はじめに
この記事では、今一番期待している抗精神病薬の1つであるウロタロントの有効性について書く。
前の記事では、TAAR1アゴニストや、ウロタロントの副作用や開発状況について書いた。前の記事へのリンクはこちら。
有効性(治験結果)
フェーズ2試験において、ウロタロントの有効性は、PANSS(陽性陰性症状評価尺度、パンス)というものを使って測定された。
PANSSスコアは、点数が高い程、統合失調症の重症度が重いとされる。治験薬投与によって、患者たちのPANSSスコアを平均的にどれだけ減少させられたかにより、薬の有効性が判定される。
さらに治験薬投与によるPANSSの「スコア平均減少幅」と、プラセボ薬投与によるPANSSの「スコア平均減少幅」の「差」が計算される。
そうして、有効性のエビデンスとしてより高い「プラセボとの差」などの数値が算出される。
※PANSSについては次の記事を参照。
PANSS 陽性陰性症状評価尺度(有効性測定に使われる尺度)
フェーズ2試験は、4週間(28日間)の期間をとって行われた。まず、そのPANSS合計スコアの結果を下の表で見てみる。
PANSS合計スコア | ウロタロント 投与患者 | プラセボ 投与患者 |
薬投与前平均スコア | 101.4 | 99.7 |
薬投与28日後平均スコア | 84.2 | 90.0 |
スコア平均減少幅 | -17.2 | -9.7 |
プラセボとの差 | -7.5 | |
95%信頼区間 | (-11.9~-3.0) | |
p値 | 0.001 | |
効果量 | 0.45 |
ウロタロントの有効性が「スコア平均減少幅」「プラセボとの差」「95%信頼区間」「p値」「効果量」によって示されている。これらの用語の説明についてはこの記事をみてもらいたい。
これらのうち、まず、「効果量」についてだけ見ていく。「効果量」は「プラセボとの差」を「標準偏差」で割り算したもの。効果量は、異なる臨床試験の有効性データを比較する時に使える。
全般的な効果
ウロタロントのPANSS合計スコアの効果量は、0.45と今回の試験では出た。この値は、平均的な抗精神病薬と、同程度の有効性であると思われる。
他の薬のPANSS合計スコアの効果量は、次の表のようになっている。
PANSS合計 | 効果量 | ||||||
クロザピン | 0.89 | ハロペリドール | 0.47 | シクレスト | 0.39 | ||
ソリアン | 0.73 | クロルプロマジン | 0.44 | ラツーダ | 0.36 | ||
オランザピン | 0.56 | セロクエル | 0.42 | カリプラジン | 0.34 | ||
リスパダール | 0.55 | エビリファイ | 0.41 | イロペリドン | 0.33 | ||
インヴェガ | 0.49 | ジプラシドン | 0.41 | レキサルティ | 0.26 | ||
ドグマチール | 0.48 | セルチンドール | 0.40 |
ウロタロントの0.45という効果量は、ドグマチールの0.48やハロペリドールの0.47にやや劣り、クロルプロマジンの0.44やセロクエルの0.42よりやや勝る、と今回の試験で出た。
ウロタロントの全般的な有効性は、4週間という短期には、並程度である可能性がある。
長期の有効性
ウロタロントは、4週間の短期の試験では有効性が並程度だったが、長期の試験では有効性が結構高く出ている気がする。
ウロタロントの4週間に渡るフェーズ2試験終了後、引き続き26週間の長期投与試験が行われ、安全性や有効性が調べられている。
ただし、長期試験ではプラセボ、つまり偽薬を使うには倫理的に問題があるので、「プラセボとの差」も「効果量」も算出されない。
治験薬のPANSS合計の「スコア平均減少幅」で比較するしかなく、有効性のエビデンスとしては、いくらか低い。
26週間の長期試験の間に、ウロタロントを投与した患者のPANSS合計の「スコア平均減少幅」は、-22.6というものだった。
もちろん、「スコア平均減少幅」は、マイナスの大きさが大きい程、有効性が高いと評価される。この-22.6という数値は、下の表に見るようにかなり大きい。
今のところ、他に4つしかわからなかったが、他の薬の長期投与試験でのPANSS合計の「スコア平均減少幅」は、次のようになっている。
長期投与試験 (約半年) | PANSS合計スコア 平均減少幅 |
ウロタロント | -22.6 |
ラツーダ | -7.5 |
ロナセン | -6.4 |
レキサルティ | -5.3 |
シクレスト | -4.5 |
長期投与試験では、ウロタロント投与による症状の改善度合いは、上の表のように突出している。
他の薬より3~5倍くらい大きく改善させていて、ケタが違う。後からも大きな効果が持続しているようだ。
ウロタロントは、半年程度で考えれば、長期的有効性が高い部類に入る可能性があると思われる。
訂正(2024年4月8日):申し訳ないです。「長期投与試験」の「PANSS合計スコア平均減少幅」の表を少し訂正します。以下の通りです。厳密ではないです。おおざっぱな概算です。
長期投与試験 (約半年) | PANSS合計スコア 平均減少幅 |
ウロタロント | -22.6 |
レキサルティ | -15 |
ロナセンテープ | -8 |
ラツーダ | -7.5 |
シクレスト | -4.5 |
