反復性過眠症(クライネ-レビン症候群)に効く薬

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はじめに

反復性過眠症について要望がありましたので、記事にします。

反復性過眠症の基本的な事については他のサイトにもたくさん書いてあるようです。例えば、この外部記事を参考にしてみてください。

一日中寝てしまうのはなぜ?うつ病ではない反復性過眠症について解説

自分の記事では、基本的な事は書かず、反復性過眠症に効くについて書きます。

反復性過眠症に使われる薬には、リチウム、精神刺激薬、抗うつ薬、抗精神病薬、抗てんかん薬、抗炎症薬、などがあります。

どの薬であっても、全ての患者に効果が出るわけではないです。人によって違うので、個人に合わせて薬を選択する必要があります。

反復性過眠症治療の限界

反復性過眠症は、100万人に数人しかいない珍しい病気です。ですので、大人数を必要とするRCT(ランダム化比較試験)はまだ行われていません。

個別の患者の症例報告としての研究しかないです。症例報告は、RCTに比べて、薬の効果に対するエビデンスのレベルは低いです。

つまり、反復性過眠症に対して効果があると確証された薬は、まだありません。使用が推奨される薬もありません。

そもそも反復性過眠症は、原因が不明で、治療は困難です。自然に治るのを待つしかない事も多いです。平均して14年すれば、寛解するそうです。

2つのシステマティックレビュー

先程、反復性過眠症に対する薬の研究は、まだ症例報告しかないと言いました。けれど、症例報告を集めてまとめて研究をした、システマティックレビュー(系統的再評価)というものがあります。

以下では、反復性過眠症に関する2つのレビューを紹介します。

1つ目のレビューは、2005年に発表されたもので、186件の症例報告をまとめて研究しています。

2つ目のレビューは、2008年に発表されたもので、108件の症例報告をまとめて研究しています。

その2つのレビューへのリンクはこちらです。

Kleine–Levin syndrome: a systematic review of 186 cases in the literature 

Kleine–Levin syndrome: A systematic study of 108 patients

追記:2つ目は、システマティックレビューとはちょっと違っているようです。108人の患者のアンケートを元に研究されています。ですが、この記事を書くためには、だいたいレビューと同じものと考えて問題ないと思いました。以下ではレビューと表記しますが、厳密には違います。

精神刺激薬の効果

それらのレビューでは、精神刺激薬の効果についても研究されています。それを下の表にまとめました。2005年のレビューで作られた表を、まず下に示します。眠気への効果についての表です。

精神刺激薬患者数効果なし中等度の効果顕著な効果効果あり(%)
モダフィニル22000%
メチルフェニデート1552320%
ぺモリン430125%
アンフェタミン17231271%
フルマゼニル22000%

上の表を見てみると、アンフェタミンが効果ありの割合71%で、特に効果があったようです。効果の程度も1番強いです。

次いで、メチルフェニデートやぺモリンが効くようです。けれど、効果ありの割合は、それぞれ、20%25%とアンフェタミンより低いです。

モダフィニルやフルマゼニルについては、このシステマティックレビューでは、効果なしとなっています。

精神刺激薬は、眠気は減少させますが、行動障害や認知機能障害はあまり改善させません。性欲亢進を悪化させる事もあります。

2005年のレビューでは、アンフェタミンが特に良く効くとなっています。

次に、2008年のレビューで作られた表を下の表に示します。

精神刺激薬患者数効果なし部分的効果顕著な効果
モダフィニル4379%21%0%
メチルフェニデート2789%11%0%
アマンタジン2458%29%12%
アンフェタミン1487%13%0%
ブプロピオン450%50%0%

このレビューでは、アマンタジンが一番効果があるとなっています。アマンタジンはドーパミン再取り込み阻害薬で、抗ウィルス的な作用も持っています。

アマンタジンは、過眠エピソードの初日に使われる事で、エピソードを止める効果が見られています。

アマンタジンという、抗ウィルス効果を持った薬が特に良く効いたという結果は興味深いです。

過眠エピソードの開始は、ウイルス感染の後に起こるケースが多いらしいです。反復性過眠症は、免疫機能にも関係している事が言われています。

このレビューでは、アマンタジンに次いで、ブプロピオンが効果があるとなっています。その次にモダフィニルが来ています。アンフェタミンとメチルフェニデートは効果が低いとなっています。

