エスケタミン/治療抵抗性うつ病にも効く/SSRI到来以来の画期的治療薬(2024.6.24修正)

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概要

  • エスケタミンは、優れた抗うつ薬です。
  • 従来の抗うつ薬より、高い確率効果が発現します。
  • 24時間以内という短時間で効果が表れます。
  • 一回の投与で一週間効果が持続します。
  • SSRI以来の、新しいうつ病治療パラダイムの到来とも言われています。
  • FDA(アメリカ食品医薬品局)によって、治療抵抗性のうつ病に対する画期的治療薬に指定されています。
  • スプラバート(エスケタミン)は、ヤンセンファーマによって開発されました。
  • 米国では既にFDAに承認されています。2019年から使われています。
  • 日本でも、ヤンセンファーマが開発しています。
  • 2021年6月現在、フェーズ2試験進行中です。

ケタミン

エスケタミンの前にケタミンの話をします。エスケタミンとケタミンは、効果の仕方が近いです。

ケタミンは、麻酔薬として30年以上前に導入された。しかし、有意な副作用があった。そのため、他の麻酔薬が導入された事で、使用されなくなった

1980年代、1990年代には、クラブドラッグとして、スペシャルKという名前で使われていた。

その後、麻酔や乱用薬物としての効果をあらわす以下の量のケタミンでは、抗うつ効果がみられることがわかった。

従来の抗うつ薬は、40~47%位の確率でしか治療効果が発現しない。しかも、効果が出るまでに、何週間も何カ月もかかる

ケタミンは、65~70%の確率で効果が発現する。しかも24時間以内に効果が始まる。一回の投与で一週間効果が持続する。

これらによって、うつ病治療の新しいパラダイムの到来とも言われる。

ケタミンは特に、治療抵抗性のうつ病自殺念慮を伴ううつ病に効果をあらわす。

エスケタミンとアールケタミン

ケタミンは、SケタミンRケタミンという2種類の光学異性体で構成されている。SケタミンとRケタミンが、同じ位の量、ケタミンに含まれている。

光学異性体とは、互いに鏡像の関係にある物質。互いに鏡像の関係にある物質は、同じ分子式で表されるが、構造的に重ね合わせることができない。

RケタミンとSケタミンの構造式は次の図のようになっている。

エスケタミン
アールケタミン

六角形をしたベンゼン環分子など、構成要素は全く同じ。けれど、それらの結びつき方が微妙に違っている。自分の目で確認してみて欲しい。繰り返すが、互いに鏡像の関係になっている。

光学異性体同士の物質は、沸点や密度などの物理的性質は同じ。けれど、生理作用などで微妙に違った働きをする。

RケタミンとSケタミンも、効果発現の長さや、起こる副作用作用する受容体などで若干の違いがある。

例えば、エスケタミンは、アールケタミンと違って、シグマ受容体に作用しない。

けれど、ドーパミントランスポーターへは、アールケタミンより8倍作用する。その結果、前頭前皮質でドーパミンを増加させ、抗うつ効果を起こす。

エスケタミンとアールケタミンの、どちらが抗うつ薬として優れているかはわかっていない

アールケタミンについては、次の記事で書いています。
アールケタミン/エスケタミンより強力で安全?/自宅で使用可?(2024.6.25修正)

有効性

エスケタミンの有効性については次のような事が言われています。

その1:作用の発現が速い

エスケタミンは、投与後、数時間から数日で効果が現れます。従来の抗うつ薬は効果の発現に数週間かかります。

エスケタミンの迅速な効果の発現は、重度の自殺念慮を有する患者にとって特に有益です。

その2:治療抵抗性のうつ病に有効

エスケタミンは、治療抵抗性うつ病に対しても使えます。エスケタミンによって、治療抵抗性うつ病患者のうち、かなりの割合が回復します。他の抗うつ薬が効かなかった場合に希望を与えるものです。

その3:新しい作用機序

エスケタミンは、NMDA受容体阻害薬です。グルタミン酸伝達を調節するという新しい作用機序になっています。

そのため、従来のモノアミン作動性抗うつ薬(セロトニン、ノルアドレナリン、ドーパミンに作用する抗うつ薬)が効かない患者にも効く可能性があります。

その4:短期投与試験で有効性があった

短期投与試験では、治療抵抗性の患者を有意に改善させました。従来の抗うつ薬と併用する形で使われました。

その5:長期投与試験で有効性があった

長期投与試験では、長期的抗うつ効果を示しました。寛解に至った患者の再発率減少させました。

エスケタミンは、効果の発現が速いです。治療抵抗性のうつ病患者にも効きます。長期的な有効性も十分あります。

副作用(治験結果)

鎮静、解離症状、血圧上昇、めまい、吐き気、感覚異常、感覚減退、嘔吐が主な副作用だったようだ。認知機能の障害、肝傷害、膀胱炎も見られた。

自殺、急死、交通事故死も見られたが、エスケタミンの影響かはわからない。

ある短期の調査では、エスケタミンが、認知機能を障害させるという結果は出なかった

しかし、長期の試験では、高齢の患者において反応するまでの時間に遅れがみられた。それがエスケタミンの影響であるかはわかっていない。

長期の繰り返し投与による危険性が心配されている。泌尿生殖器や肝胆汁や認知機能への影響があるかもしれない。よく監視して使用されないといけない事になっている。

開発状況

エスケタミン(スプラバート)は、ヤンセンファーマによって、抗うつ薬として開発された。2019年米国でFDAによって承認された。スプラバートは点鼻薬。鼻から吸入する薬になっている。

ただし、従来の抗うつ薬との併用が必要。また、医療機関医師の診察室における使用に限られる。病院外や自宅では使えない。

日本では2021年6月現在、ヤンセンファーマによってフェーズ2試験進行中であるようだ。

コメント

エスケタミンは、現在、最も有望な抗うつ薬のうちの1つだと思われる。他にもいいものがあるかもしれないので、今後見ていきたい。

ところで、今回、次のように感じた。

うつ病に対して、適正に使われ安全な程度の量であれば、麻薬に似たものを使っても、医学的に言って大丈夫、という事。

今後、そのような考えが抵抗なく受け入れられるようになっていくのかもしれない。(麻薬の使用を勧めているわけではありません。)

ケタミンの他にも、麻薬に似た物質が、抗うつ薬として導入されていく。そういう事も、今後あるのかもしれない。

例えば、CBD(カンナビジオールの略、大麻成分の一種)が統合失調症に効くかもしれないという事を、他の記事で書いた。CBDは、トフラニールと同等の抗うつ効果が見られている。

また、MDMAやLSDに似た構造の抗うつ薬も開発中で、画期的治療薬に指定されたりしているらしい。それらについても今後記事にしていけたらいいと思う。

関連記事はこちらです。
アールケタミン/エスケタミンより強力で安全?/自宅で使用可?(2024.6.25修正)

海外国内の開発中にある「抗うつ薬」のリスト 2024年版

発売に近い抗うつ薬「ズラノロン」/即効性あり(3日位)/寛解率50%/新しい作用メカニズム

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参考文献

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