はじめに
ソリアンは、非常に優れた非定型抗精神病薬。統合失調症薬の中で、クロザピンに次いで2番目に有効性が高い。有効性の面では、オランザピンやリスパダールより優れている。
低容量の使用では、陰性症状やうつ状態に効く。
米国や日本ではまだ使えないが、世界50カ国では既に使われていて、第一選択薬になっている。
米国では、ソリアンを改良した統合失調症薬であるLB-102、が開発されている。
LB-102は、50mg服用するだけで、ソリアンを400mg服用したのと同じ効果が得られる。そのため、低用量で済み、高プロラクチン血症などの副作用が軽減されている。
しかも、ソリアンは300mg以上服用の場合、1日2回飲まなければいけないが、LB-102は1日1回で十分になっている。
米国で、LB-102のフェーズ2試験が、2022年の上半期に始まる予定。もしかしたら、米国でLB-102の販売承認がされたら、日本でも治験が始まるかもしれない。
効果と副作用(ki値などから考える)
ソリアンのそれぞれの受容体に対するki値
このセクションでは、ソリアンの効果と副作用について考えてみる。
脳細胞(神経細胞)には、抗精神病薬が結合する事ができる「受容体」がついている。受容体には様々な種類がある。
抗精神病薬がどの受容体に結合できるかによって、どの「効果や副作用」が出るかが決まってくる。
下の表の1番左の列に、ソリアンが主にどの受容体に結合(作用)できるか示してある。
作用 | 効果、副作用 | ソリアンのki値 |
5HT2A受容体遮断 | EPS改善、抗うつ、睡眠改善、衝動抑制 | >1000 |
5HT2B受容体遮断 | 抗うつ | 13 |
5HT2C受容体遮断 | 体重増加、睡眠改善、認知改善、抗うつ | >1000 |
5HT7受容体遮断 | 認知改善、抗うつ | 11.5 |
α1受容体遮断 | 眠気、起立性低血圧悪化 | >1000 |
D2受容体遮断 | 陽性改善、EPS悪化、眠気 | 3 |
D3受容体遮断 | 陽性改善、抗うつ | 3.5 |
H1受容体遮断 | 眠気、体重増加 | >1000 |
M1受容体遮断 | 眠気、口渇、便秘 | >1000 |
GHB受容体刺激 | 抗うつ | 50 |
表に遮断や刺激と書いてあるが、抗精神病薬は、結合した時に、受容体を刺激する刺激薬か、受容体を遮断する遮断薬に、なり得る。そのどちらかによって、反対の「効果や副作用」が起こり得る。
(上の表を見てみると、ソリアンの場合は、刺激薬としての作用はGHB受容体に対してのみで、他の受容体へは遮断薬として作用するとなっている。)
また、抗精神病薬の「効果や副作用」の「強さの度合い」は、受容体に「どの程度の強さ」で結合できるかで決まってくる。
受容体への結合の強さ(作用の強さ)は、「ki値」というもので表される。表の1番右の列では、ソリアンの各受容体に対する「ki値」が書いてある。もう一度表を貼っておく。
作用 | 効果、副作用 | ソリアンのki値 |
5HT2A受容体遮断 | EPS改善、抗うつ、睡眠改善、衝動抑制 | >1000 |
5HT2B受容体遮断 | 抗うつ | 13 |
5HT2C受容体遮断 | 体重増加、睡眠改善、認知改善、抗うつ | >1000 |
5HT7受容体遮断 | 認知改善、抗うつ | 11.5 |
α1受容体遮断 | 眠気、起立性低血圧悪化 | >1000 |
D2受容体遮断 | 陽性改善、EPS悪化、眠気 | 3 |
D3受容体遮断 | 陽性改善、抗うつ | 3.5 |
H1受容体遮断 | 眠気、体重増加 | >1000 |
M1受容体遮断 | 眠気、口渇、便秘 | >1000 |
GHB受容体刺激 | 抗うつ | 50 |
ki値は、数値が小さいほど、結合力が強く、効果や副作用が強い。
1未満「非常に強い作用」、1~10「強い作用」、10~100「中等度の作用」、100~1000「弱い作用」、>1000「無視できるほどのわずかな作用」、となっている。
効果や副作用は、網羅はしていない。重要そうなものを選んで載せた。「EPS」とは「錐体外路症状」の事。
ki値から考えられる効果と副作用
この項では上の表で示したki値や、実際に使われた人たちの話などから、ソリアンの効果、副作用を考えてみる。
