この記事は、当ブログを深く理解してもらうためには最重要の記事です。なるべく理解しておいてもらいたいです。熱心な読者であれば、印刷して読んだり、繰り返し読む事を推奨します。今後も、なるべくわかりやすくなるようにリライトしていきたいです。
はじめに
PANSS(パンス)とは
PANSS(Positive and Negative Syndrome Scale、陽性陰性症状評価尺度)は、統合失調症の重症度を測るために使われる尺度(物差し)。
PANSS(パンス)を使った検査では、陽性症状、陰性症状、総合精神病理症状、のそれぞれの重症度が測られる。比較的短い面接(45~50分)によって測られて、重症度はスコア化される。
家族や、患者が通院している病院職員、などからの報告も参考にしてスコアが決められる。 スコアが高いほど重症度が重い。
治験でのPANSSの利用
治験では、薬の有効性を測るために、薬の投与前と、薬の投与後(何週間か後)、の両方のタイミングで治験参加者のPANSSのスコアを測定する。
当然、薬を投与した後の方がスコアは低いので、前後の差を見れば重症度の改善度合いがわかる。差が大きいほど、つまり減少幅が大きいほど、薬の有効性が高いとされる。
この記事では、プラセボとの差、95%信頼区間、効果量、p値などの、薬の有効性の値について詳しく書く前に、その前提知識を書く。PANSS(パンス)について少しばかり説明する。
合計スコア、陽性スコア、陰性スコア、総合精神病理スコア
上に書いた通り、PANSSを使った検査では、陽性症状、陰性症状、総合精神病理症状、のそれぞれの重症度が測られる。
「陽性症状」の重症度の測定のためには、陽性尺度7項目がある。「妄想」や「幻覚」などの7項目、の重症度の度合いが点数化される。(その全ての項目の「一覧」については、この記事の後半部に載(の)せた。)
それぞれの項目は、7段階(1点~7点)で点数がつけられる。症状なしには1点がつけられ、最重度の場合7点がつけられる。
つまり、PANSS陽性スコアは、合計して最低7点、最高49点の間で点数が付けられる。点数が高いほど、重症度が重い。
「陰性症状」も、同様に陰性尺度7項目について、それぞれ7段階の点数がつけられる。PANSS陰性スコアも、合計して7点~49点で点数がつけられる。
「総合精神病理症状」についても、同様に、総合精神病理尺度16項目について点数がつけられる。
PANSS総合精神病理スコアは、合計して16点~112点の間で点数がつけられる。
さらに、陽性尺度の7項目と、陰性尺度の7項目と、総合精神病理尺度の16項目、合わせて30項目のスコアは合計されて、PANSS合計スコアというものになる。
つまり、PANSS合計スコアは、30点~210点の間になる。
PANSS陽性スコアは、7点~49点の間で点数がつけられる。
PANSS陰性スコアも、7点~49点の間で点数がつけられる。
PANSS総合精神病理スコアは、16点~112点の間で点数がつけられる。
PANSS合計スコアは、30点~210点の間で点数がつけられる。
「実際の調査」でのPANSSの点数
あるPANSSを使った調査では、101人の統合失調症患者がテストされ、平均スコアは次のように出た。具体例を書くだけでも書いておく。
PANSS陽性スコア 平均18.20点 (7~49点)
PANSS陰性スコア 平均21.01点 (7~49点)
PANSS総合精神病理スコア 平均37.74点 (16~112点)
PANSS合計スコア 平均76.95点 (30~210点)
PANSSの点数と「重症度」
一般的に、PANSS合計スコアで、統合失調症の重症度は次のように判断される。
正常 30-58点
軽度 58-75点
中等度 75-95点
重症 95-116点
最重度 116-210点
上のPANSSを使った101人の患者の調査において、101人の統合失調症患者のPANSS合計スコアの平均は、76.95点だった。なので、その101人の患者は、平均して中等度の重症度だったようだ。
PANSSの点数と「薬の有効性」
PANSSスコアについて、もう少し馴染(なじ)んでもらうために、いくつか見つけた基準値を載(の)せておく。
抗精神病薬が投与されて、PANSS合計スコアを何%減少させるかによって、その薬は次のように評価される。
大幅な改善
一週間で40%減少 2週間で45%減少 4週間で51%減少 6週間で53%減少
最小限の改善
1週間で19%減少 2週間で23%減少 4週間で26%減少 6週間で28%減少
例えば6週間後に、ある薬がPANSS合計スコアを53%減少させるとする。そうすると、その薬は、最重度の症状(116点位)の患者を、軽度の症状(58点位)にまで劇的に改善させる位の効果がある。大幅な改善をさせる薬と評価される。
