はじめに
先日、KarXT(Cobenfy)の長期投与試験の結果が公表されました。KarXTの長期的有効性は、結構高い方だと思いました。
KarXT(カーエックスティ)を含むムスカリン作動薬の有効性は、長期的に持続するのか懸念されていました。今回、KarXTの長期的有効性が確認された事により、その不安もほぼ解消されました。
この記事では、KarXTの長期的有効性を他の抗精神病薬と比較してみます。その後、副作用について公表されているだけのデータを紹介します。
長期的有効性
KarXTの長期的有効性は、PANSS(陽性・陰性症状評価尺度)のスコアで測定されました。PANSS(パンス)のスコアは点数が高い程、統合失調症の重症度が重いです。
KarXTを投与して、患者の平均スコアをどれ位減少させられるか、で有効性が測定されました。
長期投与試験の前にKarXT投与患者群のスコアがどれ位あったかは、公表されていません。ですが、独自に推計してみました。平均81点と出ました。
一年間の投与の後には、平均65.1点になりました。ですので、約16点、統合失調症の症状を改善させました。
(1年間投与) | KarXTの長期投与試験前 | KarXTの長期投与試験後 | 統合失調症の重症度の改善幅 |
PANSSスコア | 81点 | 65点 | –16点 |
一般的に、統合失調症の重症度は、PANSSのスコアの点数によって、次のように評価されます。
正常 30-58点
軽度 58-75点
中等度 75-95点
重症 95-116点
最重度 116-210点
KarXTを投与した患者群は、長期投与試験前にスコアが平均81点でした。中等度の症状でした。
長期投与試験(1年間)の後には、スコアが平均65点になっていました。平均して軽度の重症度になっていました。
16点、PANSSのスコアを改善させた事は、他の薬と比べて多い方です。他の抗精神病薬の長期投与試験の成績を、知る限りで、下の表に示します。かなりおおざっぱな概算です。
(1年間投与) | 長期投与試験前のPANSSスコア | 長期投与試験後のPANSSスコア | 統合失調症の重症度の改善幅 |
レキサルティ | 83点 | 65点 | -18点 |
KarXT | 81点 | 65点 | -16点 |
インヴェガ | 91点 | 77点 | -14点 |
ロナセンテープ | 68点 | 57点 | -11点 |
シクレスト | 71点 | 64点 | -7点 |
表中の上の薬から順に見ていきます。中等度程度の症状にまで落ち着いた患者に対して、レキサルティは結構よく効きます。スコアを18点改善しています。
KarXTも、レキサルティに近い位効いています。16点改善です。
インヴェガの場合、長期投与試験前のスコアが91点もあります。まだ症状が重めの患者に投与されました。症状が重い患者の場合、PANSSのスコアは減りやすいです。
14点の改善でまあまあ大きい効果なりました。けれど、インヴェガの1年間の投与後も、スコアがまだ77点(中等度)あり、症状を十分に治せていません。
逆に、ロナセンテープとシクレスト投与患者群は、長期投与試験前のスコアが低め(軽度)なので、スコアが減りにくくなっています。ロナセンテープは11点の改善で、シクレストは7点の改善でした。
ロナセンテープの使用で、スコアを57点(正常)にまで回復させていますが、これは大きな効果が出たと言っていいと思います。
いくつかの薬とKarXTの長期的有効性を比較してみました。KarXTは、スコアを16点改善させています。また、65点までスコアを減少させています。それらの事から考えて、KarXTは高い有効性があると言ってもいいのではないでしょうか。
もちろん長期投与試験は、RCT(ランダム化比較試験)ではないし、メタ分析でもないので、有効性のエビデンスとして弱いです。ですが、控えめに言って、KarXTは並以上の長期的有効性があると思います。
副作用
このセクションでは、長期投与試験におけるKarXTの副作用について書きます。最初に重要な事を言っておくと、体重増加、錐体外路症状、高プロラクチン血症は、ほとんどありませんでした。
体重増加
KarXT投与患者群では、平均して2.6kgの体重減少がありました。以前、KarXTよりウロタロントの方が体重減少が多いと言ってしまいました。
けれど、長期的な投与では、KarXTの方が体重減少が多いです。ウロタロントは半年間で、平均0.3kgの体重減少でした。
KarXTは1年間で、平均2.6kgの体重減少です。KarXTを投与した患者のうち65%は、体重が減少したそうです。
KarXTは錐体外路症状も高プロラクチン血症もほぼないです。長期的な体重減少は、ウロタロント以上に起こります。
よくある副作用
