体のアロステリック部位(別の部位)に結合する事で、アセチルコリンに対する感受性を上げる形で間接的に、コリン作動性神経伝達を促進させる薬剤。
オルソステリック作動薬とアロステリック作動薬は両方とも、認知症や統合失調症患者の脳において障害されている、コリン作動性神経伝達を促進させる作用があるという点では同じ。
なので、おそらくCVL-231などのアロステリック作動薬で認知症状を改善できれば、ネクセラの開発しているオルソステリック作動薬であるNBI-1117568でも認知症状を改善させる効果があると期待していいと思う。
しかし、アロステリック作動薬とオルソステリック作動薬という違いがある事を前提としている事を断っておく。
VU0467154(M4アロステリック作動薬1)
まず、VU0467154というM4アロステリック作動薬を、マウスに10日間に渡って投与し、その認知機能や陽性症状への改善効果を測定した、次のような調査がある。英語論文へのリンクはこちら。
Cognitive enhancement and antipsychotic-like activity following repeated dosing with the selective M4 PAM VU0467154
MK-801という麻薬に似た薬を使って、統合失調症のような症状を起こさせたマウスや、M4受容体を設計している遺伝子をノックアウト(無効化)したマウス(M4ノックアウトマウス)や、健康なマウスを使って、VU0467154の認知症状や陽性症状への効果が調べられた。
具体的には、VU0467154を使用した次の実験1~6によって、学習や記憶の獲得や固定の程度が測定され、また陽性症状で見られる自発運動の亢進をどれだけ抑制できるかも測られた。
実験1(PWD課題による認知機能への改善効果の測定)
まず、タッチスクリーンに映る2種のものをどちらであるか識別する課題(touchscreen visual pairwise discrimination tasks、PWD課題)が、健康なマウスに課せられ、VU0467154の認知機能改善効果が調べられた。
マウスには、10日間、VU0467154をそれぞれ、0mg/kg(投与なし)、1.0mg/kg、3.0mg/kg、10mg/kg、投与された。
10日間に渡って行われたその課題の、正確性、習得率、完遂数、セッション時間、正答までの反応遅延時間などが測定された。
結果は、1.0mg/kgと3.0mg/kgのVU0467154を投与したマウスが、特に成績が良く、VU0467154を投与しないマウスより有意な上達が見られた。
※図についての説明
VU0467154が、それぞれの日のセッション60分前に投与され、タッチスクリーンに映る2種のものをどちらであるか識別する課題(PWD課題)が課された。図にある項目A~Eの5つが測定された。A)PWD課題を10日間それぞれ、どれだけ正確にこなすか、正解した割合(%)。B)PWD課題を10日間それぞれ、どの位のマウスが習得するか。80%の正確性を越えたマウスの割合(%)。C)完遂された作業の平均総数。D)セッションにかかった平均時間。E)正しい答えをするまでの平均遅延時間。
図では例えば、正確さ(A)や習得率(B)で、■(1.0mg/kg)と▲(3.0mg/kg)が、●(投与なし)よりも上側に線がきている。VU0467154を投与することによって、2、3日課題の習得が早まっている。
マウスへのPWD課題では、VU0467154の認知機能への改善効果が示された。
実験2(改善効果はM4受容体への作用を通したものなのか)
次に、その認知機能の改善が、VU0467154によるM4受容体への作用を通したものなのかどうか、をM4ノックアウトマウスを使って調べられた。
VU0467154を3mg/kg投与したM4ノックアウトマウスと、投与しなかったM4ノックアウトマウスを用意して、実験1と同じ課題が課された。
その結果、両者に課題における成績の違いが見られなかった。
実験2において、M4受容体を欠損させたマウスにVU0467154を投与しても効果はあらわれなかった。この事は、実験1で見られたVU0467154の認知機能への効果が、まさにM4受容体への作用を通している事を示している。
実験3(効果は習得の容易化、記憶固定化の促進、どちらに依るのか)
そして、VU0467154が、マウスの課題習得について改善効果を引き起こした事は、習得を容易にさせた事によるのか、それとも記憶の固定を促進させたことによるのか、どちらなのかが調べられた。
VU0467154を3mg/kg、セッションの60分前に投与したマウスと、セッションの直後に投与したマウスと、何も投与しなかったマウスが比較された。10日間に渡って、実験1と同様の課題が課され、それぞれの上達の程度が測定された。
