はじめに
この記事では、(前半)の記事に続き、今後発売される、「革新的」な統合失調症薬についてまとめます。主にウロタロントについて書きます。
注目度の高いソリアン、ベタイン、イクレペルチン(BI425809)についても、少しだけ付け加えます。
(前半)のムスカリン作動薬についての記事はこちらです。
【革新的】開発中の抗精神病薬まとめ(前半)/ムスカリン作動薬【初心者用記事】
非定型抗精神病薬
ムスカリン作動薬の記事でも書きましたが、現在、統合失調症に最もよく使われている薬は、非定型抗精神病薬です。非定型抗精神病薬の「問題点」として、次のようなものがあります。
- 陰性症状や認知機能障害への効果が十分でない。
- 体重増加がある。
- 錐体外路症状がある。
- 20%~30%の患者(治療抵抗性の統合失調症患者)については、陽性症状を抑えられない。
ウロタロント
ムスカリン作動薬と同様、ウロタロントもこれらの問題点を解決したり、軽減できる可能性があります。
以下では、ウロタロントの陰性症状、体重増加、錐体外路症状、治療抵抗性の統合失調症、その他の精神疾患、への効果について書きます。
陰性症状
ウロタロントは、「陰性症状」への効果が、他の薬と比べて、高い可能性があると思います。
特に、長期試験では、BNSSやPANSS陰性尺度などの尺度で、「強固な改善」効果が示されています。
おそらく、ウロタロントは、鎮静的に作用する人より、賦活的(ふかつてき)に作用する人の方が、多くなると思います。元気が出やすいかもしれません。
副作用のデータを見てみると、飲み始めは「眠気」の副作用が出る人の方が、若干(じゃっかん)多いです。けれど、長期的に見てみると、眠気より「不眠」が出る人の方が多いです。
やはり、鎮静的というより、賦活的な薬なのかもしれません。
ウロタロントには、セロトニン5HT1A受容体刺激作用もあります。この作用が、賦活的な効果を高めている、という事もあるかもしれません。
ウロタロントは、大(だい)うつ病の補助薬としての適応も、目指されています。うつ病に効果があるとなれば、陰性症状にも効くという事もあるかもしれません。
ウロタロントは、陰性症状を改善する効果が、高い可能性があると思います。
米国で発売されたら、使用者の感想も報告したいです。Redditなどを見て、実際に服用している人の感想を見ていきたいと思っています。
陰性症状への効果についても、どの程度の効果があるか、わかるかもしれません。
体重増加、錐体外路症状
ウロタロントは、「体重増加」が少ないです。ムスカリン作動薬よりも、さらに少ないです。「体重減少」が副作用として出る人もいます。食欲抑制効果や代謝改善効果もあります。
「錐体外路症状」も、フェーズ2試験で、「3.3%」しか出ていません。プラセボでも3.2%出ているので、プラセボと同等になっています。その「3.3%」も、ウロタロントが原因で発生したかはわかりません。
錐体外路症状は、ほとんどないと言っていいかもしれません。
さらに、ウロタロントは、既存の抗精神病薬に(少量)追加されて、体重増加や錐体外路症状を、「軽減」できる可能性があります。動物実験でそのような効果が見られています。
ウロタロントは、体重増加や錐体外路症状が、ほとんどないです。むしろ、既存の抗精神病薬に追加されて、それらを軽減する効果があるかもしれません。
治療抵抗性の統合失調症
ウロタロントは、非定型抗精神病薬と作用機序が違います。作用機序が異なる薬の場合、併用すれば、有効性を「増強」できる可能性があります。動物実験でも、そのような効果が見られています。
非定型抗精神病薬だけでは十分に症状を抑えられていない人や、治療抵抗性の統合失調症の人は、ウロタロントを追加する事によって、症状を改善する事ができるかもしれません。
ウロタロントは、非定型抗精神病薬と一緒に使われる事で、薬が十分に効いていない人の症状を、改善できる可能性があります。
その他の効果
ウロタロントは、サルの実験で、「認知機能」を改善する効果が見られています。
また、動物実験で、抗うつ効果、抗社会不安障害的効果、薬物依存を治す効果、日中の覚醒を促進する効果、などが見られています。
ウロタロントには、様々な良い効果があり、いろいろな症状を改善させる可能性があると思います。
開発状況
米国では2024年、日本では2027年、の発売が目指されていますが、米国でのフェーズ3試験に失敗したので遅れる可能性があります。
2024年1月31日時点の住友ファーマの資料には「今後の統合失調症の開発⽅針を踏まえて上市⽬標時期を⾒直す予定」と書いてあります。
また、「統合失調症開発継続の場合には、追加検証試験が必要になるものと考えている」とも書いてありました。追加の試験が行われる事もあるかもしれません。
以下2024.6.27追記:
大塚製薬の資料には「第4次中期経営計画期間中の(米国での)上市を目指す」と書いてありました。
第4次中期経営計画期間は2028年までなので、2028年までの米国発売が目標という事だと思います。
「現在もう一度統合失調症のフェーズ 3 試験の実施に向けて準備中」らしいです。
日本での発売はいつになるでしょうか。2030年とか2031年になってしまうでしょうか。
ウロタロントまとめ
- 陰性症状への効果が、高い可能性があります。
- 体重増加や錐体外路症状が、ほとんどない可能性があります。
- 非定型抗精神病薬が十分に効いていない人に追加投与される事によって、症状を改善できる可能性があります。
- 既存の抗精神病薬に(少量)追加された時に、いくつかのメリットがある可能性があります。
