「ピリドキサミン(ビタミンB6)」治療抵抗性の統合失調症にも効く可能性あり(2024.2.1修正)

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概要

一部の統合失調症は、ペントシジンという有害物質が脳内に蓄積して、カルボニルストレス状態になることで引き起こされるという説がある。これをカルボニルストレス仮説という。

カルボニルストレスは、ピリドキサミンというビタミンB6の一種を投与することで、軽減される

ピリドキサミンの統合失調症への有効性、安全性を調べるための、医師主導型の治験が行われている。カルボニルストレスが亢進している患者が治験に選ばれた。

2人劇的に改善し、4人中等度改善したので、治験実施者はポジティブにとらえているようだ。副作用も重篤なものも含めいろいろあったが、すぐに解決したので、安全性に問題があるとはされていない

カルボニルストレスが亢進している患者は、他の抗精神病薬が効きにくい治療抵抗性統合失調症患者重なる。ピリドキサミンは、特に治療抵抗性の統合失調症患者には待ち望まれる薬になる可能性がある。

ピリドキサミンは現在、日本国内で、興和株式会社によって、フェーズ2bの臨床試験が進行中

イントロダクション

活性酸素が体に悪いというのを聞いたことがあるかもしれない。活性酸素の働きを抑えるような抗酸化作用を持つ栄養素を含む食品は、健康に良く、老化を防ぐと言われる。その活性酸素が体内に産出された事を原因にして、カルボニルストレスが起こる。

カルボニルストレスが起こると、終末糖化産物(Advanced Glycation Endproducts、AGEs)が蓄積した状態になる。

終末糖化産物(AGEs)は、身体の様々な老化現象に関与する有害物質。糖尿病、慢性腎不全、心血管障害、など様々な身体疾患との関連があるとされている。

一部の統合失調症患者には、特に、代表的な終末糖化産物(AGEs)である、ペントシジンという有害物質が蓄積してしまっている。

統合失調症患者のおよそ2割の患者に、ペントシジンが蓄積し、カルボニルストレス亢進(こうしん)していると言われている。

一部の統合失調症の原因は、カルボニルストレスの亢進によるという説がある。それを、カルボニルストレス仮説という。

そのような統合失調症患者には、GLO1遺伝子に変異があることが見つかっている。GLO1遺伝子は、カルボニルストレスの除去機構に関わる酵素を、設計している。

つまり、統合失調症患者のGLO1遺伝子がうまく働かず、カルボニルストレスを除去できない事で、統合失調症が発症してしまっていると考えられている。

カルボニルストレスは、統合失調症患者の脳内の神経発達の異常を引き起こし、統合失調症を発症させる。この異常は、カルボニルストレスを軽減するピリドキサミン(ビタミンB6の一種)を加えることで改善する

この神経発達の異常が起こるメカニズムもある程度わかっているが、難しくなってしまうので省略する。CRMP2というタンパク質が関わっている。

このCRMP2をターゲットとする統合失調症治療薬や、カルボニルストレスを抑制するピリドキサミンなどが、新たな治療薬となる可能性が期待されている。

有効性(治験結果)

ピリドキサミンの有効性、安全性を調べるための医師主導型臨床試験が行われた。入院中の患者など、10人のカルボニルストレスが亢進している患者に対して行われた。

既存薬を服用している患者に、1200~2400mgという高用量のピリドキサミン24週間(168日間、半年近く)に渡って、追加投与された。

1名が121日目に全身状態悪化のため、試験から脱落した。治験を完遂したのは9名だった。

PANSSを尺度として、ピリドキサミンの有効性が測られた。PANSSについてはこちらの記事も参考にしてもらいたい。

PANSS 陽性陰性症状評価尺度(有効性測定に使われる尺度)