不眠、不安、興奮、神経過敏、眠気(α1遮断、H1遮断、M1遮断、D2遮断、5HT2A遮断)
まず、ソリアンが、不眠、眠気、鎮静に対してどのように働くか、考えてみる。
脳の睡眠回路は、GABA(ギャバ)という神経伝達物質が作動させる。覚醒回路は、ヒスタミン、アセチルコリン、ノルアドレナリン、ドーパミン、セロトニン、などの神経伝達物質が作動させる。
神経伝達物質は、脳の神経細胞についている「受容体」に結合して、覚醒回路や睡眠回路を作動させる。
ヒスタミン、アセチルコリン、ノルアドレナリン、ドーパミン、セロトニンは、それぞれ順に、H1受容体、M1受容体、α1受容体、D2受容体、5HT2A受容体、に結合し、覚醒回路を作動させる。
(それぞれの神経伝達物質は、別のサブタイプの受容体へも結合するが、覚醒回路を作動させる代表的なサブタイプ受容体を挙げた。)
それらの神経伝達物質が各受容体へ結合するのを、抗精神病薬が遮断(阻害)すると、覚醒回路が遮断(阻害)される。すると、眠気や鎮静が起こる。
ソリアンが、それらの受容体を遮断(阻害)する作用はどれ位か、ki値で考えてみようと思う。下の表にそれぞれのki値を示す。
作用 | ソリアンのki値 |
D2受容体遮断 | 3 |
5HT2A受容体遮断 | >1000 |
α1受容体遮断 | >1000 |
H1受容体遮断 | >1000 |
M1受容体遮断 | >1000 |
ソリアンのD2遮断のki値は、3となっていて、強い作用があるが、H1、M1、α1、5HT2Aなどの受容体への遮断作用は、ほぼない。
結果的に、ソリアンは鎮静が弱く眠気も少ないが、不眠を防ぐ作用が少ない。
実際に服用している人の中には「(ソリアンの)他に鎮静に効く薬が必要」と言っている人もいた。
不安や興奮や神経過敏などがある患者もいて、これらは鎮静作用が弱いことが原因になっているのではないか。
体重増加(D2遮断、H1遮断、5HT2C遮断)
ソリアンの体重増加の副作用は、並程度であるらしい。体重増加に関係するki値を下の表に示す。
作用 | ソリアンのki値 |
5HT2C受容体遮断 | >1000 |
H1受容体遮断 | >1000 |
D2受容体遮断 | 3 |
オランザピンやリスパダールには、5HT2C遮断やH1遮断などの作用がある。ソリアンには、それらの受容体の遮断作用がほぼないので、それらの薬よりは体重増加は少ない。
ただ、D2遮断自体も、体重増加の副作用を起こすので、ソリアンで太る人もいる。
錐体外路症状( D2遮断、5HT2A遮断)
ソリアンの錐体外路症状の副作用は、第1世代の抗精神病薬よりかは少ないが、並み程度はあるらしい。錐体外路症状に関係するki値を下の表に示す。
作用 | ソリアンのki値 |
5HT2A受容体遮断 | >1000 |
D2受容体遮断 | 3 |
ソリアンは、5HT2A遮断作用がほぼ無い。なので、錐体外路症状を抑える効果は、大きくない。
D2受容体遮断作用が、ある程度あるので、ジスキネジア、振え、筋硬直などの副作用が出る人もいる。
抗うつ(5HT7遮断、5HT2B遮断、D2自己受容体遮断、GHB受容体刺激、D3受容体遮断)
ソリアンは、普通の量(400~800mg)投与すると、陽性症状を抑えるように作用する。
だが、50~100mg程度の低用量で使用すると、D2自己受容体を遮断するように働く。すると、持続性抑うつ障害や陰性症状への改善効果がある。
ソリアンの抗うつ効果は、5HT7受容体、5HT2B受容体、D3受容体への遮断作用によっても起きている、と言われている。
作用 | ソリアンのki値 |
5HT2B受容体遮断 | 13 |
5HT2C受容体遮断 | >1000 |
5HT7受容体遮断 | 11.5 |
D3受容体遮断 | 3.5 |
GHB受容体刺激 | 50 |
トリンテリックスという抗うつ薬は、5HT7受容体遮断作用から多く抗うつ効果を働かせていると言われている。また、エビリファイの抗うつ効果は、5HT2B受容体遮断作用から多く生じていると言われる。
ソリアンも同様に、5HT7遮断と5HT2B遮断から抗うつ効果を引き出しているらしい。
加えて、低用量の時には、GHB受容体というものも刺激していて、抗うつ効果につながっている。
米国のある医師は「ソリアンが低用量で投与された時の抗うつ効果は、もっと評価されるべき」と言っている。
