【東大病院の臨床試験成功】「ベタイン」治療抵抗性の統合失調症にも効く可能性あり

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はじめに

ベタインの記事作成の要望があったので作ります。

ベタインは、広く魚介類や植物などに含有している天然の物質です。脳内でも作り出す事ができます。

ベタインには、脳にも効く「抗炎症作用」がある他、「神経保護作用」がある事が報告されています。

マウスにベタインを与えると、脳の「神経細胞の回復」が見られたり、他のマウスとの「コミュニケーションの回復」が見られたりしています。

2014年に、統合失調症患者の血中では「ベタイン濃度が低下」している事が発見されました。そこで、ベタインを補充すれば、統合失調症が治療できるのではないかと考えられました。

ベタインによる統合失調症の治療についての情報で、今のところ一番価値のある情報は、以下の2つの理化学研究所のプレスリリースだと思います。

統合失調症の新しい治療薬候補の発見―天然代謝産物ベタインの可能性―
ベタインはキネシン分子モーターの機能低下による統合失調症様の症状を改善する

けれど、いろいろとベタインによる統合失調症の治療ついて調べてみたところ、これらの情報以上のものは、あまり見つかりませんでした。

この記事では、やや難しくなってしまうかもしれませんが、自分なりに理解した統合失調症の「カルボニルストレス仮説」について説明します。あまり情報がないのでそれ位しかできません。

一部の統合失調症は、「カルボニルストレス」が原因で起こると考えられています。ベタインピリドキサミンで、カルボニルストレス緩和することができると考えられています。その辺りについて書きます。

主に、リンク先のプレスリリースや、プレスリリースの元になった論文を参考にまとめてみます。

2023.2.1追記:「東大病院」がベタインの臨床試験を行っています。その結果などについて書いた論文を入手したので、「開発状況」のセクションで書きます。

酸化ストレス

カルボニルストレスは、人体が、高い「酸化ストレス」状態に置かれることで生じる。なので、まず少しだけ「酸化ストレス」について説明する。

呼吸をして取り込んだ酸素は、一部「活性酸素」という物質に変わる。 「活性酸素」は人体にとって必要だが、多くなり過ぎると、DNAタンパク質傷つけたりする。その状態を「酸化ストレス」と言う。

酸化ストレス」は呼吸だけでなく、大気汚染、紫外線、加齢、喫煙、激し過ぎる運動、精神的ストレスなどによっても高まる。

活性酸素」が強く働きすぎて、「酸化ストレス」が過剰になると、がん、糖尿病、心筋梗塞、アルツハイマー病など、様々な病気になるリスクが高まる。また、シミ、シワ、白髪、脱毛、集中力の低下、疲労しやすくなるなど、老化を促進する。

過剰な「酸化ストレス」を防ぐには、適度(てきど)な運動をして体の抗酸化力を高めたり抗酸化作用のある食材摂取したり、睡眠不足ストレス解消して抗酸化力を高めたりする事、などが必要になる。

カルボニルストレス

高い酸化ストレス」は、「カルボニルストレス」にもつながる。

高い酸化ストレス」状態に置かれると、体内の「糖質など」から、「反応性カルボニル化合物」と呼ばれる物質が生成される。

さらに、「反応性カルボニル化合物」は、「タンパク質」を化学的に変化させ、「終末糖化産物」(Advanced Glycation End-products、AGEs、エージーイー)と呼ばれる物質を生成させる。

終末糖化産物」は細胞にとって有害な物質。「終末糖化産物」が多量に蓄積する状態を「カルボニルストレス」と呼ぶ。

また、タンパク質が「終末糖化産物」になることを「カルボニル化」と言う。

CRMP2タンパク質のカルボニル化

今のところ、カルボニルストレス仮説では、統合失調症の原因として、次の2つの要因が考えられている。

  1. CRMP2タンパク質」のカルボニル化不活性化
  2. CRMP2を輸送する「KIF3分子モーター」の不活性化

1つ目の要因として、酸化ストレスが過剰になった結果、「CRMP2タンパク質」が過剰にカルボニル化してしまうということがある。

CRMP2は「細胞骨格の形成」を調節する働きがある。

脳においては、「CRMP2」は、神経細胞の「樹状突起先端部分」へ輸送されて、その部分の「発達形成」を調節する。

下の図は、全体が神経細胞(ニューロン)になっている。「細胞体」という部分から、四方八方にヒゲのように伸びているのが、「樹状突起(じゅじょうとっき)」。

CRMP2がカルボニル化され不活性化した場合、正常なCRMP2が「樹状突起先端部分」へ十分に届けられないことになる。

その結果、樹状突起が「過剰形成」に陥ってしまう。 つまり、「神経発達の異常」につながり、統合失調症の原因になる。

以上をまとめると下の図のようになる。

KIF3分子モーターの不活性化

KIF3分子モーター」という物質が、統合失調症患者の脳で不活性化してしまう事が、発症の2つ目の要因。

KIF3分子モーターは、CRMP2を、発達形成途中の「樹状突起先端部分」へ、「輸送」する働きがある。

KIF3モーター不活性化して、CRMP2十分に輸送されないと、当然、CRMP2の働きも機能せず、「神経発達の異常」につながる。

統合失調症患者のヒトゲノムデータベースにおいて、「KIF3B遺伝子」に変異がある場合がある事が確認されている。一部の患者の脳KIF3分子モーター十分に作られていないと考えられる。

