はじめに
この記事では、原因不明の過度な眠気(特発性過眠症)に効く薬を、できるだけ多く紹介します。なぜかいつも異常に眠い人へ向けて書きます。
日本で現在使われている薬、米国で使われている薬、開発中の薬、について書きます。また、要望があったので、モダフィニルについては、やや詳しく書きます。
その前に少しだけ、特発性過眠症について説明をします。
「特発性過眠症」とは何か?
特発性過眠症は、神経性の障害で、過剰な睡眠時間と過度な日中の眠気、を主な特徴とする。
「特発性」の意味は「原因不明」という事なので、特発性過眠症では、「原因不明」の強い眠気が起こる。ナルコレプシーや他の睡眠障害ではない、という事が診断に必要とされる。
特発性過眠症の「症状」
特発性過眠症の症状には、次の4つがある。
- 「日中の過度な眠気」
十分で長い夜間の睡眠にも関わらず、日中に眠くなりエネルギーが出ない。 - 「睡眠慣性、睡眠惰性、睡眠酩酊」
睡眠後、起きることに大変苦労し、再び寝入る事への、抗し難い位の欲求が起こる。 - 「意識混濁」
知覚、記憶、学習、遂行機能、言語、建設的行動能力、運動制御、注意、処理スピード、などの精度が損なわれる。 - 「過剰な睡眠時間」
9時間以上寝てもすっきりしない。日中に何時間か寝てもリフレッシュしない。
特発性過眠症の「原因」
特発性過眠症の原因は、あまり分かっていない。仮説として次のようなものが考えられている。他にもあるかもしれないが、ウィキペディア英語版に載っているものは、次の3つになる。
1.「ノルアドレナリン」システムの機能不全
2.脳脊髄液中の「ヒスタミン」濃度の減少
3.「GABA-A」受容体の活動過多
また、脳脊髄液中の「オレキシン」濃度の減少との関連も言われている。
それぞれの原因に沿(そ)った治療薬を、後でいくつか挙げる。
日本の特発性過眠症「治療薬」
特発性過眠症に使われる薬は、基本的にナルコレプシーの薬と同じらしい。
日本で特発性過眠症に適応がある薬は、モダフィニル(モディオダール)とペモリン(ベタナミン)の2つになっている。
モダフィニルはある医師によると、重度の過眠症よりは、軽症の過眠症に効きやすいらしい。
ベタナミンについては、副作用に劇症肝炎というものがあり、気をつけなくてはいけない。多くの国では販売中止になっている。日本では使える。
適応外処方の薬には、メチルフェニデート系のコンサータやアンフェタミン系のビバンセなどがある。
他に、ストラテラやマジンドールという薬も適応外で使われる。
日本で特発性過眠症に使われている薬を調べてみて、以上のものが見つかった。他に何が使われているかはわからない。
まとめの後のセクションで、米国で使われている薬を紹介する。それらの薬の中に、日本で適応外処方という形で使えるものもあるかもしれない。また、個人輸入という方法もある。
まとめ(日本)
適応あり モダフィニル、ペモリン
適応外 コンサータ、ビバンセ、ストラテラ、マジンドール
米国の特発性過眠症「治療薬」
米国では、特発性過眠症適応薬は、「xymav」の1つしかない。FDAによって有効性と安全性が認められている。
「xyrem」という薬もあるが、副作用として心血管リスクがある。そこで、xyremにカルシウムイオン、マグネシウムイオン、カリウムを混合し、さらに低ナトリウム化して、xymavが作られた。xymavは、心血管の副作用が軽減されている。
けれど日本では、xymavやxyremなどのガンマヒドロキシ酪酸(GHB)受容体作動薬は、麻薬指定され規制されている。
なので、おそらく日本では使えないが、現在米国で、GHB受容体作動薬の徐放剤(FT-218)が開発されている。
よくわからないが、GHB受容体作動薬は、徐放剤版だったら、日本でも使用が認められるかもしれない。日本でも治験が開始されることを期待する。
精神刺激薬
米国でも特発性過眠症に、メチルフェニデート系のリタリンやコンサータなどが使われる。また、アンフェタミン系のDexedrineやDesoxynなども使われる。
メチルフェニデートやアンフェタミンの有効性については、他のサイトでよく書いてあるようなので、それらを参考にしてもらいたい。
また、「マジンドール」も、アンフェタミンと似ていて、どうやら精神刺激薬に入るらしい。日中の過度な眠気に効果がある。
マジンドールは米国などでは、現在販売中止になっている。けれど、徐放剤版が開発中で、特発性過眠症の適応に向けてフェーズ2の段階にある。
