はじめに
ウロタロントは、TAAR1アゴニスト(TAAR1作動薬)として働く。また、5HT1A受容体アゴニスト(5HT1A受容体刺激薬)としての作用もある。
TAAR1アゴニストについてまとめた論文が、2021年に書かれている。その内容についていくらか紹介する。
ウロタロントについて書いた元記事はこちら。この記事は少し難しいかもしれない。
「ウロ夕ロント」の概要/様々な服薬メリット/有効性にも期待のTAAR1作動薬
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ヒトへの臨床試験によるエビデンス
まず、TAAR1アゴニストは、ウロタロントの元記事で書いたように、陽性症状への効果が高い可能性がある。ヒトへの臨床試験で示されている。
陰性症状への効果も、PANSS陰性、UPSM-PANSS、MADRS、BNSSなどの尺度で、強固な改善効果が示されている。これもヒトへの臨床試験で示された。
安全性も良好。ドーパミンD2受容体アンタゴニスト(D2遮断薬)としては作用しないので、D2遮断由来の副作用が少ない。例えば、定型抗精神病薬に多い錐体外路症状や、高プロラクチン血症が少ない。
また、非定型抗精神病薬に多い体重増加や糖尿病などの副作用も少ない。
動物実験によるエビデンス
ラットを使った実験では、TAAR1アゴニスト作用を持つウロタロントは、少量をオランザピンと一緒に使われる事によって、体重増加を防いだり、有効性を強化したりしたらしい。
これは注目すべきことだと思う。オランザピンは、体重増加の副作用以外はとても優れた薬で、メタ分析でも、実質、クロザピンやソリアンに次いで有効性が高い薬となっている。
それにオランザピンは、長期的に使われた時にも、陽性症状、陰性症状、認知機能障害、などの改善度合いや、最終的な到達点も、かなり高い薬であると言われる。
ウロタロントなどのTAAR1アゴニストを、少量追加することによって、オランザピンの体重増加を防いだり、効果を高める事ができれば、かなり良い治療方法になると思う。
ただ、まだラットの実験でそう示されただけで、ヒトへも同様の効果があるかわからない。今後よく見ていきたい。
ヒトでも効果が確認されれば、非定型抗精神病薬の到来と同じくらいのインパクトを起こす薬になると思う。
TAAR1アゴニストは他にも、猿の実験で認知機能の改善効果がみられた。
また、ラットなどの実験では、抗うつ効果、抗社会不安障害的効果、薬物依存を治す効果、日中の覚醒を促進させる効果、ADHD改善効果、などがみられた。
また現在、治療抵抗性の統合失調症患者は、クロザピンを使うしかないが、TAAR1アゴニスト作用を持つウロタロントも、治療抵抗性の患者に効く可能性がある。
記事前半まとめ
追記:まとめは少し修正を加えました。
錐体外路症状がほぼないor軽減させる可能性がある。
体重増加がほぼない。(食欲抑制効果や代謝改善効果がある。オランザピンに少量追加された時には、体重増加を防ぐ。)
認知機能を改善する可能性がある。
既存薬に追加された時、有効性を相乗的に増強する。(治療抵抗性の患者に効く可能性がある。)
抗うつ、抗不安、陰性症状などへの効果がある可能性がある。(統失以外の精神疾患に効くかもしれない。)
長期の有効性
ラツーダのアップデート記事で、ウロタロントの長期的な有効性は、少なくともラツーダよりはある可能性があるとわかった。
約半年でPANSS合計スコアが平均101.4点の患者を、平均59.6点まで減少させたということで、長期的に有効性が高い可能性もある。
特に半年という長期的にも、陰性症状を継続的に改善させたということは、やや注目すべきことかもしれない。ウロタロントは、陰性症状への効果が高いかもしれないと述べたニュース記事もいくつか見かけた。
ラツーダの長期有効性と比べても、やはりウロタロントの長期の有効性は高そうに思える。陰性症状への効果も期待されているようだ。
レム睡眠の減少効果
また、ウロタロントの有効性に関係があるかは分かっていないが、ウロタロントは、レム睡眠を減少させる効果があるようだ。
レム睡眠は、眼球運動が見られる浅い眠りで、夢を見ている状態。脳の活動レベルは高い。
逆にノンレム睡眠は、もっと深い眠りで、脳が休んでいる状態。
人は一晩で、レム睡眠とノンレム睡眠を、90~120分周期で交互に繰り返し、4,5回繰り返した後に目覚める。
ウロタロントを投与しても、合計睡眠時間は変化しないので、レム睡眠が減った分、少しだけノンレム睡眠が増加する。
ノンレム睡眠時に出現する徐波睡眠は、睡眠中の記憶の固定や、いくつかの認知プロセスを円滑にする。
なので、ウロタロントがノンレム睡眠を増加させることは、治療的な効果があるかもしれないと言われている。
また、そのような睡眠を深くさせる効果があるのだが、ウロタロントには、TAAR1アゴニストによる日中の覚醒促進効果もあるらしい。
だが一方で、レム睡眠が5%少ないと、心血管疾患による死亡リスクが11%高まり、他の死因による死亡リスクも19%上昇する、という調査報告もある。
脳にとってレム睡眠も必要だとも言われるし、レム睡眠減少効果が、単純には良いことだとは言えないかもしれない。
ウロタロントはレム睡眠を減らす。論文にはいい事のように書いてあったが、良く調べてみるとレム睡眠が減る事が、いい事かどうかはわからない。今後、副作用等の情報もよく見ていきたい。
開発状況
SEP-363856(ウロタロント)は、住友ファーマとサノビオン社によって開発されていたが、2021年9月に、大塚製薬と共同開発及び共同販売のライセンス契約を結んだ。
現在、米国ではフェーズ3、日本でもフェーズ3の開発段階となっている。フェーズ3試験は、米国で2つ失敗している。日本では、2027年発売が目標だが遅れると思われる。
統合失調症だけではなく、他の適応症についても検討されているようだ。
以下2024.6.27追記:
大塚製薬の資料には「第4次中期経営計画期間中の(米国での)上市を目指す」と書いてありました。
第4次中期経営計画期間は2028年までなので、2028年までの米国発売が目標という事だと思います。
「現在もう一度統合失調症のフェーズ 3 試験の実施に向けて準備中」らしいです。
日本での発売はいつになるでしょうか。2030年とか2031年になってしまうでしょうか。
記事後半まとめ
ウロタロントの長期的な有効性も高い可能性がある。陰性症状への効果も期待されている。
ウロタロントは、レム睡眠を減少させる効果がある。良い事か悪い事かは不明。
ウロタロントの開発に大塚製薬が加わった。日本では、現在フェーズ3の開発段階となっている。
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