6週間後に、PANSS合計スコアを28%減少しかさせない薬の投与の場合では、最重度の症状(116点位)の患者であっても、中等度の程度の症状(75点位)にさえならないという事になる。最小限の改善しかさせない薬と評価される。
「ルマテペロン投与」によるPANSSスコア減少幅
治験で、開発中の薬によって、どれ位PANSSスコアが減少したか、1つだけ具体例を書いておく。
例えば、ルマテペロン42mg投与の場合を見てみる。ルマテペロン42mgは、治験参加者のうちの148人に投与された。4週間に渡って投与された。
ルマテペロン投与前に、その148人の患者のPANSS合計スコアの平均は、約90点で、陽性スコアは約26点、陰性スコアは約21点、総合精神病理スコアは約43点、だった。
合計スコアが、90点という事は、投与前は、平均して中等度くらいの統合失調症の症状だったようだ。
ルマテペロン投与後の4週間後には、PANSS合計の平均スコアは約74.4点、陽性スコアは約21.2点、陰性スコアは約19.6点、総合精神病理スコアは約35.3点に減少している。
ルマテペロン投与によって、PANSS合計スコアは15.6点減少し、軽度の症状にまで改善した。17%の減少幅で、最小限の改善よりも少ない改善幅だった。
4週間で、この位の改善幅(減少幅)しかなくても、プラセボと比べて統計的に有意に改善している場合、販売の承認が出るようだ。
終わりに(4つの有効性の値)
治験では治験薬投与によるPANSSスコアの減少幅は、さらにプラセボ薬のPANSSスコアの減少幅と比べられる。
そうして、「プラセボとの差」という有効性の値が算出される。また一緒に「プラセボとの差」の「95%信頼区間」も算出される。
「プラセボとの差」を「標準偏差」で割り算して標準化すると、「効果量」になる。「効果量」は、当ブログで、特に重要視しているデータ。
「プラセボと比べて統計的に有意な改善があるか」つまり「治験が成功か失敗か」について知るためには、「p値」が算出される。
算出されるこれら4つの有効性の値については、次の記事で書いています。
統失治験薬の有効性の見方&有効性データ例
付記:3つの尺度の評価項目
陽性症状スコア評価項目 (7項目、合計して7点から49点の間)
- 妄想
根拠がなく、非現実的で風変わりな確信。
面接中に表明された思想内容と、それが社会関係や行動に及ぼす影響を評価する。
- 概念の統合障害
目的指向性の障害として特徴づけられるような、思考過程の統合不全。
例えば、でまかせ応答、支離滅裂、連合弛緩、不合理な推論、非論理性や思考途絶。
面接中に観察された認知・言語的な処理過程を評価する。
- 幻覚による行動
外的刺激によらないで惹起された知覚を示すような行動や言語表出。
聴覚、視覚、嗅覚、体性感覚の領域に起こる。
面接中にみられた言語的、身体的表出と家族ないし看護職員の報告に基づいて評価する。
- 興奮
行動の増大、刺激反応性の亢進過剰警戒、気分易変性の増大に示されるような活動性亢進状態。
面接中にみられる言語的表出と家族ないし看護職員の報告に基づいて評価する。
- 誇大性
過大な自己主張と優越性の非現実的な確信。
常軌を逸した能力、富、知識、名声、権力、道徳的正当性などの妄想が認められる。
面接中に表明される思考内容とそれが行動に及ぼす影響について評価する。
- 猜疑心
迫害されるという非現実的で誇張された観念。
用心深く疑い深い態度、過度の警戒心、他人が自分を傷つけるというあからさまな妄想に示される。
面接中は表明される思考内容とそれが行動に及ぼす影響に基づいて評価する。
- 敵意
怒り、憤りの言語的ないし非言語的表明、皮肉、受動・攻撃行動、言語的暴力、攻撃性に示される。
面接中にみられる対人行動と家族ないし看護職員の報告に基づいて評価する。
陰性症状スコア評価項目 (7項目、合計して7点から49点の間)
- 情動の平板化
情動反応性の減少をさす。
表情、仕草、適切な感情表現や乏しさに表れる。
感情基調や情動反応性の身体的表現を面接時の観察に基づいて評価する。
- 情動的ひきこもり
周囲の出来事に対して、興味や関心を示さないこと。
面接時の対人行動の観察と家族ないし看護職員の報告に基づいて評価する。
- 疎通性の障害
会話の共感性と開放性に欠け、面接者への親近感や関心もないこと。
言語的・非言語的コミュニケーションの減少と対人的距離によって明らかになる。
面接時の対人行動に基づいて評価する。
- 受動性または意欲低下 による社会的ひきこもり
受動性、無欲性、欲動欠如、意志欠如のため、社会交流に対して関心や自主性が減少すること。
