はじめに
ロナセンは、SDA(セロトニン・ドーパミン遮断薬)と呼ばれる。SDAには他にリスパダール、ルーラン、インヴェガ、ラツーダなどがある。
しかし、ロナセンは、他のSDAよりドーパミンD2受容体への作用が強いため、DSA(ドーパミン・セロトニン遮断薬)と言った方が良いと言っている人もいる。
ドーパミンを強く遮断する「強い薬」なので、「陽性症状」を治療する効果が高い。一方で、ドーパミンD2遮断作用が引き起こす「錐体外路症状」や「アカシジア」などの副作用が強い。
また、「眠気」よりも「不眠」の副作用が多く、「鎮静作用が低い」のが特徴になっている。興奮などの副作用もある。
しかし、「体重増加は少ない」ので、良い選択肢の一つとしてあるのではないか。
ロナセンは、錠剤の他に「テープ」と言う剤型がある。おそらく、陽性症状や陰性症状への「効果」は、錠剤とそれほど「変わらない」と思われるが、「副作用」が違ってくると思う。より血中濃度が安定しているため「副作用が少ない」。
「ロナセンテープ」は「ロナセン錠」よりも「錐体外路症状」や「アカシジア」の出現率が「半分以下」になっている。
例えば、治験での「アカシジア」の出現率は、錠剤は24.1%もあるが、テープは10.4%とかなり抑えられている。
「不眠」も、錠剤は22.1%出現したが、テープは4.4%しか起こらなかった。
テープという剤型は、副作用も軽く、服薬順守されやすく、かなり優れた治療の形になっているのではないか。
この記事ではまず、ロナセンの「有効性」を治験結果から考えてみる。それから、ロナセンの「ki値」を見て、それが引き起こす「効果や副作用」を考えてみる。
有効性(治験結果)
ロナセンの治験結果は、ロナセン錠のものは見つからなかった。代わりに「ロナセンテープ」のフェーズ3試験の結果を書くことにする。おそらく、錠剤とテープで有効性はそれほど変わりはないと思う。
「ロナセンテープ」の「フェーズ3試験」の結果と、他の抗精神病薬の「メタ分析」の結果を比べて、有効性を考えてみる。
全般的な効果
2019年にマクシミリアン・ハーンらによって行われた「メタ分析」で、他の抗精神病薬のPANSS合計スコアの効果量は次の表のように出た。
PANSS合計 | 効果量 | ||||||
クロザピン | 0.89 | ハロペリドール | 0.47 | シクレスト | 0.39 | ||
ソリアン | 0.73 | クロルプロマジン | 0.44 | ラツーダ | 0.36 | ||
オランザピン | 0.56 | セロクエル | 0.42 | カリプラジン | 0.34 | ||
リスパダール | 0.55 | エビリファイ | 0.41 | イロペリドン | 0.33 | ||
インヴェガ | 0.49 | ジプラシドン | 0.41 | レキサルティ | 0.26 | ||
ドグマチール | 0.48 | セルチンドール | 0.40 |
「メタ分析」の結果を、「ロナセンテープ」のフェーズ3試験でのPANSS合計スコアの「効果量」と比べてみる。
フェーズ3試験におけるロナセンテープのPANSS合計スコアの効果量は0.56なので、「まあまあ高い」有効性が示されている。
オランザピンの効果量0.56と同程度で、リスパダールの0.55よりも少し高い。
ロナセンは、陽性症状、陰性症状、その他の症状などの「全般的な有効性」を見た時、結構高いというフェーズ3試験の結果だった。
陽性症状への効果
次に、ロナセンテープの「陽性症状」への効果に絞って見ていく。
他の抗精神病薬の「メタ分析」におけるPANSS「陽性」スコアの「効果量」は、次の表のようになっている。
PANSS陽性 | 効果量 | ||||||
ソリアン | 0.69 | ハロペリドール | 0.49 | ラツーダ | 0.33 | ||
クロザピン | 0.64 | シクレスト | 0.47 | カリプラジン | 0.30 | ||
リスパダール | 0.61 | ジプラシドン | 0.43 | イロペリドン | 0.30 | ||
クロルプロマジン | 0.57 | セロクエル | 0.40 | レキサルティ | 0.17 | ||
