はじめに
KarXT、エムラクリジン、ネクセラファーマのM4作動薬、などのムスカリン作動薬に一番期待していると何回か書いた。
けれど実は、TAAR1作動薬(微量アミン関連受容体1型作動薬)であるウロタロントにも、同じ位期待している。
例えば今、非定型抗精神病薬を服用している人は、完全にウロタロントにスイッチできなくても、ウロタロント少量追加という使い方もありかもしれない。
それだけでも、副作用の軽減など、いろいろとメリットがある可能性がある。
既存薬にウロタロントを少量追加すると、代謝を改善する関係で、体重増加を防ぐ効果があるかもしれない。
また、錐体外路症状を軽減したり、認知機能障害を改善したり、陽性症状や陰性症状への効果を増強させる効果があるかもしれない。
良い事ばかり起こるが、まだ動物実験で確認されただけなので、ヒトでも同じ効果があるかわからない。
また、ウロタロントは、セロトニンやグルタミン酸を調節する働きもあり、統合失調症だけでなく、他のメンタル疾患にも適応が、拡大される事もあるかもしれない。
抗うつ効果や抗不安効果などもある。米国では既に、大うつ病の補助療法への治験も行われているらしい。
この記事では、TAAR1アゴニストや、ウロタロントの副作用や開発状況、について書く。ウロタロントの有効性については、次の記事で書く。リンクはこちら。
【フェーズ2試験】ウロ夕ロント/長期投与試験の有効性が高い/陰性症状への効果も期待
この記事は、少し難しくなった。ウロタロントの他の記事の方がおすすめ。
【革新的】開発中の抗精神病薬まとめ(後半)/ウロタロントなど【初心者用記事】
TAAR1アゴニスト
ウロタロントは、TAAR1作動薬(微量アミン関連受容体1型作動薬、Trace Amine-Associated Receptor 1 agonist)としての働きがある。
また、5HT1A受容体刺激薬としての働きも強いようだ。
(ここでは、刺激薬、作動薬、活性化薬、アゴニストはすべて、ほぼ同じものを意味する。)
TAARは、ヒトの体では、TAAR1~TAAR6の、6つの型が見つかっているらしい。
微量アミン関連受容体(TAAR、Trace Amine–Associated Receptor)は、最初、単に微量アミン受容体(TAR)と呼ばれていた。このグループの受容体は、すべて、微量アミン(TA)に反応するものと考えられていたからだった。
しかし、さらなる分析の結果、全てのTAR(微量アミン受容体)が、TA(微量アミン)に反応するわけでないことがわかり、名前は、TAAR(微量アミン関連受容体、Trace Amine–Associated Receptor)に変更された。
ウロタロントは、TAARのグループのうち、1型(TAAR1)に作用する。
TAAR(微量アミン関連受容体)という受容体、に作用するTA(微量アミン)には、チラミン、フェニルエチルアミン(PEA)、オクトパミン、トリプタミン、などがある。
それらの微量アミンは、ドーパミンやセロトニンの前駆物質から、酵素によって変換されて生成される。また、ドーパミン自体から変換されて生成されるものもある。
これらの微量アミン(TA)は、ウロタロントなどの薬物と違い、生体内でも作られたりする。けれど、ウロタロントなどと同様に、TAARのアゴニストとして働き、TAARを刺激する作用もあるようだ。
例えば、チラミンは、中脳(脳幹の一部)で、TAAR1を刺激して、その部位の活動を「抑制」するように働く。
ウロタロントなどのTAAR1作動薬も、チラミンなどと同様にTAAR1を刺激して、中脳や線条体でのドーパミン活動を抑制するように働く。それによって、陽性症状を抑える。
また、TAAR1作動薬は、前頭前皮質において、グルタミン酸神経細胞の興奮を高めたり、セロトニンの放出を調節する作用もある。これによって、陰性症状や認知機能障害を改善する。
一応、中脳、線条体、前頭前皮質の場所を下の図に示す。
中脳は、文字では示していないが、脳幹の上部に位置する。腹側被蓋野、縫線核、黒質は、みな中脳の一部。線条体は、中脳より上の位置にある。前頭前皮質は、オデコのあたりにある。
図の、青の線は、ドーパミン経路で、赤の線は、セロトニン経路になっている。