そのため対人関係は減少し、日常生活にも無関心になる。
社会性について家族ないし看護職員の報告に基づいて評価する。
- 抽象的思考の困難
抽象的・象徴的形式で思考することが障害されていること。
分類することや一般化することの困難さ、問題解決におけるかたくなさや自己中心的な考えが優位になっていることによって認められる。
類似性とことわざ問題に対する反応および面接の中の具体的・抽象的思考を評価する。
- 会話の自発性と流暢さの欠如
無気力、意欲低下、防衛、あるいは認知面での欠陥と関連して会話の正常な流れが滞ること。
これは言語的な交流の過程における流暢さや生産性の減少としてあらわれる。
面接中に観察される認知・言語過程を評価する。
- 常同的思考
思考の流暢さ、自発性、柔軟さが減る。
生硬で繰り返しが多く、貧弱な思考内容である。
面接の際に観察される認知・言語過程を評価する。
総合精神病理症状スコア評価項目 (16項目、合計して16点から112点の間)
- 心気症
病気であるとかあるいは調子が悪いという、身体に関する訴えや確信。
これは、調子が悪いという漠然とした感覚から不治の身体疾患であるという明らかな妄想まで範囲が広い。
面接で表明される思考内容を評価する。
- 不安
神経過敏、心配、憂慮、焦燥感という主観的経験をいう。
現在あるいは将来についての過度の心配から恐慌感までの範囲がある。
面接中に表明された内容とそれに相応する身体症状を評価する。
- 罪責感
過去に実際にあった、あるいは想像上の悪行に対する自責感や自己嫌悪、面接では表明される自責感とそれが行動や思考に及ぼしている影響を評価する。
- 緊張
硬直、振戦、多量の発汗、落ち着きのなさのように、恐怖感、不安感、焦燥感が明らかに身体に表されていること。
不安であることを証拠だてる言語的表明と面接中に観察される緊張の身体的表現の重篤性を評価する。
- 衒奇症と不自然な姿勢
ぎこちない、大げさ、混乱した、あるいは奇妙な外見により特徴づけられる不自然な姿勢。
面接時の身体による表現の観察と看護職員ないし家族からの報告に基づいて評価する。
- 抑うつ
悲哀、落胆、無力、虚無などの感情。
面接中に表明される抑うつ気分と態度や行動への影響を観察して評価する。
- 運動減退
動作や会話が停滞したり少なくなったり、刺激に対する反応が減少したり、体の張りがなくなることに示される運動活性の減退。
面接中に観察される症状と看護職員ないし家族の報告に基づいて評価する。
- 非協調性
面接者、病院職員、家族など重要な他者の意向に同調することを積極的に拒否すること。
不信感、防衛、頑固さ、拒絶、権威に対する反発、敵意あるいは闘争性などを伴うこともある。
面接中に観察される対人行動と看護職員ないし家族の報告に基づいて、評価する。
- 不自然な思考内容
風変わり、夢想的あるいは奇異な考えに特徴づけられる思考。
その内容は的外れや典型的でないものから、歪んだ、不合理な、そしてまったく突飛なものまで含まれる。
面接中に表明された思考内容を評価する。
- 失見当識
人物、場所、そして時間を含む環境と自分との関係に対する認識の欠如。
錯乱や自閉が原因として考えられる。
見当識に関した質問に対する反応を評価する。
- 注意の障害
注意の集中困難をいう。
内的・外的な刺激により注意散漫となり、新しい刺激に対して注意を移したり、保持したり、構えたりすることに困難を示す。
面接中の所見に基づいて評価する。
- 判断力と病識の欠如
自分自身の精神状態、生活状況に対する自覚または理解の障害。
この障害は過去あるいは現在の精神疾患や精神症状を理解できないこと。
精神科への入院あるいは治療に対する拒否、結果に対する見通しのまずさが目立つ決断や、非現実的な長期ないし短期的計画などによって示される。
面接中に表明される思考内容を評価する。
- 意志の障害
思考、動作、行動、会話における自主的な開始、持続、および維持の障害。
面接中に認められる思考内容および行動を評価する。
- 衝動性の調節障害
突発的で抑制を欠いた気分の変動や、後先を考えない緊張や情動の暴発をもたらすような、内的な促迫に対する行動の抑制や調節の障害。
面接中の行動と看護職員ないし家族の報告に基づいて評価する。
- 没入性
内的に生じた思考と感情に気を取られ、自閉的な体験に埋没して、現実的な見当識、適切な行動が失われる。
面接中に認められた対人行動を評価する。
- 自主的な社会回避
理由のない恐怖感や敵意あるいは不信感を伴い、社会との関わりが制限されていること。
看護職員ないし家族の報告に基づいて評価する。
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