オランザピン | 0.53 | セルチンドール | 0.40 | ||||
インヴェガ | 0.53 | エビリファイ | 0.38 |
ロナセンテープのフェーズ3試験でのPANSS「陽性」スコアの効果量は0.48なので、「中の上くらい」になっている。
ハロペリドールの効果量0.49より少し低く、シクレストの0.47より少し高いくらいになっている。
ロナセンは、一般的に、陽性症状への「効果が高い」と言われるが、表の中で高いグループに入っていない。
ロナセンテープのフェーズ3試験は、「急性期」の患者を対象にした試験になっている。後にも書くが、ロナセンは、「鎮静作用が低い」ので、急性期の患者には効きにくいのかもしれない。
病状がある程度落ち着いた「安定維持期」の患者には、良く効くという事もあるかもしれない。
ロナセンの「陽性症状」への効果は、中の上くらいというフェーズ3試験の結果だった。
陰性症状への効果
次に、ロナセンの「陰性症状」への効果に絞って見ていく。他の抗精神病薬の「メタ分析」におけるPANSS「陰性」スコアの「効果量」は、次の表のようになっている。
PANSS陰性 | 効果量 | ||||||
クロザピン | 0.62 | インヴェガ | 0.37 | ハロペリドール | 0.29 | ||
ソリアン | 0.50 | クロルプロマジン | 0.35 | ラツーダ | 0.29 | ||
オランザピン | 0.45 | エビリファイ | 0.33 | レキサルティ | 0.25 | ||
シクレスト | 0.42 | ジプラシドン | 0.33 | イロペリドン | 0.22 | ||
セルチンドール | 0.40 | カリプラジン | 0.32 | ||||
リスパダール | 0.37 | セロクエル | 0.31 |
ロナセンテープの、フェーズ3試験でのPANSS「陰性」スコアの効果量は0.53となっているので、「かなり高い」。
ソリアンの効果量0.50より高い。
ロナセンは、陰性症状への効果については、「よくフィットする人」については「高い」と言われる。
しかし、「D2遮断作用」が強すぎて、「陰性症状が悪化」する場合もある。副作用にうつ病というものもあり、2.9%でうつ病が起きている。
なので、陰性の効果量0.53は、高く出過ぎているようにも思われるが、他の臨床試験ではもっと「低く」出ているようなので、メタ分析が行われれば、もう少しランキングの低いところに入るかもしれない。
後でも書くが、もしかしたら、「D3受容体遮断作用」が強い事が原因で、陰性症状に効く場合があるのかもしれない。ロナセンが含まれたメタ分析の結果を待って考えてみたいと思う。
ロナセンは、「陰性症状」への効果は、かなり高いというフェーズ3試験の結果だった。
有効性のまとめ
ロナセンの「有効性」は、今後、メタ分析が行われないとはっきりとはわからないが、「まあまあ高い」と思われる。特によくフィットする人には有効性の面でかなり良いと思われる。
何百という臨床試験結果の統合である「メタ分析」については、ロナセンが含まれたものは「まだ行われていない」。今後、行われたら追記したいと思う。
効果と副作用(ki値などから考える)
ロナセンのそれぞれの受容体に対するki値
このセクションでは、ki値を参考に、ロナセンの効果と副作用について考える。
脳細胞(神経細胞)には、抗精神病薬が結合する事ができる「受容体」がついている。受容体には様々な種類がある。
抗精神病薬がどの受容体に結合できるかによって、どの「効果や副作用」が出るかが決まってくる。
下の表の1番左の列に、ロナセンが主にどの受容体に結合(作用)できるか示してある。
作用 | 効果、副作用 | ロナセンのki値 |
5HT2A受容体遮断 | EPS改善、抗うつ、睡眠改善、衝動抑制 | 0.812 |
5HT2C受容体遮断 | 体重増加、睡眠改善、認知改善、抗うつ | 264 |
5HT6受容体遮断 | 認知改善 | 11.7 |
5HT7受容体遮断 | 認知改善、抗うつ | 183 |
α1受容体遮断 | 眠気、起立性低血圧悪化 | 26.7 |