PANSSのスコアは、スコアが高い程、統合失調症の重症度が重い。ピリドキサミン投与によってどれだけスコアを減少させられるかが調査された。

A~ J の10人に24週間ピリドキサミンが投与された。PANSSスコアの変化率は次のようになっている。

PANSSスコア
A9.2%減少
B11.8%増加
C51.5%減少
D13.6%増加
E17.5%増加
F6.1%減少
G8.9%増加
H8.9%減少
I6.7%減少
J24.4%減少
平均8.1%減少

PANSSスコアが、大幅に改善したのは2名で、C51.5%減少 J 24.4%減少。  

中等度改善したのは、A9.2%減少F6.1%減少H8.9%減少I6.7%減少の4名。

逆にやや悪化したのが、B11.8%増加D13.9%増加E17.5%増加G8.9%増加の4名。

全員を平均して、PANSSスコアが8.1%減少している。

2人劇的に改善し4人中等度改善したという事で、治験実施者は、この結果をポジティブにとらえているようである。

この治験には、カルボニルストレスが亢進している患者が選ばれた。もともとカルボニルストレスが亢進している患者たちは、難治性で治療抵抗性のある患者たちと重なる

元々他の薬では治りにくい患者なので、この結果でも十分、ということなのかもしれない。

ピリドキサミンは、他の薬では十分に効かなかったような治療抵抗性の統合失調症患者には、待ち望まれる薬になるかもしれない。

開発状況

日本国内で、興和株式会社によって、フェーズ2bの臨床試験が進行中らしいが、その結果はまだ出ていない。

2024年5月1日追記:残念ながらフェーズ2b試験では、統合失調症に対してピリドキサミンの有効性が認められませんでした。統合失調症を対象としたピリドキサミンの開発中止されました。

副作用、安全性

既存薬に加えて、1200~2400mgという高用量のピリドキサミンを24週間投与した時の副作用と安全性をみてみる。

治験薬との因果関係が、はっきりとあると認められた重篤な有害事象は、ウェルニッケ様脳症が2名あった。これは、チアミン(ビタミンB1)をすぐに投与したことで、後遺症なく回復した。

治験薬との因果関係がある可能性がある、もしくは関係を否定できない重篤な有害事象は、亜混迷、意識消失、肺炎、がそれぞれ1名ずつあった。

治療薬との因果関係がある可能性がある、もしくは関係を否定できない非重篤な有害事象は、過鎮静が3名、錐体外路症状の悪化が1名いる。いずれも消失したようだ。

錐体外路症状については、既存薬の服用で症状があった患者においては、逆に4名で改善が見られた。

よくわからないが、10人しか投与していないのに、重篤なものも含めて、副作用がこうもいろいろと出るのは、大丈夫なのかと思ってしまう

フェーズ2bの治験の結果が出ないと、安全かそうでないか、なんとも判断できないが、治験実施者は、特に安全性に問題がある薬だとは、認識していないようだ。すぐ解決したようなので、大丈夫なのかもしれない

コメント

ピリドキサミンが統合失調症を治すメカニズムについての研究は、速いペースで進んでいるように感じられる。それに伴って、CRMP2タンパク質など、新しい創薬のターゲットも発見されたりしている。

これらは、ドーパミンD2受容体アンタゴニスト(D2遮断)でない治療のアプローチで、ユニークな研究になっているのではないか。そのユニークさによって、統合失調症自体の発症の原因解明にも、いくらか寄与することになるのではないかと、調べている時に思われた。

統合失調症発症の原因解明について言えば、解明されれば、実質的に統合失調症根治への道も開くだろう。2007年頃には、それは、2021年頃に達成されると言われていた。が、考えられていたより複雑なようで、まだまだ先のことになりそうだ。

ピリドキサミンは、カルボニルストレス阻害薬です。同じカルボニルストレス阻害薬のベタインの記事でカルボニルストレス仮説について説明しているので、良かったら見てみて下さい。リンクはこちらです。

【東大病院の臨床試験成功】ベタイン/治療抵抗性の統合失調症にも効く可能性あり

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参考文献

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