低用量だと抗うつ効果や陰性症状への効果が特に高い。だが、下の有効性の節でも書くように、普通の量(400~800mg)投与でも、陰性症状への効果は高いものになっている。
陽性症状(D2遮断、D3遮断)
ソリアンの陽性症状への効果も、下の有効性のセクションでも書いたが、かなり高く、クロザピンより高いとされている。陽性症状に関係するki値を下の表に示す。
作用 | ソリアンのki値 |
D2受容体遮断 | 3 |
D3受容体遮断 | 3.5 |
なぜ陽性症状への効果がこれ程高いのか、正直わからない。D2やD3遮断作用がともに「強い」からだろうか。それを言ったらハロペリドールの方がもっと強い。
なので、不明の作用機序(メカニズム)で陽性症状への大きな効果を発揮しているのかもしれない。
プロラクチン上昇、無月経、乳汁漏出(D2遮断)
ソリアンは、プロラクチンを上昇させやすく、無月経になったり、男性でも乳汁が漏出したり、胸が大きくなったりすることがある。
ソリアンは血液脳関門を通過しにくいため、投与量を多くしないと陽性症状への効果が十分出ない。それがプロラクチンの上昇の原因になっている。
今、アメリカで開発されているソリアンの改良版のLB-102は、血液脳関門をより通過しやすいので、低用量で済み、プロラクチン上昇も少ない。
QT延長
ソリアンは、QT延長の副作用がある。
治験での副作用データ
まとめとして、ソリアンの治験での副作用のデータを書いておく。2%以上の患者に生じた副作用は、次の表のようになっている。
ソリアン | プラセボ | ソリアン | プラセボ | |||
不眠 | 10% | 7% | 頭痛 | 3% | 4% | |
不安 | 7% | 5% | 筋硬直 | 2% | 2% | |
体重増加 | 6% | 5% | 流延 | 2% | 0% | |
興奮 | 5% | 3% | ジスキネジア | 2% | 0% | |
無月経 | 4% | 0% | 神経過敏 | 2% | 1% | |
乳汁漏出 | 3% | 0% | 嘔吐 | 2% | 3% | |
便秘 | 3% | 1% | 吐き気 | 2% | 2% | |
振え | 3% | 6% | 体重減少 | 2% | 2% | |
傾眠(眠気) | 3% | 0% |
ソリアンは、鎮静作用が弱いので、不眠、不安、興奮、神経過敏などの副作用が多い。逆に、D 2遮断の影響で、眠気が出た人も3%いたようだ。
体重増加は6%で、体重減少は2%になっている。増える人の方が多い。オランザピンやリスパダールから変薬した人などは、減少するかもしれない。
プロラクチン上昇のため、無月経が4%、乳汁漏出が3%起こった。
錐体外路症状として、ジスキネジアが2%、振えが3%、筋硬直が2%起こったようだ。
ソリアンの効果と副作用のまとめ
鎮静効果が弱いので、眠気は少ないが、不眠は多い。
体重増加や錐体外路症状は並程度ある。
抗うつ効果、陰性症状を改善する効果は高い。
陽性症状への効果も高い。
無月経や乳汁漏出などが起こるかもしれないが、ソリアンの改良版では、軽減されているかもしれない。
QT延長が起こる人もいるらしい。
有効性(統合失調症、メタ分析)
ソリアンを含めて、抗精神病薬の有効性は、メタ分析という手法で算出されたりする。
メタ分析では、何百という臨床試験や治験の結果を統合して、有効性がどれくらいかなどが計算される。
メタ分析は、フェーズ2やフェーズ3などの個別の臨床試験より、エビデンスとして強いものとなっている。
この有効性の節では、2019年にマクシミリアン・ハーンらによって行われた、メタ分析の結果を見て、ソリアンの統合失調症への有効性を考えてみる。
全般的な効果
まず、2019年のメタ分析で、PANSS合計スコアの効果量は、次の表のように出た。
PANSS合計 | 効果量 | ||||||
クロザピン | 0.89 | ハロペリドール | 0.47 | シクレスト | 0.39 | ||
ソリアン | 0.73 | クロルプロマジン | 0.44 | ラツーダ | 0.36 | ||
オランザピン | 0.56 | セロクエル | 0.42 | カリプラジン | 0.34 | ||
リスパダール | 0.55 | エビリファイ | 0.41 | イロペリドン | 0.33 | ||