日本でも、マジンドールの徐放剤版が特発性過眠症に適応となれば、助けになる人もいるかもしれない。
非精神刺激薬
非精神刺激薬の過眠症適応外処方薬は、たくさんあるので、いくつかの種類に分けてみる。
つまり、GABA系、オレキシン系、ヒスタミン系、セロトニン系、ドーパミン系、ノルアドレナリン&ドーパミン系、その他、の種類に分ける。
これらの中で、日本でも適応外処方で使えるものもあるかもしれないが、適応外処方の場合、原則として保険は適用されず、自由診療扱いとなる。 自由診療では全額(10割)が患者負担となる。
ヒスタミンに作用する薬
まず、ヒスタミンに作用して、特発性過眠症を治療する薬を1つ挙げる。
「ピトリサント(pitolisant)」は、2019年に米国で、FDAに承認された。選択的ヒスタミンH3受容体 拮抗薬/逆作動薬 となっている。ヒスタミンの合成や放出を増加させる。
他の薬が効かなかった患者でも、ピトリサント投与で約1/3が症状改善したらしい。
日本でも、アキュリスファーマが、2022年11月にピトリサントのフェーズ3試験開始を発表した。ナルコレプシーへの適応予定ということらしい。
ノルアドレナリン&ドーパミンに作用する薬
次に、ノルアドレナリン&ドーパミンに作用する過眠症治療薬を4つ挙げる。
「ソルリアムフェトル(Solriamfetol)」は、メチルフェニデートやアンフェタミンなどの精神刺激薬とも、モダフィニルとも、違った薬理作用を持つ。
ドーパミン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬となっている。 2019年に米国で販売承認が下りた。日本ではまだ治験は行われていないようだ。
「ブプロピオン」は抗うつ薬だが、覚醒促進作用がある。ノルアドレナリン・ドーパミン再取り込み阻害薬になっている。
米国では、何十年も前から抗うつ薬として使われていて、ジェネリックもたくさんあるらしい。日本から個人輸入もできそうだ。日本ではフェーズ3試験まで行われたが、その後開発が中止されたらしい。
「レボキセチン」は、ストラテラなどと同じ、選択的ノルアドレナリン再取り込み阻害薬(NRI)となっている。
ヨーロッパなど多くの国では、販売承認されているが、日本や米国では、承認されていない。米国では現在、ナルコレプシーへの適応へ向けて、フェーズ3試験の段階にある。
ドーパミンに作用する薬
米国で適応外処方で過眠症に使われるドーパミン系の薬を3つ挙げる。
「セレギリン(Selegiline)」は、モノアミン酸化酵素阻害薬(MAO-B阻害薬)。脳内のドーパミンレベルを増加させる。
日中の眠気を改善したり、昼寝の回数を減らしたりできるらしい。けれど、副作用の関係で、過眠症にはあまり使われていないらしい。
日本では現在、パーキンソン病やうつ病に使われている。
「レボドーパ」は、アミノ酸で、ドーパミンやノルアドレナリンやアドレナリンの前駆物質。
覚醒度や遂行能力を改善するにも関わらず、寝ようとする場合、眠りに落ちるまでの時間は伸びない、ということが示されている。
レボドーパは、日本でもパーキンソン病などに使われている。
「カフェイン」は、ドーパミン受容体刺激薬のような作用をし、覚醒興奮度を高める。
けれど、たくさん摂取すると心血管系の副作用などがあり、忍容性に問題がある。
過眠症の患者にカフェインはよく使われるが、効果が十分であるとは、あまり言われない。
セロトニンに作用する薬
米国で適応外処方で過眠症に使われるセロトニン系の薬を3つ挙げる。
「リタンセリン(Ritanserin)」は、5HT2A受容体や5HT2C受容体の阻害薬。(非定型抗精神病薬のリスパダールは、リタンセリンを改良して作られた。)
日中の覚醒度を上げ、また主観的な睡眠の質を改善できたらしい。他の薬の補助薬として使われる。
抗片頭痛薬または統合失調症治療薬でもあるらしいが、おそらく日本では処方されていないと思う。米国でも使われていない。ヨーロッパで使われている。
「フルオキセチン」は抗うつ薬で、セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)。軽い覚醒作用がある。また、メチルフェニデートの作用を増強する。
フルオキセチン(プロザック)は、日本では認可されていない。個人輸入などするしかないだろう。
「メラトニン」は、脳でセロトニンから作られる睡眠ホルモン。太陽を浴びるとセロトニンが増えるが、そのセロトニンは、夜にメラトニンに変わる。メラトニンになる事で、睡眠に入りやすい状態になる。