もし、セッション前に投与されたマウスの方が、課題の上達において上回れば、VU0467154は、より課題の習得を容易にさせる効果をあらわしたことになる。
一方もし、セッション後に投与されたマウスの方が、課題の上達において上回れば、VU0467154はより記憶の固定に効果をあらわしたことになる。
結果は、セッション前にVU0467154を投与しても、セッション後にVU0467154を投与しても、課題の上達に有意な差は見られなかった。
しかし、両方とも、投与しなかったマウスよりは、有意に成績が良かった。
※図についての説明
正確さ(A)、習得率(B)において、■(セッション前投与)と▲(セッション後投与)が、●(投与なし)よりも上側に線がきている。つまり、VU0467154をセッションの60分前に投与したマウスと、セッションの直後に投与したマウスが、何も投与しなかったマウスよりも有意に上達が速かった。
さらに、60分前に投与したマウス(■)の方が、セッションの直後に投与したマウス(▲)よりも正確さ、習得率において少しだけ良い成績に見えるが、統計的に有意な差とはなっていないようだ。
論文著者は、VU0467154は、記憶の獲得の容易化と記憶の固定化、両方を高める事を通して、学習を促進させる効果があるかもしれない、と言っている。
実験4(10日投与と1日投与で認知機能への改善効果に差があるか)
1回だけのVU0467154の投与と、10日間に渡る10回繰り返しの投与で、記憶の獲得に差があるのかが調べられた。
合図依存的条件付け行動停止パラダイム(cue-dependent conditioned freezing paradigm)という方法で調べられた。
この方法は要するに、まず、バニラの香りをさせたり、白い光を点けたりした後に、マウスに電気ショックを流す。そのパターンを繰り返して覚えさせる。
その後24時間の間を置いた後、安全な所で同じ香りと光を起こした時に、電気ショックなしでもマウスがフリーズ(動きの停止)をするか、が調べられた。
フリーズする事は、おそらく苦しみに耐える姿勢をとっている事を、意味していると思われる。同じ香りと光が起こった後にフリーズしたという事は、24時間前に電気ショックがそれらの後に流れたという事を覚えている。フリーズをして苦しみを受ける態勢をつくっていると思われる。
フリーズすれば、記憶の獲得がなされたという事で良い結果という事になる。
そして結果は、1回だけVU0467154を3mg/kg投与されたマウスは、50%程度の割合でフリーズが見られ、10mg/kg投与されたマウスは、60%の割合でフリーズが見られた。
10日間10回VU0467154を3mg/kg投与されたマウスも、50%程度の割合でフリーズが見られ、10mg/kg投与されたマウスは、60%の割合でフリーズが見られた。
つまり、1回投与と10回投与でほとんど記憶の獲得能力に差がなかった。
一方、VU0467154を全く投与されなかったマウスは、40%弱の割合でしかフリーズが見られなかった。
VU0467154を投与されたグループが、投与されなかったグループより、有意に多く記憶の獲得が見られた。
※図についての説明
図では、VU0467154の1回投与と10回投与の間にはほとんど差がないように見える(3mg投与の赤の棒グラフ同士、10mg投与の青の棒グラフ同士、はだいたい成績が同じ)。また、投与なし(黒の棒グラフ)が一番成績が悪く、10mg/kg投与(2つの青の棒グラフ)が一番成績が良く、3mg/kg投与(2つの赤の棒グラフ)はその中間になっているように見える。
繰り返してまとめると、1回だけVU0467154を投与しても、10日間10回投与しても、記憶の獲得の改善に差がない。しかし、投与しないと記憶の獲得の改善が起こらない。
実験5(MK-801投与による認知機能低下をどれだけ防げるか)
次に、VU0467154を10日間投与したマウスに、MK-801という麻薬に似た薬を使って認知機能を低下させた場合、VU0467154によって、どの程度認知機能低下を防ぐことができるのかが調べられた。
実験4の合図依存的条件付け行動停止パラダイムと似た、文脈的条件付け行動停止パラダイム(contextual conditioned freezing paradigm)という方法で実験が行われた。
この方法は、香りや光などの合図によって電流をマウスに流すのではなく、ある部屋をコンテキスト(文脈)として覚えさせる方法になっている。
ある部屋にマウスを置いて、合図なく無条件に電流を流す事を繰り返した後、その部屋から出して、安全な所にマウスを置く。その後また、24時間後に電流が無条件に流れる部屋に入れる。