また、KIF3B遺伝子をノックアウトしたマウスは、統合失調症のような症状が出る。

下の図は、以上のカルボニルストレス仮説の説明のまとめになっている。「簡略版」だが、後で「詳細版」も示す。

ベタインによるカルボニル化の緩和

以上のように、カルボニル化によって「CRMP2が不活性化」してしまう事と、CRMP2を輸送する「KIF3分子モーターが不活性化」してしまうという2つの要因相まって統合失調症を発症する患者がいると考えられている。

2つの要因のうち1つ目の、「CRMP2が過剰にカルボニル化して不活性化」してしまう問題は、ベタインやピリドキサミンを投与する事で緩和することができる。

ベタインやピリドキサミンは、CRMP2のカルボニル化を防ぐ。それだけでも、統合失調症を治療する事ができると考えられている。

ラメリポディア

一部、間(あいだ)の説明を省いた。それについて少し書く。

KIF3分子モーターは、CRMP2を、神経細胞の樹状突起先端部分へ輸送すると書いた。 詳しく言うと、「樹状突起先端部分」にある「ラメリポディア」という場所へ輸送する。下の図の緑色の部分。

ラメリポディアの説明や、ラメリポディア内でCRMP2がどのように働き、樹状突起の過剰形成につながるかの説明もしようと思ったが、専門的で難しいので、後は、理化学研究所のプレスリリースなどを見てもらいたい。

一応、概要だけ下の図で示す。薄い青で塗りつぶしてある枠内は、この記事では詳しい説明を省いた所。赤字の部分は、説明した所。

開発状況

ベタインは、既に「先天性ホモシスチン尿症」という病気に使われている。なので、安全性も問題なく、統合失調症への適応も比較的簡単にできると期待されている。

ヒトに対する臨床試験東京大学医学部付属病院が行なっている。

けれど、まだ開発中というわけではなく、この東大の臨床試験がうまくいった場合、その後で開発計画を進めていくという事らしい。

その臨床試験は、もう終了していると思われるが、結果についての情報は見つからなかった。

なので、開発状況についてはよくわからない。 今後、何か情報が出たら報告したい。

(以下2023.2.1追記)

どうやら東大病院の臨床試験はうまくいっているようだ。

試験は、1日6g(3g×2回)のベタインを15人の患者に投与して行われた。既に服用している抗精神病薬に、追加投与するという形だった。期間は8週間の投与だった。

その結果、PANSS陽性スコアを「有意に改善」させ、効果がある事が示された。

血中のベタイン陽性症状の改善は、相関関係にあったらしい。

1日6gのベタインで、量は十分だったようだ。

ただし、プラセボ薬用いない試験だったので、プラセボ効果があったかはわからない。また、15人という少ないサンプルサイズなので、効果についてはまだ確定的ではない。

けれど、試験は一応うまくいったようなので、これを受けて開発が始まる事を期待したい。

コメント

ベタインは、カルボニルストレスを緩和して統合失調症を治療するので、ピリドキサミンと同じ作用のメカニズムだと思う。自分はそう理解した。

ところで、ベタインはピリドキサミンと違って、サプリメントとして今でも簡単に買えるらしい。

実際使った人のブログでは、効いているという感想だった。プラセボ効果があったかどうかはわからない。

統合失調症の治療目的でサプリメントを使うのは、あまり推奨されていないらしいが、特に既存の抗精神病薬が十分に効かない治療抵抗性の統合失調症の人は、試しに使ってみてもいいような気がする。

治療抵抗性(難治性)の統合失調症の人の中に、カルボニルストレスが特に亢進している人がいるらしいので、かなり効く人もいるかもしれない。

また、治療抵抗性までいかなくても、今服用している薬だけでは効果がやや不十分な人、に使われると良い薬だと思う。副作用もそれ程ないので、もしかしたら、結構気軽に補助薬として使われるようになるかもしれない。

関連記事はこちらです。

ピリドキサミン(ビタミンB6)/治療抵抗性の統合失調症にも効く可能性あり

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参考文献

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