【開発中の抗精神病薬】ブリラロキサジン/有効性が高い&副作用が少ない

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はじめに

2023年10月に、ブリラロキサジンのフェーズ3試験の結果が発表されました。ブリラロキサジンは、米国で開発中の抗精神病薬です。エビリファイやレキサルティの進化版の薬です。

フェーズ3試験では、高い有効性が示され、副作用も少ない、という結果が出ました。

この記事では、まず、初級者向けにブリラロキサジンの「概要情報」を書きます。初級者の人は、「概要情報」だけでも見てもらいたいです。

その後に、中上級者向けにブリラロキサジンの「詳細情報」を書きます。フェーズ3試験で出たデータなどについて、少し分析してみます。

概要情報(初級者向け)

繰り返しますが、ブリラロキサジンは、エビリファイやレキサルティの進化版の薬です。この3つの薬は、ドーパミン部分作動薬という事で共通しています。

ドーパミン部分作動薬は、脳内のドーパミンの働きが適度になるように調節する薬です。

ブリラロキサジンは、ドーパミンへの作用に加えて、セロトニンに対する働きも多くあります。なので、ブリラロキサジンは、非定型抗精神病薬でもあります。

副作用

特にエビリファイなどの場合、「アカシジア」などの「錐体外路症状」が多いです。

けれど、ブリラロキサジンは、アカシジアや錐体外路症状がかなり少なく、フェーズ3試験では、1%以下の患者にしか出ませんでした。

ブリラロキサジンは、「体重増加」も、エビリファイやレキサルティより少ないです。

ですが、「眠気」の副作用は、エビリファイやレキサルティより多く、より鎮静的な薬かもしれません。

ブリラロキサジンは、全体的に副作用が少なく、出たとしても軽い傾向にあります。

有効性

ブリラロキサジンの「有効性」については、フェーズ3試験で、効果量が0.6と出ています。オランザピンやリスパダール並みの効き目があるかもしれません。

認知機能障害に対しての効果も、データを見てみると、まあまあ高いと出ています。

適応

ブリラロキサジンは、統合失調症に加えて、双極症、うつ病、ADHD、アルツハイマー病に伴う精神病や興奮、パーキンソン病に伴う精神病、などへの適応が目指されています。

他にも炎症性疾患への適応も目指されているようです。

開発状況

ブリラロキサジンは、米国で、2025年の終わり頃か2026年の始め頃に、発売される事が見込まれています。

詳細情報(中上級者向け)

ブリラロキサジンのフェーズ3試験で出たデータについて、なるべく多く報告します。

フェーズ3試験には、411名の患者が参加しました。ブリラロキサジン15mg投与群、ブリラロキサジン50mg投与群、プラセボ薬投与群、の3つのグループに分けられ、4週間に渡って投与されました。

以下では、ブリラロキサジン15mg投与群のデータは省略します。

有効性データ表

まず、当ブログで注目してきた項目のデータを、下の表にまとめました。

PANSSについては、こちらの記事を参照して下さい。
「PANSS」陽性陰性症状評価尺度/抗精神病薬の有効性測定に使われる尺度

ブリラロキサジン
投与による
スコア平均減少
プラセボ薬
投与による
スコア平均減少幅
プラセボ
との差
p値効果量
PANSS
合計
-23.9-13.8-10.1<0.0010.6
PANSS
陽性
??-2.8<0.0010.5
PANSS
陰性
??-2.00.0030.4

上の表のうち、有効性の目安として「スコア平均減少」と「効果量」を見ていきます。

「効果量」の方が、有効性のエビデンスとして高く扱われますが、当ブログでは「スコア平均減少幅」にも注目しています。

有効性1(PANSS合計スコア平均減少幅)

まず、注目すべき事として、ブリラロキサジン投与によるPANSS合計スコアの平均減少幅が-23.9と、とても大きいです。

他の薬のPANSS合計スコアの平均減少幅は、知る限りで、下の表のようになっています。

治験薬投与期間治験段階スコア平均減少幅
ウロタロント4週間投与フェーズ2-17.2
ウロタロント6週間投与フェーズ3①-19.6
ウロタロント6週間投与フェーズ3②-18.1
ルマテペロン4週間投与フェーズ3-14.5
ラツーダ6週間投与フェーズ3①-17.9
ラツーダ6週間投与フェーズ3②-19.3
エムラクリジン6週間投与フェーズ1b-19.5
KarXT5週間投与フェーズ3①-21.2
KarXT5週間投与フェーズ3②-20.6

上の表にあるように、ブリラロキサジン投与によるPANSS合計スコアの平均減少幅-23.9は、今まで見てきた中で一番大きいです。

しかも、4週間しか投与してないのに-23.9点も減るのは、とても大きいと思います。

ブリラロキサジン投与によるPANSS合計スコアの平均減少幅は、とても大きいので、有効性が高いという期待が持てます。

有効性2(効果量)

