はじめに
ウロタロントのフェーズ3試験の結果が、2023年7月に発表された。2つのフェーズ3試験は、両方失敗だった。
この記事では、フェーズ3試験の結果データについて考える。また、今後のウロタロント開発の行方についても考えてみる。
治験データ(スコア平均減少幅、プラセボとの差)
DIAMOND1とDIAMOND2という、2つのフェーズ3試験が行われた。
結果データは、治験薬のPANSSの「スコア平均減少幅」と、プラセボ薬のPANSSの「スコア平均減少幅」しか公表されていない。それらをまず下の表に示す。
6週間投与 | ウロタロント スコア平均減少幅 | プラセボ薬 スコア平均減少幅 | プラセボとの差 |
DIAMOND1 | -19.6(75mg投与) | -19.3 | -0.3 |
DIAMOND2 | -18.1(100mg投与) | -14.3 | -3.8 |
PANSS(パンス)については、こちらの記事を参照。
「PANSS」陽性陰性症状評価尺度/抗精神病薬の有効性測定に使われる尺度
治験薬投与によるPANSSの「スコア平均減少幅」は、(マイナス幅が)大きい程、統合失調症の症状を大きく改善させた事になる。大きい場合、その薬は、有効性が高いと評価される。
治験では、プラセボ薬(偽薬)を服用した患者のPANSSの「スコア平均減少幅」も測定される。そして、治験薬とプラセボ薬のPANSSの「スコア平均減少幅」の差が計算される。
その差の事を「プラセボとの差」と言う。治験が成功となるためには、この「プラセボとの差」が十分に大きい事が、必要になってくる。
治験薬のPANSSの「スコア平均減少幅」と、「プラセボとの差」は、どちらも有効性の目安になり得るが、有効性のエビデンスとしては、「プラセボとの差」の方が高い。
この記事ではまず、ウロタロントの有効性として公表されているPANSSの「スコア平均減少幅」や、「プラセボとの差」について考える。
「スコア平均減少幅」は小さくない
ウロタロントの有効性を考えるために、まず先に、PANSSの「スコア平均減少幅」を、見てみたい。
6週間投与 | ウロタロント スコア平均減少幅 | プラセボ薬 スコア平均減少幅 | プラセボとの差 |
DIAMOND1 | -19.6(75mg投与) | -19.3 | -0.3 |
DIAMOND2 | -18.1(100mg投与) | -14.3 | -3.8 |
先程の表をもう一度見てみると、ウロタロント投与によるPANSSの「スコア平均減少幅」は、-19.6と-18.1となっている。
ウロタロント6週間投与によって、PANSSスコアを、平均-19.6ポイントあるいは平均-18.1ポイント改善させた。
この数値は、他の治験が成功している抗精神病薬より、劣るという事はないと思う。他の抗精神病薬の治験におけるPANSSの「スコア平均減少幅」を、知る限りで、下の表に示す。
治験薬 | 投与期間 | 治験段階 | スコア平均減少幅 |
ウロタロント | 6週間投与 | フェーズ3① | -19.6 |
ウロタロント | 6週間投与 | フェーズ3② | -18.1 |
ウロタロント | 4週間投与 | フェーズ2 | -17.2 |
ルマテペロン | 4週間投与 | フェーズ3 | -14.5 |
ラツーダ | 6週間投与 | フェーズ3① | -17.9 |
ラツーダ | 6週間投与 | フェーズ3② | -19.3 |
エムラクリジン | 6週間投与 | フェーズ1b | -19.5 |
KarXT | 5週間投与 | フェーズ3① | -21.2 |
KarXT | 5週間投与 | フェーズ3② | -20.6 |
上の表を見てみると、やはりプラセボ効果を考えない場合、有効性は、他の薬と変わらないように見える。
KarXT(カーエックスティ)よりは少し小さいが、エムラクリジンやラツーダと同程度になっている。ルマテペロンの改善幅よりは大きいと思う。
ウロタロントのPANSSの「スコア平均減少幅」は、治験が成功した他の薬と、同程度になっている。
「スコア平均減少幅」を見る限り、ウロタロントの有効性は、十分あると言える。
「プラセボとの差」は小さい
次に、有効性の目安として「プラセボとの差」を見てみる。2つの試験の、PANSSの「スコア平均減少幅」と「プラセボとの差」を、再び下の表に示す。
6週間投与 | ウロタロント スコア平均減少幅 | プラセボ薬 スコア平均減少幅 | プラセボとの差 |
DIAMOND1 | -19.6(75mg投与) | -19.3 | -0.3 |
DIAMOND2 | -18.1(100mg投与) | -14.3 | -3.8 |
今回、プラセボ薬のPANSSの「スコア平均減少幅」が、-19.3、-14.3となっていて、(マイナス幅が)かなり大きい。プラセボ投与による病気の症状の改善が、かなり大きかった。