精神刺激薬の過眠への効果は、2つのレビューの間であまり一貫していません。

精神刺激薬についても、効かない事の方が多いかもしれません。けれど、アンフェタミンについては、眠気に特によく効くという、また別のレビューの結果もあります。

ですが、精神刺激薬は、副作用で行動障害などが悪化する事もあるので、注意が必要です。

リチウムの効果

リチウムは、反復性過眠症に対して最も勧められる薬かもしれません。過眠のエピソードを短縮し、再発を減らすと言われています。行動障害も改善します。

2005年のレビューでは、29名の患者のうち12名に再発防止の効果がありました。つまり、41%の患者に効果がありました。

3件のケースでは、リチウムを投与するとエピソードが止まり、リチウムをやめると再発しました。つまり、効果は疑いのないものでした。

一方、2008年のレビューでは、24%の患者にしか効果は見られませんでした。

リチウムはおそらく、反復性過眠症に対する第一選択薬だと思います。リチウム程、再発防止の効果が多く出る薬はありません。

行動障害などの他の症状も治療します。精神刺激薬よりかは根治に近い薬なのかもしれません。

けれど、長期的な副作用に注意が必要です。

抗てんかん薬の効果

抗てんかん薬も反復性過眠症の再発を防止する事があります。

テグレトールは、特に効果があるとされています。2つのレビューでは、それぞれ、21%と9%の患者に再発防止効果が見られた、となっています。

デパケンについては、2つのレビューで、それぞれ、20%と25%の患者に再発防止効果が見られました。

他の抗てんかん薬で、効果があると言われているのを見かけたのは、フェノバルビタール、フェニトイン、アセタゾラミド、ガバペンチンなどです。

抗てんかん薬も、一部の患者には顕著に効く場合があります。効果が出る患者の方が少ないですが、反復性過眠症の患者には貴重な選択肢だと思います。

症例報告集(14個)

このセクションでは、反復性過眠症についての14個の症例報告を紹介します。論文検索で症例報告をできるだけ検索しました。けれど、全てを網羅していません。一部だと思います。

もしかしたら、以下の薬が効く人がいるかもしれません。

レクサプロが効いた例(抗うつ薬)

反復性過眠症の23歳の男性に、一日20mgのレクサプロが投与されました。すると、寛解の長さが2週間から3か月に延びました。6か月後にも、過眠エピソードの頻度や重症度は減少していました。

詳しくは次のリンク先の論文に書いてあります。必要であれば、DeepLなどの翻訳ツールを使って見てみて下さい。

A case of Kleine-Levin syndrome successfully treated with Escitalopram

オーロリクスが効いた例(抗うつ薬)

反復性過眠症の40歳の男性に、一日300mgのオーロリクスが投与されました。顕著な改善が見られました。12か月経っても再発はありませんでした。詳しくは次の論文を見て下さい。

Clinical use of moclobemide in Kleine-Levin syndrome

プロザック(フルオキセチン)が効いた例(抗うつ薬)

反復性過眠症の患者(4歳)に、プロザックが投与されました。投与量は不明です。10週間かけて徐々に良くなっていきました。現在、症状はありません。詳しくは次のリンクへ。

https://www.indianpediatrics.net/dec2008/1007.pdf

クラリスロマイシン投与例(抗生物質)

23歳の女性患者に、500mgのクラリスロマイシンが、一日2回投与されました。

24時間以内に眠気は改善しました。一日の睡眠時間は、14~18時間から5~8時間に減少しました。行動障害も改善しました。

けれど、1,2週間後には睡眠時間や眠気は元に戻り始めました。1か月後、効果がないのでクラリスロマイシンを中止しました。詳しくは次のリンクへ。

Kleine-Levin Syndrome Treated With Clarithromycin

メチルプレドニゾロンが効いた例(ステロイド薬)

26名の患者に、メチルプレドニゾロンが投与されました。過眠エピソードの早期に一日1g、3日間に渡り投与されました。

11名(42.3%)の患者に、エピソード短縮効果がありました。メチルプレドニゾロンは、反復性過眠症のエピソードの長さを短縮できる可能性があります。詳しくは次のリンクへ。

IV steroids during long episodes of Kleine-Levin syndrome

アセタゾラミドが効いた例(抗てんかん薬)

26歳の女性患者に、一日1gのアセタゾラミドが投与されました。一か月以内に劇的な効果が見られました。過眠エピソードの頻度は減り、長さも短くなりました。重症度も軽減しました。

3年後に試しにアセタゾラミドを中止してみたところ、症状が悪化しました。再び服用したら元のように改善しました。詳しくは次のリンクへ。

Treatment of Kleine-Levin Syndrome with Acetazolamide

ガバペンチンが効いた例(抗てんかん薬)