D2受容体遮断 | 陽性改善、EPS悪化、眠気 | 0.142 |
D3受容体遮断 | 陽性改善、抗うつ | 0.494 |
H1受容体遮断 | 眠気、体重増加 | 765 |
M1受容体遮断 | 眠気、口渇、便秘 | 100 |
表に遮断と書いてあるが、抗精神病薬は結合した時に、受容体を刺激する刺激薬か、受容体を遮断する遮断薬になり得る。そのどちらかによって、反対の「効果や副作用」が起こり得る。
(上の表を見てみると、ロナセンの場合は、各受容体に対する刺激薬としての作用はなく、もっぱら、遮断薬として作用する、となっている。)
また、抗精神病薬の「効果や副作用」の「強さの度合い」は、受容体に「どの程度の強さ」で結合できるかで決まってくる。
受容体への結合の強さ(作用の強さ)は、「ki値」というもので表される。表の1番右の列では、ロナセンの各受容体に対する「ki値」が書いてある。もう一度表を貼っておく。
作用 | 効果、副作用 | ロナセンのki値 |
5HT2A受容体遮断 | EPS改善、抗うつ、睡眠改善、衝動抑制 | 0.812 |
5HT2C受容体遮断 | 体重増加、睡眠改善、認知改善、抗うつ | 264 |
5HT6受容体遮断 | 認知改善 | 11.7 |
5HT7受容体遮断 | 認知改善、抗うつ | 183 |
α1受容体遮断 | 眠気、起立性低血圧悪化 | 26.7 |
D2受容体遮断 | 陽性改善、EPS悪化、眠気 | 0.142 |
D3受容体遮断 | 陽性改善、抗うつ | 0.494 |
H1受容体遮断 | 眠気、体重増加 | 765 |
M1受容体遮断 | 眠気、口渇、便秘 | 100 |
ki値は、数値が小さいほど、結合力が強く、効果や副作用が強い。
1未満「非常に強い作用」、1~10「強い作用」、10~100「中等度の作用」、100~1000「弱い作用」、>1000「無視できるほどのわずかな作用」、となっている。
効果や副作用は、網羅はしていない。重要そうなものを選んで載せた。「EPS」とは「錐体外路症状」の事。
ki値から考えられる効果と副作用
この項では、上の表で示した「ki値」や、「治験結果」や、「実際の現場での話」などから、ロナセンの「効果と副作用」を考えてみる。
不眠、眠気、鎮静(H1遮断、M1遮断、α1遮断、D2遮断、5HT2A遮断)
まず、ロナセンが、不眠、眠気、鎮静に対してどのように働くか、考えてみる。
脳の睡眠回路は、GABA(ギャバ)という神経伝達物質が作動させる。覚醒回路は、ヒスタミン、アセチルコリン、ノルアドレナリン、ドーパミン、セロトニン、などの神経伝達物質が作動させる。
神経伝達物質は、脳の神経細胞についている「受容体」に結合して、覚醒回路や睡眠回路を作動させる。
ヒスタミン、アセチルコリン、ノルアドレナリン、ドーパミン、セロトニンは、それぞれ順に、H1受容体、M1受容体、α1受容体、D2受容体、5HT2A受容体、に結合し、覚醒回路を作動させる。
(それぞれの神経伝達物質は、別のサブタイプの受容体へも結合するが、覚醒回路を作動させる代表的なサブタイプ受容体を挙げた。)
それらの神経伝達物質が各受容体へ結合するのを、抗精神病薬が遮断(阻害)すると、覚醒回路が遮断(阻害)される。すると、眠気や鎮静が起こる。
ロナセンが、それらの受容体を遮断(阻害)する作用はどれ位か、ki値で考えてみようと思う。下の表にそれぞれのki値を示す。
作用 | ロナセンのki値 |
H1受容体遮断 | 765 |
M1受容体遮断 | 100 |
α1受容体遮断 | 26.7 |
D2受容体遮断 | 0.142 |
5HT2A受容体遮断 | 0.812 |
H1遮断のki値765以外の、M1遮断、α1遮断、D2遮断、5HT2A遮断作用は比較的強いように見える。
しかし、鎮静作用に一番影響を及ぼすのが、H1受容体遮断作用なので、H1遮断がかなり弱いロナセンは、多くの患者にとって、鎮静作用が弱く出るようだ。
治験では、不眠の副作用が22.1%、眠気(傾眠)の副作用が11.8%だった。不眠の副作用の方が多い。鎮静作用が弱い事が多い。でも眠気が出る人も結構いるようだ。
実際にロナセンを飲んでいる人の話では・・・・