最新の知見では、陽性症状は、黒質(中脳)から線条体へのびているドーパミン経路(中脳線条体路)の過活動が原因とされている。TAAR1作動薬は、その過活動を抑制する。
また、陰性症状や認知機能障害は、腹側被蓋野(中脳)から前頭前皮質へのびているドーパミン経路(中脳皮質路)の活動低下が原因とされている。
詳しい説明は省くが、中脳皮質路においてTAAR1作動薬は、グルタミン酸やセロトニンも調節する作用があり、陰性症状や認知機能障害を改善する。
開発状況
ウロタロント(SEP-363856)は、米国では、サノビオン社が開発していて、2019年9月にフェーズ3試験の開始を発表した。
2021年9月30日に、サノビオン社と住友ファーマは、大塚製薬と、4つの開発中新薬について、共同開発および販売に関するライセンス契約を締結した。
その開発中新薬の中にウロタロント(SEP-363856)も含まれている。日本では、住友ファーマと大塚製薬が共同開発しているという事だと思う。
米国と中国と日本でフェーズ3試験の段階にあるらしい。
米国のフェーズ3試験は、今の所2つ失敗している。日本では、2027年の発売が目標とされているが、フェーズ3試験の失敗によって発売は遅れると思われる。
以下2024.6.27追記:
大塚製薬の資料には「第4次中期経営計画期間中の(米国での)上市を目指す」と書いてありました。
第4次中期経営計画期間は2028年までなので、2028年までの米国発売が目標という事だと思います。
「現在もう一度統合失調症のフェーズ 3 試験の実施に向けて準備中」らしいです。
日本での発売はいつになるでしょうか。2030年とか2031年になってしまうでしょうか。
副作用
フェーズ2短期試験では、D2遮断由来の副作用がほぼなかった。
錐体外路症状は、SEP363856で3.3%、プラセボで3.2%あらわれた。
体重増加は、平均0.3kg増加と少ない。
6カ月の長期試験で2%以上出た副作用は次のようになっている。ただし、他の薬の数週間の短期試験の副作用の出現率とは比較はできない。
副作用 | ウロタロント |
統合失調症 | 12.2% |
頭痛 | 11.5% |
不眠 | 8.3% |
不安 | 5.1% |
眠気(傾眠) | 4.5% |
鼻咽頭炎 | 4.5% |
吐き気 | 3.8% |
苛立ち | 3.2% |
体重減少 | 3.2% |
インフルエンザ | 3.2% |
プロラクチン増加 | 2.6% |
錐体外路症状 | 3.2% |
不眠が8.3%あって、眠気が4.5%なので、他の薬よりは、鎮静的な薬でなく、賦活的(ふかつてき)な薬なのかもしれない。
ウロタロントは5HT1A受容体刺激作用もあるし、うつ病の補助療法への適応も目指されている事からもそう思う。
また、6か月の長期試験では、56.4%の患者に、少なくとも1つの副作用が出現した。5.1%の患者に、重度とされる程の副作用が現れた。
副作用の少なさは、ウロタロントを使う大きなメリットになるかもしれない。
コメント
今回、参考にした文献によると、TAAR1作動薬は、ドーパミン仮説だけでなく、グルタミン酸仮説(NMDA受容体仮説)にも対応した薬になるように思われる。
その意味で、ドーパミン仮説だけに沿ったD2遮断薬より、根本的な治療になる可能性がある。本当にそうなのか、現在、研究調査が進められている。
ウロタロントは、独特の薬で、今行われている治験では測定できない、潜在的可能性がいろいろあると思う。
ウロタロントの有効性については、次の記事で書きます。リンクはこちら。
【フェーズ2試験】ウロ夕ロント/長期投与試験の有効性が高い/陰性症状への効果も期待
ウロタロント服用の様々なメリットについて書いた記事はこちら。
「ウロタロント」服用による様々なメリット/2028年までの米国発売目標/新しい抗精神病薬
ウロタロントのフェーズ3試験の結果が出ています。
【米国フェーズ3試験失敗】「ウロタロント」治験データ、今後の開発の行方
初心者用記事もあります。
【革新的】開発中の抗精神病薬まとめ(後半)/ウロタロントなど【初心者用記事】
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