- 統合失調症以外の様々な精神疾患を、治療できる可能性があります。
ウロタロントについての詳しい記事はこちらです。
「ウロ夕ロント」「フェーズ2試験」長期投与試験の有効性が高い/陰性症状への効果も期待
「ウロタロント」服用による様々なメリット/2028年までの米国発売目標/新しい抗精神病薬
「ウロ夕ロント」の「概要」/ 期待のTAAR1作動薬
ソリアン(LB-102)
ソリアンは今の所、クロザピンに次いで、2番目に有効性が高い薬です。オランザピンやリスパダールより有効性が高いです。特に、陽性症状への効果は、かなり高いです。
日本や米国では、まだ使えない薬です。ソリアンを改良した「LB-102」という薬が、米国で開発されています。
LB-102は、ソリアンより脳に届きやすく、少量で済みます。ですので、高プロラクチン血症が軽減されています。また、一日一回の服用で十分になっています。
低用量で使われた場合には、抗うつ効果や陰性症状の改善効果が、特に高いです。
この薬も、鎮静作用が低く、賦活的(ふかつてき)な薬です。不眠になる事が多く、他に鎮静作用のある薬が必要になる事もあるそうです。
体重増加や錐体外路症状は、並程度あり、発生してしまう人も、いくらかいるかもしれません。
2022年上半期に、LB-102のフェーズ2試験が始まる予定、と言われていましたが、フェーズ2試験はまだ始まっていないようです。
ソリアンは、有効性がクロザピンに次いで2番目に高いです。ソリアンを改良したLB-102は、高プロラクチン血症が軽減されています。けれど、体重増加や錐体外路症状は、並程度あります。賦活効果が高い薬です。
ソリアンについての詳しい記事はこちらです。
「ソリアン(アミスルプリド、LB-102) 」現時点でクロザピンの次に有効性が高い抗精神病薬
ベタイン
ベタインは、ピリドキサミンと同じく、カルボニルストレスを緩和する薬です。
治療抵抗性の統合失調症の人の中に、カルボニルストレスが高まっている人がいるらしいです。特に、治療抵抗性の人たちは、ベタインが効く可能性があります。
ベタインは、広く魚介類や植物に含有している「天然の物質」です。副作用もそれ程ないらしいので、もしかしたら、将来、気軽に「補助薬」として処方されるようになったりするかもしれません。脳の抗炎症作用や神経保護作用もあります。
東大病院がベタインの臨床試験を行い、うまくいったようです。陽性症状を有意に改善させました。東大病院での臨床試験がうまくいった場合、開発計画を進めていくという事になっていました。
今後、開発が始まることを期待したいです。
ベタインは、特に、治療抵抗性の統合失調症に効く可能性があります。普通の患者に効く事もあると思います。よくわかりませんが、他の抗精神病薬の「補助薬」としての適応を目指すのではないでしょうか。
ベタインについての詳しい記事はこちらです。
【東大病院の臨床試験成功】「ベタイン」治療抵抗性の統合失調症にも効く可能性あり
イクレペルチン(BI425809)
抗精神病薬ではないのですが、イクレペルチン(BI425809)という「認知機能障害治療薬」が、開発されています。日本でもフェーズ3試験の段階にあり、比較的、発売に近い薬です。
米国では、FDAによって、「画期的治療薬」に指定されています。グリシン再取り込み阻害薬です。
ものスゴイ効果が高いとまでは、言えないかもしれませんが、ワーキングメモリーを特によく改善するそうです。
初の認知機能障害治療薬として、とても期待しています。フェーズ3試験は、今年(2024年)終わる予定です。
今までの認知機能障害治療薬は、治験がなかなかうまくいっていません。イクレペルチンが発売に至れば、大変素晴らしい事だと思います。
イクレペルチンの追加情報があります。
2024年6月海外掲示板情報/イクレペルチンの期待高まる/認知機能障害治療薬
コメント
ウロタロントは、開発がうまくいけば日本で次に出てくる抗精神病薬です。
この薬も、非定型抗精神病薬が持ついくつかの問題点を、解決または軽減してくれる可能性があります。革新的な薬になる事を期待しています。
関連記事はこちらです。
【革新的】開発中の抗精神病薬まとめ(前半)/ムスカリン作動薬【初心者用記事】
「ウロ夕ロント」「フェーズ2試験」長期投与試験の有効性が高い/陰性症状への効果も期待
「ウロタロント」服用による様々なメリット/2028年までの米国発売目標/新しい抗精神病薬
「ソリアン(アミスルプリド、LB-102) 」現時点でクロザピンの次に有効性が高い抗精神病薬
【東大病院の臨床試験成功】「ベタイン」治療抵抗性の統合失調症にも効く可能性あり
統合失調症の認知機能障害や陰性症状に効く24個の開発中新薬 2023年版
2024年6月海外掲示板情報/イクレペルチンの期待高まる/認知機能障害治療薬
参考文献
- https://www.mdpi.com/1420-3049/27/8/2550/htm
- https://www.nature.com/articles/mp201257
- https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC8704992/#B74-ijms-22-13185
- https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/28723415/
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