インヴェガ | 0.49 | ジプラシドン | 0.41 | レキサルティ | 0.26 | ||
ドグマチール | 0.48 | セルチンドール | 0.40 |
ソリアンのPANSS合計スコアの効果量は、0.73となっていて、かなり成績が良い。
クロザピンの効果量0.89に次いで、2番目に有効性が高い。オランザピンやリスパダールと比べても、かなり有効性が高い。
ソリアンは、陽性症状、陰性症状、その他の症状、などの全般的な有効性を見た時、かなり高いものとなっている。
陽性症状への効果
次に、ソリアンの陽性症状への効果に絞って見ていく。
メタ分析におけるPANSS陽性スコアの効果量は、次の表のようになっている。
PANSS陽性 | 効果量 | ||||||
ソリアン | 0.69 | ハロペリドール | 0.49 | ラツーダ | 0.33 | ||
クロザピン | 0.64 | シクレスト | 0.47 | カリプラジン | 0.30 | ||
リスパダール | 0.61 | ジプラシドン | 0.43 | イロペリドン | 0.30 | ||
クロルプロマジン | 0.57 | セロクエル | 0.40 | レキサルティ | 0.17 | ||
オランザピン | 0.53 | セルチンドール | 0.40 | ||||
インヴェガ | 0.53 | エビリファイ | 0.38 |
ソリアンの陽性症状への有効性は、効果量が0.69になっていて、クロザピンをも凌(しの)いでいて一番高い。
ソリアンの陽性症状への効果は、かなり高いようだ。
陰性症状への効果
次に、ソリアンの陰性症状への効果に絞って見ていく。
メタ分析におけるPANSS陰性スコアの効果量は、次の表のようになっている。
PANSS陰性 | 効果量 | ||||||
クロザピン | 0.62 | インヴェガ | 0.37 | ハロペリドール | 0.29 | ||
ソリアン | 0.50 | クロルプロマジン | 0.35 | ラツーダ | 0.29 | ||
オランザピン | 0.45 | エビリファイ | 0.33 | レキサルティ | 0.25 | ||
シクレスト | 0.42 | ジプラシドン | 0.33 | イロペリドン | 0.22 | ||
セルチンドール | 0.40 | カリプラジン | 0.32 | ||||
リスパダール | 0.37 | セロクエル | 0.31 |
ソリアンの陰性症状への有効性は、効果量が0.50となっていて、高いグループに入っている。
クロザピンの効果量0.62ほどではないが、オランザピンの0.45より高い。
ソリアンの陰性症状への有効性は、かなり高いと言えるだろう。
コメント
有効性がトップのクロザピンは、危険な副作用があり簡単には使えない。だから、他の国ではまず第一に、ソリアンの使用が考えられるのかもしれない。 日本や米国でまだ使えないのが残念。
「アメリカで使えるようになれば、日本でも治験を始めるのでは」と言っている人がいたので、アメリカで行われているソリアンの改良版の開発には期待したい。
関連記事はこちら。
「SEP-4199」の抗うつ効果 / ソリアンの改良型の薬
参考文献
- https://en.wikipedia.org/wiki/Amisulpride
- http://www.guildlink.com.au/gc/ws/sw/pi.cfm?product=swpsolia11020
- https://www.reddit.com/search/?q=amisulpride
- https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC6891890/
- https://www.businesswire.com/news/home/20211207005911/en/LB-Announces-Presentation-of-Full-Results-of-Dopamine-Receptor-Occupancy-Study-of-LB-102-at-the-2021-ACNP-Conference
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