次に、有効性のエビデンスとして最も見られるべき効果量について見ていきます。先程の表をもう一度下に示します。一番右の列に効果量が示してあります。

ブリラロキサジン
投与による
スコア平均減少幅
プラセボ薬
投与による
スコア平均減少幅
プラセボ
との差
p値効果量
PANSS
合計
-23.9-13.8-10.1<0.0010.6
PANSS
陽性
??-2.8<0.0010.5
PANSS
陰性
??-2.00.0030.4

ブリラロキサジンのフェーズ3試験の効果量は、小数点第一位までしか公表されていません。小数点第二位の数値がわからないので、だいたいの有効性しかわかりません。

全般的有効性

まず、ブリラロキサジンの陽性症状、陰性症状、その他の症状、に対する全般的な効果を見ていきます。

全般的な効果を見る場合、PANSS合計スコアの効果量を見ます。ブリラロキサジンのPANSS合計スコアの効果量は、上の表を見てみると、0.6となっています。この数値は大きいのでしょうか?

他の抗精神病薬の効果量が、メタ分析という手法で計算されています。下の表に示します。

PANSS合計効果量
クロザピン0.89ドグマチール0.48シクレスト0.39
ソリアン0.73クロルプロマジン0.44ラツーダ0.36
オランザピン0.56セロクエル0.42カリプラジン0.34
リスパダール0.55エビリファイ0.41イロペリドン0.33
インヴェガ0.49ジプラシドン0.41レキサルティ0.26
ハロペリドール0.47セルチンドール0.40

ブリラロキサジンの効果量0.6は、オランザピンの0.56やリスパダールの0.55より少し大きいです。ソリアンの0.73よりは小さい位です。

同じドーパミン部分作動薬であるエビリファイやレキサルティよりも、はるかに大きいです。エビリファイは0.41、レキサルティは0.26となっています。

ブリラロキサジンの陽性症状、陰性症状、その他の症状、に対する全般的な効果は、とても高いとフェーズ3試験で示されました。少なくとも、オランザピンと同じ位の有効性があるかもしれません。

陽性症状への効果

次に、ブリラロキサジンの陽性症状への効果に絞って見ていきます。他の抗精神病薬のPANSS陽性スコアの効果量は、下の表のようになっています。

PANSS陽性効果量
ソリアン0.69ハロペリドール0.49ラツーダ0.33
クロザピン0.64シクレスト0.47カリプラジン0.30
リスパダール0.61ジプラシドン0.43イロペリドン0.30
クロルプロマジン0.57セロクエル0.40レキサルティ0.17
オランザピン0.53セルチンドール0.40
インヴェガ0.53エビリファイ0.38

ブリラロキサジンの陽性症状への効果は、効果量で0.5と出ています。オランザピンの0.53やインヴェガの0.53より小さいです。ハロペリドールの0.49より少し大きいです。

ブリラロキサジンは、陽性症状に対する短期的な有効性は、まあまああると思われます。長期的な有効性にも期待が持てます。

陰性症状への効果

次に、ブリラロキサジンの陰性症状への効果に絞って見ていきます。他の抗精神病薬PANSS陰性スコアの効果量は、下の表のようになっています。

PANSS陰性効果量
クロザピン0.62インヴェガ0.37ハロペリドール0.29
ソリアン0.50クロルプロマジン0.35ラツーダ0.29
オランザピン0.45エビリファイ0.33レキサルティ0.25
シクレスト0.42ジプラシドン0.33イロペリドン0.22
セルチンドール0.40カリプラジン0.32
リスパダール0.37セロクエル0.31

ブリラロキサジンの陰性症状への効果は、効果量が0.4と出ています。オランザピンの0.45やシクレストの0.42より低いですが、リスパダールの0.37より高くなっています。

ブリラロキサジンの陰性症状への効果は、おそらく普通よりやや良い位のものだと思います。

有効性まとめ

ブリラロキサジンの有効性は、やはり高めだと思います。鎮静作用の高さが、短期的な有効性の高さにつながっていると思います。

長期的な有効性については、今進行中の長期投与試験の結果をよく見ていきたいです。

副作用

次に、ブリラロキサジンの副作用について見ていきます。

フェーズ3試験で5%以上の患者に発生した副作用は、眠気(7.5%)と頭痛(6%)のみです。それらは重度なものではなく、だいたい一時的なものであったようです。

眠気の副作用の発生率は、エビリファイが3.1%で、レキサルティが2.0%だったので、ブリラロキサジンの7.5%は、それらより高いです。

なので、ブリラロキサジンは、ドーパミン部分作動薬の中では、鎮静作用が高くなっているかもしれません。

ブリラロキサジンは、体重増加の副作用が少ないです。フェーズ3試験では、体重が増加した患者の割合は、5.9%でした。エビリファイの場合は9.2%で、レキサルティの場合は10.4%でした。