そこで、電流を流すことなく、部屋に入れただけでマウスにフリーズ(動きの停止)が見られるかテストされた。
フリーズが見られれば、その部屋をコンテキスト(文脈)として覚えたという事。記憶の獲得が起こったという事で、良い結果ということになる。
まず、実験前の10日間に渡って、何も投与しないグループと、VU0467154を3mg/kg投与するグループと、10mg/kg投与するグループにマウスが分けられた。
そして、実験の30分前にその3つのグループをさらにそれぞれ半分に分け、MK-801という認知機能を低下させる薬を0.1mg/kg投与するグループと塩水が投与されるグループにそれぞれ分けられた。つまり6つのグループに分けられた。
そして、上で言ったような文脈的条件付け行動停止パラダイムという方法で、それぞれのマウスのグループにどれだけの割合でフリーズが起きたか、つまり、記憶が獲得されたかが調べられた。
結果は、VU0467154を投与したグループに、有意に認知機能の改善(記憶の獲得)が見られた。
MK-801によって認知機能を低下させたマウスの中で、10日間、10mg/kg、VU0467154を投与されていたマウスには、フリーズが70%強の割合で見られたが、何も投与されなかったマウスには、50%程度の割合でしかフリーズが見られなかった。
※図についての説明
実験30分前に塩水を投与したグループ(黒と灰色の棒グラフ)には、事前にVU0467154を投与していてもしていなくても両方とも、フリーズが70%近く見られ、認知機能が低下が見られない。実験30分前にMK-801を投与したグループ(茶色と赤と青の棒グラフ)の中で、事前にVU0467154を10mg/kg投与していたグループには、認知機能の低下が見られないが、投与していないグループと3mg/kgしか投与されていないグループには、フリーズした割合が低く、認知機能の低下がみられる。
まとめると、10mg/kgという高用量のVU0467154を、10日間服用していたマウスは、MK-801という認知機能を低下させる麻薬のようなものが投与されても、認知機能が障害されることがなかった。
実験6(陽性症状への効果はあるか)
最後に、陽性症状へのVU0467154の効果が調べられた。統合失調症の陽性症状のような状態も引き起こす、MK-801という薬を投与したマウスの自発運動の亢進を、VU0467154がどれだけ抑えられるか測定された。
まず、実験前の10日間、10mg/kg、VU0467154を投与するグループ、実験直前の1日だけ10mg/kg、VU0467154を投与するグループ、何も投与しないグループに分けられた。
実験中に全てのグループのマウスにMK-801が0.3mg/kg投与された。
そして、オープンフィールドで120分間、それぞれのグループのマウスが、どれだけの距離を移動したかが記録された。
結果は、前もって10日間または1日間、VU0467154を投与されていたグループは、投与されなかったグループに比べて、MK-801による自発運動の亢進が、有意に抑制された。
120分間の総移動距離は、10日間VU0467154を投与されていたグループが1500cm強で、1日だけVU0467154を投与されたグループが2500cm弱で、投与されなかったグループは4000cm強だった。
※図についての説明
VU0467154を投与しなかったグループは、120分の移動距離が4000cm強と多い。1日投与のグループは2500cm弱で、MK-801による自発運動の亢進が抑制されている。10日投与のグループは1500cm強で、MK-801による自発運動の亢進がかなり抑制されている。
VU0467154は、MK-801によるマウスの自発運動の亢進を抑制し、統合失調症の陽性症状を抑える可能性があるという結果になった。
1~6の全ての実験の結果から、VU0467154を繰り返し何日間か投与することによって、学習や記憶の多様な面に渡って改善がされ、陽性症状も改善されるという、説得力のあるエビデンスが示された。
VU0152100(M4アロステリック作動薬2)
VU0467154の項が思ったよりかなり長くなってしまったので、後の2つの薬は簡単な説明にとどめる。
他の前臨床試験にあるM4アロステリック作動薬にVU0152100というものがある。英語論文へのリンクはこちら。
Antipsychotic Drug-Like Effects of the Selective M4 Muscarinic Acetylcholine Receptor Positive Allosteric Modulator VU0152100