- 「寝つきが悪い気がする」
- 「何種類も睡眠薬飲んでいるのに全然眠れない」
- 「ヘビーな睡眠薬を飲まないといけなくなる」
- 「中途覚醒が出てる気がします」
- 「2時間くらいで目が覚める。そして朝まで起きている」
などというようになっている。
一方で、
- 「日中、急激に眠くなることがあるね」
- 「頭がボーッとして眠くなる」
という人もいた。
ロナセンは、鎮静作用が弱く出る人の方が多いようだ。でも、眠気が出る人も結構いる。
錐体外路症状、アカシジア(D2遮断、5HT2A遮断)
錐体外路症状やアカシジアに関係するki値を下の表に示す。
作用 | ロナセンのki値 |
D2受容体遮断 | 0.142 |
5HT2A受容体遮断 | 0.812 |
D2遮断作用が強いと錐体外路症状やアカシジアが起こる。ロナセンのD2受容体への作用はki値0.142でかなり強い。
一方、5HT2A遮断作用が強ければ、錐体外路症状やアカシジアを軽減させる。5HT2A受容体への作用はki値0.812で強い。
5HT2A受容体への作用がかなり強く、その作用で錐体外路症状をいくらか軽減していると思うが、D2受容体遮断作用の方も強過ぎるので、錐体外路症状やアカシジアがやや多い。
治験では、アカシジアが24.1%、運動緩慢が13.1%、ジスキネジアが5.4%、構音障害が9.7%、ジストニアが4.6%、運動低下が7.4%、振戦が21.9%、筋骨格硬直が10.7%、歩行異常が7.5%出現した。
昔の定型抗精神病薬よりかはマシなのだろうが、いろいろと錐体外路症状が出ている。
ロナセンの錐体外路症状は、非定型抗精神病薬の中ではやや強いようだ。
陽性症状(D2遮断)
陽性症状への効果は、ドーパミンD2受容体遮断作用が強いと高まる。陽性症状に関係するki値を下の表に示す。
作用 | ロナセンのki値 |
D2受容体遮断 | 0.142 |
ロナセンのD2受容体への作用は、ki値0.142でかなり強い。リスパダールの3.57よりも強く、ハロペリドールの1.0より強い。
ロナセンは一般的に「強い薬」とされている。しかし、治験では上に書いたように、陽性症状の効果量は0.48と、言うほどは強く出ていないかもしれない。
リスパダールとの比較試験でも、陽性症状への効果は、ロナセンの方が若干低いと出ている。それは鎮静作用がリスパダールよりも弱いからだと言っている精神科医もいる。
急性期でなく、病状の落ち着いた安定維持期の患者にとっては、陽性症状を抑える効果はロナセンで十分かもしれない。
安定維持期には急性期ほど鎮静作用がいらないので、ロナセンは、より有効かもしれない。
また、ロナセンがよくフィットする人に対しては、効果が高く。極端に改善した人の割合は、リスパダールよりロナセンの方が上回っていたようだ。
ロナセンの陽性症状への効果は、よくフィットする人にはよく効くらしい。また、急性期以外にはよく効くかもしれない。
抗うつ(5HT2A遮断、5HT7A遮断、D2遮断、D3遮断)
うつや陰性症状に関わる受容体のki値をあげてみる。
作用 | ロナセンのki値 |
5HT2A受容体遮断 | 0.812 |
5HT2C受容体遮断 | 264 |
5HT7受容体遮断 | 183 |
D2受容体遮断 | 0.142 |
D3受容体遮断 | 0.494 |
ロナセンの5HT2A受容体への親和性(ki値)は0.812になっている。同様に、5HT2Cが264、5HT7が183、D3が0.494、の親和性(ki値)になっている。
5HT2Aの0.812やD3の0.494などは、陰性症状やうつの改善につながるかもしれない。ロナセンがよくフィットして陰性症状が改善する人は、これらの受容体への作用が貢献しているかもしれない。
特に、ロナセンはD3受容体遮断作用がかなり強いのが特徴になっている。D3受容体遮断作用についてはまだよく分かっていないが、不安感を改善し、気分を明るくするように働く事もあると言われる。
また、陰性症状に見られる社会性の不足や、認知機能障害も、D3受容体遮断によって改善できるらしい。
しかしロナセンは、逆に陰性症状やうつ症状を悪化させる場合がある。先ほども書いたが、治験でうつ病という副作用が2.9%出ている。
