はじめに
ズラノロンという開発中の抗うつ薬について要望がありました。記事を作成します。
ズラノロンは、日本ではまだ発売されていません。米国では、産後うつ病に対する適応で販売されています。(2023年8月米国発売)
大うつ病に対しての治験では、有効性があったりなかったりしています。ですので、大うつ病の薬としては、FDAから販売承認が出ていない状況です。追加のフェーズ3試験が今後行われると思います。
日本でも、現在、大うつ病に対してフェーズ3試験が行われています。日本での発売も近いと言われています。
他の抗うつ薬との違い
現在、多く使われている抗うつ薬は、SSRI、SNRI、三環系抗うつ薬などです。
それらの薬は、効果が出る確率が低いです。SSRIなどは、服用しても60~70%の患者は寛解に至りません。30~40%の患者には、そもそも効果が見られません。
しかも、それらの薬は効果が出るまでに、何週間も何か月もかかります。
ズラノロンは、3日目で効果が現れると言われています。また、ある試験では、50%の寛解率であった、と報告されています。
ズラノロンは、従来の薬より迅速に効果が発現します。効果が発現する確率も高いです。
作用のメカニズム
ズラノロンは、GABA受容体アロステリック作動薬です。ベンゾジアゼピン系薬剤と似ています。両方ともGABA受容体の作動を促進します。
ベンゾジアゼピン系薬剤は、鎮静効果を引き起こします。ズラノロンにも鎮静効果はありますが、抗うつ効果もあります。
なぜ、抗うつ効果が出るのかは、十分に解明されていません。興奮抑制バランス(EIバランス)の調節や、神経可塑性の促進、ホルモンバランスの調節などによると言われています。
ズラノロンは、ベンゾジアゼピン系薬剤に似ていますが、抗うつ効果があります。なぜ抗うつ効果があるかは、十分に解明されていません。
有効性
繰り返しになりますが、治験でのズラノロンの大うつ病への有効性は、あったりなかったりしています。FDAからの販売承認は出ていません。
治験は「試験の設計」や「どのような患者集団を対象としたか」によっても左右されます。過去にはそれらの条件を変える事によって、発売に至った薬もたくさんあります。
今後のFDAとの対話に注目したいです。追加の試験が行われるかもしれません。
日本でのフェーズ3試験も進行中なので、結果を待ちたいです。
ズラノロンの有効性が確認されて、販売承認が下りる事が望まれます。
副作用
フェーズ3試験でよく発生した有害事象は、次のようなものでした。
疲労 | 6.8% | めまい | 5.7% | |
眠気 | 6.8% | 鎮静 | 4.7% | |
頭痛 | 6.3% | 吐き気 | 3.6% | |
下痢 | 6.3% |
実際に使った人の感想
ズラノロンは、大うつ病に対してはまだ使えません。けれど、産後うつ病に対しては、1年程前から米国で使われています。
Redditという米国の掲示板で、ズラノロンを使ったという患者がいました。このセクションでは、4人の産後うつ病患者の書き込みを、和訳してまとめます。
ただし、産後うつ病に対しては14日間のみの処方になっています。長期には使えません。
患者その1
服用1日目:50mgを服用し、気分は良かったが少し眠かった。ふらふらした。
2日目:午後5時に服用。午後9時にとても眠くなり、すぐに寝た。夜中赤ちゃんの泣き声にも気づかなかった。それは珍しい事。
3日目:午後5時15分に服用。午後8時半で、あくびが出始めた。気分の落ち込みやイライラの副作用が出た。
4日目:最高の気分。本当に気分がいい。めまいがした。午後6時に服用。
5日目:今日もいい感じ。2日連続で調子がいいのは、とても珍しい。仕事でのコミュニケーションが改善された。より首尾一貫して客観的に話せるようになった。霧が晴れたような気分。
6~7日目:気分は引き続きいい。
8~14日目:すべてが4日目以降と同じように続いた。
この患者は、4日目から効き始めて、14日目まで効果が持続したようです。理想的な効き方だったのではないでしょうか。
患者その2
1日目~:気分が100倍良くなった。日がたつにつれて、効果が早く切れるのを感じた。夜には鎮静効果があった。
4日目~:4日目には怖くなってきた。薬が長続きせず、気分が悪くなってきた。
10日目~:またポジティブな変化に気づき始めた。1日目のような素晴らしい感覚はなかった。けれど、すべてが軽く感じられ、世界が恐ろしいものではなくなったように思えた。
服用終了後:うつ病、不安障害などにまだ苦労しているが、私にとってズラノロンは非常に助けになったと感じている。
この患者は、1日目に顕著に効き始め、4日目に効果がなくなってきて、10日目にまた効き始めました。本人は非常に助けになったと言っています。服薬した意味はあったようです。
患者その3
2日目:とても順調だった。8時間眠れたし、気分もいい。
14日目(最後の服用):気分はいい。この後も気分が良くなる事を願っている。
服用終了後①:日がたつにつれて、疲れやすくなったり、あちこちでめまいがするようになった。不眠症になった。午前2時に目が覚めた。面白くない気分。
服用終了後②:深刻なうつ病ではなくなったが、気分の落ち込みや泣くことはある。ホルモンが関係しているのだと思う。
服用終了後③:今は最高の気分。ホルモン剤を処方してもらって良くなった。ズラノロンは、私が抱いていた自殺への執着を取り除いてくれた。
この患者は、2日目から14日目まで良く効いたようです。服用を終了してから調子を崩しましたが、ホルモン剤の使用で良くなったようです。ズラノロンは、結局とても役に立ったという事だと思います。
患者その4
1~2日目:今までで初めて夜通し眠れた。二日酔いのような感じがしたが、おかしなことはなかった。
3~4日目:なかなか寝付けなかった。効果はあるのかは、まだわからない。怒りを感じているし、罪悪感を感じ始めた。だが、精神は完全に機能しているし、運転なども問題なくできる。
11日目:全体的にはまだかなり調子がいい。副作用で少し視界がぼやける。また、夜の事をよく覚えていない。筋肉のけいれんもある。精神的には大丈夫。怒りのエピソードはない。でも、SSRIを服用していた時ほど幸せな気分にはなれない。
12~14日目:気分は本当に落ち込み、とてもイライラして、気分が悪い。次の日には気分が良くなったりする。一日中酔っぱらったような気分で、記憶があいまいな気がした。
服用終了後振り返り:私にはズラノロンは効果がなかったと自信を持って言える。イライラする日、怒りっぽい日、やる気が出ない日、夫への軽蔑、いろいろあった。悪い事ばかりだった。
本人も言っているように、この患者には、ズラノロンはうまく効かなかったようです。やはり全ての患者に効くという訳ではないようです。
コメント
ズラノロンは、日本でも塩野義製薬が開発していて、発売までに近いと言われています。大うつ病に対する適応で開発されています。
従来の抗うつ薬とは異なるメカニズムで作用するので、期待が高いです。3日位で効き即効性があるし、寛解率も高いです。
この薬が助けになる患者はたくさんいるかもしれません。フェーズ3試験が成功する事が望まれます。今後のズラノロンの情報に注目していきたいです。
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