この薬についても、陽性症状への効果や認知症状への効果が調べられた。マウスにアンフェタミンという麻薬を投与し、統合失調症のような症状をつくりだして、VU0152100にどれだけ改善効果があるか、1回の投与だけについて調べられた。
いろいろな実験が行われたが、認知機能については、2つの実験が行われた。一つは、VU0467154でも行われた文脈的条件付け行動停止課題(contextual fear conditioning)による実験。
もう一つは、アンフェタミンによって障害されたプレパルス抑制(prepulse inhibition)を、どれだけVU0152100が改善できるかという実験が行われた。
結果は、両方の実験でVU0152100は、アンフェタミンによって障害された認知機能を改善した。しかし、アンフェタミンによって障害されていないマウスの認知機能については、向上させるという効果はなかった。
論文著者は、通常の学習や記憶プロセスには、M4は必要ないかもしれないと言っている。VU0152100は、アンフェタミンなどによって認知機能が障害された時だけ効果をあらわすようだ。
VU0152100については、M1作動薬やM1アロステリック作動薬よりも、認知機能への効果が高かったという別の調査結果もある。概要しか読めないが、英語論文へのリンクはこちら。
Effects of Selective Activation of M1 and M4 Muscarinic Receptors on Object Recognition Memory Performance in Rats
記憶能力をどれだけ改善するかが調べられ、M1作動薬の VU0364572、M1アロステリック作動薬のBQCA、M4アロステリック作動薬のVU0152100、の3つすべての薬で改善が見られた。が、VU0152100に一番強い改善が見られた。
CVL-231(M4アロステリック作動薬3)
詳しい事は省くが、CVL-231というM4アロステリック作動薬も、認知機能を改善する効果がある可能性があるようだ。
心拍数の上昇などのあまり良くない副作用がみられるようだ。フェーズ1b試験も行われている。もしもフェーズ2が行われたら、記事にしたいと思う。
M4アロステリック作動薬まとめ
VU0467154とVU0152100とCVL-231という、少なくとも3つのM4アロステリック作動薬で認知機能を改善する可能性があるという事を書いた。
これをもって、同じM4受容体に作用する、NBI-1117568も認知機能を改善する可能性があると期待してもいいと思う。
NBI-1117568に認知症状を改善する効果があれば、多くの患者に選択されるような薬になるだろう。
NBI-1117568の開発状況
自分の予測では、NBI-1117568の日本発売は、早くても2030年です。米国では、2028年前後の発売が見込まれています。うまくいった場合には2027年内の米国発売もあり得るそうです。
コメント
この記事は、試しに前臨床試験について書いてみた。長くなってしまって、かなり疲れた。
そもそも、M4作動薬のNBI-1117568を待たなくても、M1、M4両方の作動薬であるKarXTは、もう既にフェーズ3試験が終わっている。
こんな長々とした、M4が認知機能を改善するという主張はいらないかもしれない。しかも、KarXTの方は、既にマウスでなくヒトに対するパイロットテストで、認知機能改善が示されている。
そうなのだが、KarXTがあまりうまくいかない事もまだあり得る。
だから、この記事は、NBI-1117568に限らず、これから出てくるM4作動薬やM4アロステリック作動薬も含めた薬、に関する記事としても見てもらえたらいいと思う。
特にM4アロステリック作動薬は、もしかしたら、これから良さそうなものが複数出てくるかもしれない。
関連記事はこちら。
【フェーズ2試験成功】「NBI-1117568」結果データの詳しい分析/オランザピンに勝る有効性
ネクセラのM4作動薬「NBI-1117568」はKarXTやエムラクリジンに勝るか
【2024年発売】ダリドレキサント(オレキシン受容体拮抗薬)【睡眠薬】(2024.2.23修正)
【フェーズ1b試験】エムラクリジン/KarXT並の有効性/消化器系副作用が軽い
【フェーズ2試験/EMERGENT-1】KarXT、オランザピンに勝る有効性を示す(1回目)
追記:ムスカリン作動薬全体についてまとめた記事もあります。おすすめ記事です。
【革新的】開発中の抗精神病薬まとめ(前半)/ムスカリン作動薬【初心者用記事】
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