5%以上の患者に出た特に多い副作用は、吐き気、嘔吐、便秘、口喝、消化不良、めまい、高血圧、下痢です。
やはり消化器系の副作用が多いです。ですが、ほとんどは軽度か中等度で、一時的なものだったそうです。
副作用発生率
62%の患者に何かしらの副作用が出ました。1年間で62%の副作用発生率は、多いかはわかりません。
ウロタロントの場合は、半年で56.4%の副作用発生率でした。ウロタロントに多い副作用は、統合失調症の悪化、頭痛、不眠、不安、などの賦活系の副作用です。
長期的には、KarXTはウロタロントの副作用発生率と同じ位かもしれません。少ない方ではないと思います。
実際服用してみて、KarXTの消化器系の副作用が大丈夫か、気になるところです。
長期的にも消化器系のものを中心に副作用が発生しやすいようです。実際にKarXTを服用した人がどういう感想を持つか、発売後Redditなどで見ていきたいです。
投与中止率
長期投与試験では、KarXTを中止した患者が53%いました。中止した理由は、副作用、患者の自由意思、音信不通、などいろいろあります。
この53%が多いかはわかりません。普通、1年間投与していたらこの位の投与中止は出てくるかもしれません。
副作用が原因で投与を中止した患者は、15%です。ですので、消化器系の副作用で中止した人が続出したわけではないと思います。
副作用が原因で投与を中止した人は極端に多くはないです。消化器系の副作用も、言われている通りそれ程は重くないのかもしれません。
まとめ
- KarXTの長期的有効性は、データを見てみると高い部類に入ります。
- 錐体外路症状は、ほぼないです。
- KarXT投与では、1年間に体重が平均2.6kg減少しています。65%の患者は体重が減少しています。長期的には体重減少がウロタロント以上に起こります。
- 消化器系のものを中心に副作用発生率は、低くはないです。
- 消化器系の副作用の重症度は、それ程は重くないと言われています。投与を中止する患者が続出するわけではないようです。
コメント
KarXTの有効性が長期的に持続していくのか心配している人を複数見かけました。自分も少し心配していました。今回だいたい良好な結果が出たので安心しました。
エムラクリジンやNBI-1117568などの他のムスカリン作動薬もおそらく大丈夫だろうと思います。それらは消化器系の副作用もないし、注目していきたいです。
KarXTも、早く日本で治験が始まるのを期待したいです。
2024.7.13追記:DelveInsightというサイトの分析によると、日本発売は2026年の可能性があるらしいです。
2024.9.27追記:KarXTは、2024年9月にFDAに承認されました。Cobenfyという商品名です。2024年中に米国で発売されます。
関連リンクはこちらです。
「PANSS」陽性陰性症状評価尺度/抗精神病薬の有効性測定に使われる尺度
【2026年日本発売予測】KarXT(Cobenfy)の5つのメリット【初心者用まとめ記事】
【革新的】開発中の抗精神病薬まとめ(前半)/ムスカリン作動薬【初心者用記事】
「KarXT」の概要/オランザピンに勝る効き目/体重増加や錐体外路症状が少ない
【フェーズ2試験/EMERGENT-1】「KarXT」オランザピンに勝る有効性を示す(1回目)
【フェーズ3試験/EMERGENT-2】「KarXT」オランザピンに勝る有効性を示す(2回目)
【フェーズ3試験/EMERGENT-3】「KarXT」オランザピンに勝る有効性を示す(3回目)
参考文献
- https://news.bms.com/news/details/2024/Bristol-Myers-Squibb-Presents-New-Interim-Long-Term-Efficacy-Data-from-the-EMERGENT-4-Trial-Evaluating-KarXT-in-Schizophrenia-at-the-2024-Annual-Congress-of-the-Schizophrenia-International-Research-Society/default.aspx
- https://news.bms.com/news/corporate-financial/2024/Bristol-Myers-Squibb-Presents-New-Pooled-Interim-Long-Term-Safety-and-Metabolic-Outcomes-Data-from-the-EMERGENT-Program-Evaluating-KarXT-in-Schizophrenia-at-the-2024-Annual-Congress-of-the-Schizophrenia-International-Research-Society/default.aspx
コメント