体重増加した人の割合が、エビリファイやレキサルティの半分位になっています。

ブリラロキサジンは、錐体外路症状アカシジアも少ないです。0.7%しか発生しませんでした。アカシジアの発生率は、レキサルティが5.1%、エビリファイで11.7%でした。

ブリラロキサジンの錐体外路症状やアカシジアの発生頻度は、かなり少ないです。

ブリラロキサジンは、高プロラクチン血症の副作用も少ないです。性機能障害や生理不順などは少ないかもしれません。

副作用まとめ

エビリファイやレキサルティと比べた時、ブリラロキサジンの副作用については、次のように言えると思います。

  • 眠気が出やすく、鎮静作用がやや強い。
  • 体重増加少ない
  • 錐体外路症状アカシジアかなり少ない

忍容性と安全性

ブリラロキサジンは、全体的に副作用が軽く、忍容性と安全性は高いです。

フェーズ3試験において、ブリラロキサジン投与による有害事象の発生率は、35.5%でした。他の抗精神病薬の有害事象発生率は、知る限りで、下の表のようになっています。

治験薬治験薬投与による
「有害事象発生率」
ルマテペロン(フェーズ3)64.7%
ウロタロント(フェーズ2)45.8%
KarXT(フェーズ2)54%
KarXT(フェーズ3①)75%
KarXT(フェーズ3②)70%

上の表を見てみると、ブリラロキサジンによる有害事象発生率35.5%は、かなり低いと思います。

フェーズ3試験では、ブリラロキサジン投与による副作用は、少なかったです。なんらかの副作用が出た人は、3人に1人程度しかいませんでした。

次に副作用が原因でブリラロキサジン投与を中止した患者の割合を見てみます。

ブリラロキサジンを副作用が原因で中止した患者の割合は、なんと0%です。他の抗精神病薬を副作用が原因で中止した患者の割合は、下の表のようになっています。

治験薬有害事象による中止率
ルマテペロン(フェーズ3)1.3%
ウロタロント(フェーズ2)8.3%
KarXT(フェーズ2)2%
KarXT(フェーズ3①)7%
KarXT(フェーズ3②)6%
エムラクリジン(フェーズ1b)7%

やはり、ブリラロキサジンの副作用による投与中止率0%は低いです。他の薬では、副作用が原因で中止した割合が、7%程度ある場合もあります。

ブリラロキサジンは、副作用が出る人の割合が少ないばかりでなく、副作用が重度になる事も、少ないのではないかと思います。

次に、副作用も含めなんらかの理由で、ブリラロキサジンの投与を中止した人の割合を見ていきます。

一般的に、投与が中止される理由は、「副作用が重い」場合の他に、「効果の不足」や「患者の自由意思による中止」などが多いです。

ブリラロキサジンの投与中止率は、16%でした。他の薬の投与中止率を、知っている限り下の表に示します。

治験薬投与中止率
ルマテペロン(フェーズ3)14.7%
ウロタロント(フェーズ2)21.7%
KarXT(フェーズ2)20%
KarXT(フェーズ3①)25%
KarXT(フェーズ3②)37%

上の表を見ると、ブリラロキサジンの投与中止率16%は低い方だと思います。

理由はわかりませんが、フェーズ3試験で、ブリラロキサジンの投与を中止した患者は、16%いたようです。他と比べて多くはありませんでした。

ブリラロキサジンは、副作用が出にくく、出ても軽い場合が多いです。忍容性や安全性は高いです。

開発状況

上にも書きましたが、ブリラロキサジンは、米国で、2025年の終わり頃か2026年の始め頃に、発売される見込みです。

現在、52週間の長期投与試験が行われています。

また、今回のフェーズ3試験(RECOVER試験)とは別に、6週間投与のフェーズ3試験(RECOVER-2試験)も行われる予定です。RECOVER-2試験は、2024年前半開始予定です。

2025年初めにFDAに承認申請が提出される事が見込まれています。

日本で、いつ治験が始まるかは不明です。

コメント

ブリラロキサジンは、有効性が高く、副作用が軽い可能性があります。

加えて、「認知機能障害」や「個人的・社会的機能遂行度」の改善度合いも、まあまあ高いです。(両方とも効果量0.5)

KarXTやウロタロントほどの新奇性はないかもしれませんが、使ってみて結構いい薬だと思う人が出てくるかもしれません。注目していきたいです。

ブログ改善のため、この記事の感想を是非お願いします。(複数選択可)No.96

参考文献

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