ある小規模の研究では、特発性過眠症の患者に対して寝る前に、メラトニンの徐放剤2mgが投与された。その結果、50%の患者は、夜の睡眠時間が減り、寝起きが改善し、日中の眠気が緩和された。
米国では、メラトニンはサプリメントとして買えるが、日本では医師の処方が必要。
日本では、メラトニン受容体作動薬であるロゼレム(ラメルテオン)が、「不眠症における入眠困難の改善」に適応がある。
GABAに作用する薬
米国の過眠症薬でGABAに作用する薬を3つ挙げる。
「クラリスロマイシン(Clarithromycin)」は、過眠症に対しては、GABA-A受容体アロステリック阻害薬として働き治療する。抗生物質としても使われている。
GABAシステムが過活動を起こしている過眠症の患者について、眠気を改善できると考えられている。
いくつかの調査で、短期的にも長期的にも、眠気を改善した事が示されている。
しかし、抗生物質の長期使用による危険性や、QT延長の危険性がある。 治療抵抗性で他の薬が効きにくい過眠症患者へ有効な事が示されているので、そういった使用が考えられるかもしれない。
日本でもクラリスロマイシンは、抗生物質として使われている。
「フルマゼニル(Flumazenil)」は、GABA-A受容体阻害薬として働く。
ベンゾジアゼピン薬のオーバードーズや、ベンゾジアゼピン系鎮静剤の使用、の後にベンゾジアゼピンの作用を解除するために使われている。
ところで、過眠症患者の脳脊髄液中には、睡眠誘発物質である「ソムノジェン」が検出される事がある。
ソムノジェンは、GABA-A受容体を刺激し、眠くなりやすくさせる。ソムノジェンが引き起こす眠気を、GABA-A受容体阻害薬であるフルマゼニルが治療できると考えられている。
治療抵抗性で他の薬が効かない過眠症の患者が、フルマゼニルを投与されたところ、39%に効果がみられた。
フルマゼニルは、おそらく日本では適応外処方でも手に入らない。米国にWEP Clinicalという団体があって、手に入りにくい薬の入手を手助けしている。
もし、フルマゼニルが必要な場合、WEP Clinicalに個人輸入の手続きなどやってもらうことができるらしい。その場合、費用が高くつく。
GABA-A受容体を阻害する開発中の薬に、「ペンチレンテトラゾール(Pentylenetetrazole)」がある。正確に言うと、GABA-A受容体アロステリック阻害薬となっている。
米国では現在、特発性過眠症やナルコレプシーの適応に向けて、フェーズ2の段階にある。
オレキシンに作用する薬
米国で開発中の過眠症薬で、オレキシンに作用する薬を挙げる。
オレキシン受容体阻害薬であるデエビゴやベルソムラは、睡眠薬として使われている。
なので、逆にオレキシン受容体作動薬は覚醒を促し、過眠症に効くのではないかと考えられている。
オレキシン2受容体作動薬である「ダナボレクトン(Danavorexton, TAK-925)」という薬が、開発されている。この薬は、静脈注入という形になる。
フェーズ1試験では、モダフィニルと同程度の覚醒促進効果を示している。ナルコレプシーや特発性過眠症などへの適応へ向けて開発が行われている。
ダナボレクトンは日本でも開発されていて、厚生労働省から「先駆け審査指定制度」の対象品目に指定されている。また、米国でも「画期的治療薬」として指定を受けている。
追記1:DSP-0187というオレキシン2受容体作動薬も、日本で開発されているらしい。ナルコレプシーへの適応に向けてフェーズ1試験を2021年11月に開始している。特発性過眠症への適応も期待されている。
追記2:TAK-861というオレキシン2受容体作動薬も、日本で開発されているらしい。ナルコレプシーへの適応を目指している。現在、フェーズ2の準備中だと思う。
その他の薬、治療法
「カルニチン」は、脂肪の燃焼を促進させる。過眠症の患者は、一般に、カルニチンレベルが低いのではないかと考えられている。
30人のナルコレプシー1型患者が参加した調査では、カルニチン投与によって、日中に、うとうとする時間の減少が見られた。
カルニチンは、日本でも気軽にサプリメントとして買える。
「レボチロキシン」は、甲状腺ホルモンの1つで、甲状腺機能低下症の治療や、甲状腺がんの予防、などに使われる。
特に、(潜在性)甲状腺機能低下症を患っている特発性過眠症患者、に有効である事が示されている。過剰な日中の眠気の減少や、睡眠時間の減少、が報告されている。