17歳の女性患者に、一日1200mgのガバペンチンが投与されました。過眠エピソードの再発を止めることができました。詳しくは次のリンクへ。

Gabapentin for Kleine-Levin Syndrome

テグレトールが効いた例①(抗てんかん薬)

27歳の男性患者に、一日600mgのテグレトールが投与されました。過眠エピソードを完全に止めることができました。

2年後に試しにテグレトールを中止してみました。すると、2か月後に再発しました。再びテグレトールを始めたところ、再発はおさまりました。詳しくは次のリンクへ。

A case of Kleine–Levin syndrome with a complete and sustained response to carbamazepine

テグレトールが効いた例②(抗てんかん薬)

24歳の女性患者に、一日600mgのテグレトールが投与されました。過眠エピソードの頻度や長さが減少しました。最近6か月は、症状が出ていません。詳しくは次のリンクへ。

Sleeping Beauty: Kleine–Levin Syndrome

アルモダフィニルが効いた例(精神神経用薬)

24歳の男性患者に、一日150mgのアルモダフィニルが投与されました。二日以内に眠気の改善が見られました。睡眠時間は、一日20時間から10時間に減りました。

その後、8か月間は症状が出ていません。詳しくは次のリンクへ。(PDFだったのでリンクを貼れませんでした。下のワードで検索してみてください。)

Armodafanil for the treatment of Kleine-Levin syndrome

モダフィニルが効いた例①(精神神経用薬)

22歳の女性患者に、一日200mgのモダフィニルが投与されました。すぐに効果が出ました。その後、100mgのモダフィニルで2年間症状が出ていません。詳しくは次のリンクへ。

Kleine-Levine syndrome in an adolescent female and response to modafinil

モダフィニルが効いた例②(精神神経用薬)

17歳の男性患者に、まず、一日20mgのフルオキセチンが投与され、次に一日900mgリチウムが投与されましたが、効果はありませんでした。

モダフィニルを一日200mg投与したところ、反復性過眠症の症状はなくなりました。詳しくは次のリンクへ。

Just a moment...

フルマゼニルが効いた例(ベンゾジアゼピン拮抗薬)

23歳の女性患者に、フルマゼニルのクリームが使われました。前駆症状が出た時に手首に塗りました。それによって、過眠エピソードを回避できました。

最初は2か月に一回使っていましたが、その後、3,4か月に一回で済むようになりました。

反復性過眠症の防止策として期待されます。詳しくは次のリンクへ。(PDFだったのでリンクを貼れませんでした。下のワードで検索してみてください。)

RECLAIMING HER LIFE: SUCCESSFUL TREATMENT OF KLEINE-LEVIN SYNDROME WITH TRANSDERMAL FLUMAZENIL

エビリファイが効いた例(抗精神病薬)

15歳の女性患者に、一日5mgのエビリファイが投与されました。過眠エピソードは止まり、その後2年間症状はありません。

詳しくは次のリンクへ。(PDFだったのでリンクを貼れませんでした。下のワードで検索してみてください。)

Treatment of Kleine–Levin Syndrome with Aripiprazole

繰り返しになりますが、どの薬が効くかは、患者によって異なります。いろいろな薬を試してみて、良く効く薬が見つかれば、ラッキーなのではないでしょうか。

けれど、普通は、自然に治るのを10年以上待つしかないかもしれません。

追記:女性ホルモン

反復性過眠症の亜型として、月経関連クライネ・レビン症候群があります。月経関連過眠症とも呼ばれています。もちろん、女性にしかないタイプの過眠症です。

このタイプの過眠症には、経口避妊薬などの女性ホルモンを整える薬、が効く事があると言われています。また、ホルモン分泌を阻害する治療法もあります。

まとめ

  • 反復性過眠症にはリチウム一番良く効きます。
  • 抗てんかん薬とてもよく効く場合があります。
  • 精神刺激薬は特に眠気に効く事があります。アンフェタミンは特に良く効く場合があります。
  • アマンタジンよく効く事があります。
  • 個別のケースでは、いろいろな薬が効く事が見られています。

コメント

反復性過眠症について要望を受け書きました。反復性過眠症の人に役に立つ記事になっていれば幸いです。

この病気の研究が進み、リチウム以上に良い治療手段が見つかる事が望まれます。免疫機能との関係についての研究にも期待したいです。

関連記事はこちらです。

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