レキサルティの長期有効性がだいぶ高くなっています。ですがやはり、ウロタロントが一番長期有効性が高いです。ウロタロントの次の長期投与試験でも同じく有効性が高く出るかはわかりません。
陽性症状への効果
次に、ウロタロントの陽性症状への効果に絞って見ていく。
ウロタロントのPANSS陽性スコアの効果量は、0.32と今回の試験では出た。この値はあまり有効性の高くないグループに入るかもしれない。
他の薬のPANSS陽性スコアの効果量は、次の表のようになっている。
PANSS陽性 | 効果量 | ||||||
ソリアン | 0.69 | ハロペリドール | 0.49 | ラツーダ | 0.33 | ||
クロザピン | 0.64 | シクレスト | 0.47 | カリプラジン | 0.30 | ||
リスパダール | 0.61 | ジプラシドン | 0.43 | イロペリドン | 0.30 | ||
クロルプロマジン | 0.57 | セロクエル | 0.40 | レキサルティ | 0.17 | ||
オランザピン | 0.53 | セルチンドール | 0.40 | ||||
インヴェガ | 0.53 | エビリファイ | 0.38 |
短期的なウロタロントの陽性症状への有効性は、ラツーダの0.33やカリプラジンの0.30、イロペリドンの0.30に近いと出た。
ウロタロントの陽性症状への効果は、短期の試験ではそれほど高くはないという結果だった。
しかし、先程言ったように、半年程度の長期的には陽性症状への有効性は、低くはない可能性があると思われる。
陰性症状への効果
次に、ウロタロントの陰性症状への効果に絞って見ていく。
ウロタロントのPANSS陰性スコアの効果量は、0.37と今回の試験では出た。この値は、平均的な抗精神病薬と、同程度であると思われる。
他の薬のPANSS陰性スコアの効果量は次の表のようになっている。
PANSS陰性 | 効果量 | ||||||
クロザピン | 0.62 | インヴェガ | 0.37 | ハロペリドール | 0.29 | ||
ソリアン | 0.50 | クロルプロマジン | 0.35 | ラツーダ | 0.29 | ||
オランザピン | 0.45 | エビリファイ | 0.33 | レキサルティ | 0.25 | ||
シクレスト | 0.42 | ジプラシドン | 0.33 | イロペリドン | 0.22 | ||
セルチンドール | 0.40 | カリプラジン | 0.32 | ||||
リスパダール | 0.37 | セロクエル | 0.31 |
短期的なウロタロントの陰性症状への有効性は、リスパダールの0.37やインヴェガの0.37と同程度はあるという結果が出た。
しかし普通は、PANSS陽性の効果量が低いと連動して、PANSS陰性の効果量も低くなる。
ウロタロントは、PANSS陽性スコアの効果量が0.32しかないのに、PANSS陰性スコアの効果量は0.37もあるというのは、大きい気がする。
陰性スコアの効果量の方が大きいというのは、かなり珍しいと思う。ウロタロントの陰性症状への効果が高い事が予感される。
ウロタロントの陰性症状への効果は、4週間の短期の試験では並程度であるという結果が出た。リスパダールと同程度だった。
だが、先程言ったように、長期的には陰性症状への効果は、高いということもありえると思う。
コメント
ウロタロントは、フェーズ2試験の短期の結果ではあまりパッとしない有効性の値だった。
だが、もしかしたら長期的にはかなり良い部類に入る可能性もあると思う。特に投与開始から4~8週間の間の改善幅が、他の薬より大きいと思う。
また、4週間の短期試験では、陰性症状への効果の方が高かったので、長期的な陰性症状への効果は、かなり高いという事になる可能性もある。
また、ウロタロントは、錐体外路症状もほとんどなく、体重増加もほとんどない可能性がある。
FDA が指定したように「画期的な治療薬」となるかも知れない。多くの人にとって待ち望まれる薬になる可能性がある。
ウロタロントの他の記事では、TAAR1アゴニスト、副作用、開発状況について書いています。リンクはこちら。
ウロタロントの服薬メリットについて書いた記事はこちら。
「ウロタロント」服用による様々なメリット/2028年までの米国発売目標/新しい抗精神病薬
ウロタロントのフェーズ3試験の結果が出ています。
【米国フェーズ3試験失敗】「ウロタロント」治験データ、今後の開発の行方
初心者用記事もあります。
【革新的】開発中の抗精神病薬まとめ(後半)/ウロタロントなど【初心者用記事】
参考文献
- https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC6891890/
- https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMoa1911772
- https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC8660889/
コメント
更新がかかっていたので再度投稿してみました。
今回はメールが届いていればいいのですが、
とても説明が解りやすかったです。
Haruhoさん、どうもご親切に有り難うございます。
コメントできるようですね。ですが、プラグインに
不具合がある可能性があるので、見直してみます。
ありがとうございました。