けれど、特に甲状腺機能低下症ではない患者に対しては、不整脈などの危険性がある。
抗うつ薬は、脳のノルアドレナリンやセロトニンレベルを上げる事によって覚醒効果を持つ。
同じように、アセチルコリンレベルを上げるアセチルコリンエステラーゼ阻害薬も、覚醒効果があるかもしれない。 「ドネペジル」などは、過眠症に効くケースがある。
モダフィニルとフレカイニドを混合した「THN-102」という過眠症治療薬が、米国で開発されている。フレカイニドは、不整脈を治療する薬。
THN-102は、 現在、米国でナルコレプシーへの適応へ向けて、フェーズ2の段階にある。
詳細は省くが、「経頭蓋直流電気刺激(tDCS)」と、「経頭蓋磁気刺激(TMS)」も、過眠症に対する治療法として研究されている。
モダフィニル
最後に付け足しで、「モダフィニル」について書く。米国でも、特発性過眠症にモダフィニルが使用されるが、日本と違って、適応外処方となっている。
モダフィニルの覚醒作用がなぜ起こるかは、十分明らかにされていない。
想定されるものとして、ヒスタミン、ノルアドレナリン、ドーパミン、オレキシン、グルタミン酸システムの刺激作用や、GABAシステムへの阻害作用が考えられている。セロトニンやアセチルコリンとの関与もあるとも言われている。
モダフィニルのメリットとして、他の精神刺激薬と比べて、半減期が15時間と長く、起床直後に服用すれば一日中効く。夜間の睡眠を妨げる程、長くもない。
また、ドーパミンへの作用が弱いため、比較的依存性が低い。
さらに、メチルフェニデートやアンフェタミンなど他の精神刺激薬は、時に、長期的な有効性に欠ける事があるが、モダフィニルは、長期的にも有効性が持続しやすいという事がある。
2000年に発表された研究でも、モダフィニルの長期的有効性が調査されている。(40週間)
40週間後に症状が改善した患者は、80%以上いた。「かなり」改善した患者については、58%いた。
有害事象で多かったのが、頭痛(13%)、神経過敏(8%)、吐き気(5%)だった。
いくつかのRCT(ランダム化比較試験)でも、特発性過眠症への有効性が確認されている。
以上の事からモダフィニルは、特発性過眠症の第一選択薬として、まず使われるべき薬のように思われる。
以上で全てですが、網羅はしていないかもしれません。追加して欲しい薬があれば、要望を受け付けます。
まとめ(米国)
ガンマヒドロキシ酪酸(GHB)系
xymav, xyrem
精神刺激薬系
メチルフェニデート系の薬、アンフェタミン系の薬、マジンドール
ヒスタミン系
ピトリサント
ノルアドレナリン&ドーパミン系
ソルリアムフェトル、ブプロピオン、レボキセチン
ドーパミン系
セレギリン、レボドーパ、カフェイン
セロトニン系
リタンセリン、フルオキセチン、メラトニン
GABA系
クラリスロマイシン、フルマゼニル、ペンチレンテトラゾール
オレキシン系
ダナボレクトン、DSP-0187、TAK-861
その他
カルニチン、レボチロキシン、ドネペジル、THN-102、tDCS、TMS、モダフィニル
コメント
今回は、要望を受けて書きました。原因不明の眠気に困っている人が少しでも参考になる記事になっていれば幸いです。
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参考文献
- https://www.hypersomniafoundation.org/treatment/
- https://en.wikipedia.org/wiki/List_of_investigational_sleep_drugs
- https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/10828434/
- https://en.wikipedia.org/wiki/Idiopathic_hypersomnia
- https://link.springer.com/article/10.1007/s13311-020-00919-1
- https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%A2%E3%83%80%E3%83%95%E3%82%A3%E3%83%8B%E3%83%AB
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