そのせいで、有効性の目安である「プラセボとの差」が-0.3、-3.8と小さくなってしまった。つまり、プラセボ投与による症状の改善が大き過ぎて、ウロタロント投与による症状の改善をおおい隠してしまった。
一般的に、抗精神病薬の治験におけるプラセボのPANSSの「スコア平均減少幅」は、-10ポイント程度が、普通らしい。(投与期間にも依る。)
ウロタロントのDIAMOND1試験での-19.3や、DIAMOND2試験での-14.3は、かなり大きいかもしれない。今まで見てきた中では、ここまで大きいものはなかった。
今回、ウロタロントの治験では、プラセボの「スコア平均減少幅」が大きかった。そのせいで、「プラセボとの差」が小さくなり、治験に失敗した。
プラセボ投与による病気の症状の改善が大き過ぎて、ウロタロント投与による症状の改善をおおい隠してしまった。
プラセボ薬の「スコア平均減少幅」が大きくなった理由
今回、ウロタロントの治験では、「コロナの影響」でプラセボのPANSSの「スコア平均減少幅」が大きくなってしまった、と考えられている。
治験期間内において、被験者がいつ薬を投与されたかは、バラバラになっている。ある患者は、コロナ前に薬を投与されたし、ある患者は、コロナ発生後に薬を投与されている。
治験データが分析された結果、コロナ前に薬を投与された患者だけで見ると、ウロタロントは「有意な有効性」を示す傾向があったらしい。
プラセボの「スコア平均減少幅」が大きくなった理由の1つに、「コロナの影響」があったらしい。コロナがなければ、治験は成功していたかもしれない。
ここまでのまとめ
- ウロタロントのフェーズ3試験が失敗したのは、プラセボのスコアの改善幅が、大き過ぎたため。
- プラセボのスコアの改善が大きくなったのは、コロナの影響。
- プラセボを計算に入れない場合、ウロタロントの有効性は、十分にあった。
ウロタロント開発は今後どうなるか
そういう事なので、さらなる治験データの分析によって、ウロタロントの有効性はあるという主張も、あるいは、できるかもしれない。
その辺りも含めて、今後、FDA(アメリカ食品医薬品局)と協議を行い、発売を目指す予定らしい。
(日本では、厚労省や医薬品医療機器総合機構(PMDA)が医薬品の規制や承認などを行っているが、米国では、FDAが医薬品の規制や承認などを行っている。)
以下に書く事は、調査不足で間違っているかもしれないが、おそらく、FDAとの協議は、次のようになると思う。
まず、FDAは、住友ファーマに次のように問う。「フェーズ3試験でウロタロントは有効性を示せなかったが、有効性はあるという証明はできるか」と問うと思う。
証明は、現状の治験データに基づいてなされる。有効性はあるという証明ができそうなら、FDAは承認申請を受理する。
現状のデータだけで証明ができない場合、FDAは追加の治験を求める事もあるかもしれない。
追加の治験をした場合、発売がその分遅れるかもしれないし、再び失敗するかもしれない。または、追加の治験はやらないで、開発を中止するかもしれない。
Twitter(X)やニュース記事の意見を見てみると、現状のデータだけでFDAは承認申請を受理し承認にまで至るのではないか、というものがあった。つまり、ウロタロントは無事に発売されるかもしれない。
フェーズ2試験は成功しているので、フェーズ3試験が完全な形で有効性を示せなくても、案外いけるのかもしれない。
ただ、FDAとの協議も踏まえて、2024年の発売目標時期は、見直しをする予定らしい。日本の2027年発売目標も、同様に見直しするらしい。
以下2024.6.27追記:
大塚製薬の資料には「第4次中期経営計画期間中の(米国での)上市を目指す」と書いてありました。
第4次中期経営計画期間は2028年までなので、2028年までの米国発売が目標という事だと思います。
「現在もう一度統合失調症のフェーズ 3 試験の実施に向けて準備中」らしいです。
日本での発売はいつになるでしょうか。2030年とか2031年になってしまうでしょうか。
米国のフェーズ3試験は、失敗した。けれど、ウロタロントの米国発売は遅れるにしても、無しになる事はないという雰囲気がある。米国で本当に発売されるか、FDAとの協議はどうなるか、今後も情報を追っていきたい。
コメント
ウロタロントのフェーズ3試験がうまくいかなかったと聞いて、最初は、かなりがっかりした。
けれど、開発中止にはならなそうだし、まだまだ望みはあると思う。
現在、長期投与試験も行われているようなので、そちらでは良い結果が出る事を期待したい。
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