これはおそらく、D2遮断作用が強過ぎる事が一因になっていると考えられる。D2遮断が強過ぎると患者の勢いやエネルギーを削ぐように働くとも言われる。
実際にロナセンが使われた人は、次のように言っていた。
- 「僕にはロナセンが合っているみたいで、今や軽躁状態です。おかげでデイケアに通えるようになりました」
- 「俺には陰性状態にも効果あった」
というポジティブな感想があった。逆に、
- 「うつ病みたいにやる気なくなった」
- 「ロナセン飲むと憂うつになる」
- 「陰性も、あまり良くならない」
というネガティブな感想もあった。
ロナセンがよくフィットする人は、陰性症状やうつが良くなり、そうでない人は悪化するようだ。
体重増加(H1遮断、5HT2C遮断)
作用 | ロナセンのki値 |
H1受容体遮断 | 765 |
5HT2C受容体遮断 | 264 |
体重増加につながるのは、H1受容体遮断作用や、5HT2C受容体遮断作用などがある。順にki値は、765、264となっている。
これは、他の非定型抗精神病薬と比べても作用が弱いものとなっている。なので、ロナセンの体重増加の副作用は、かなり少ない。
シクレスト、ルーラン、レキサルティより体重増加が少なく、さらにエビリファイよりも少ないらしい。
日本で発売されている非定型抗精神病薬の中で、ロナセンは最も体重増加が起こりにくいと言っている精神科医もいる。
治験では、食欲減退の副作用が6.6%、食欲亢進が2.6%、体重増加が2.7%、体重減少が1.9%出現した。
実際にロナセンを飲んでいる人の話では・・・・
- 「確かに食欲がなくなるわ。1日1食の生活になってしまった」
- 「ロナセンは別に太りやすくないよ」
などと言っている人もいたが、
- 「ロナセン飲んで15kg太りました」
という人もいた。
ロナセンは、日本で最も体重増加が少ない非定型抗精神病薬と言われるが、体重増加する人も皆無ではないようだ。
抗コリン性副作用(M1遮断)
作用 | ロナセンのki値 |
M1受容体遮断 | 100 |
ロナセンは、M1受容体への親和性(ki値)は100ある。中等度か弱い親和性だが、抗コリン性副作用がいくらかある。
治験では、便秘の副作用が10.1%あり、悪心が6.3%、嘔吐が4.0%、排尿困難が3.1%、口渇が9.3%となっている。それと流延過多が12.3%あった
ロナセンは、抗コリン性副作用も結構いろいろと多い気がする。
よくフィットした場合の効果
繰り返しになるが、ロナセンは合わない人もいるし、よくフィットして良薬となる場合があるようだ。
陽性症状や陰性症状への効果もフィットする人にはとても良い。フィットすれば、表情を改善し、体重増加をさせず、幻聴にかなり有効という事もあるらしい。
実際使った人の中には
- 「この薬すごくいい薬で自分には合ってる」
- 「ロナセンが良薬過ぎてやばい。リスパの時みたいに眠くならないし、食欲もおさまったし、薬を飲んだことによる苦痛もない」
と言っている人もいる。
特にロナセンには、よく合う人、合わない人がいて、逆の効果が人によって出たりするかもしれない。
その他、書き残した事
ロナセンは、厭世観や敵意などという副作用もある。周囲とトラブルを来たしてしまうこともある。「人が信じられなくなり、親や兄弟でさえも信じられなくなる」ということが起こることもある。
ロナセンは、飲み始めは良いが、中盤に良くない症状が起こることがある。そんな時はオランザピンやワイパックスなどを追加するなどの工夫をして対処されているらしい。安定してきたらオランザピンなどを減量すれば、ロナセンの単剤処方が長期的に可能になるらしい。
ロナセンは、鎮静作用が弱いので、躁状態の活発な急性期の幻聴には効果的ではない。しかし落ち着いて来れば劇的に効き始めるという事もあるらしい。
治験での副作用データ(錠剤とテープの違い)
まとめとして、ロナセンの治験での副作用データを書いておく。ロナセン錠とロナセンテープの両方のデータを載せ、その違いについて少し書く。2%以上の患者に生じた副作用は、下の表のようになっている。
興奮や鎮静の副作用
錠剤 | テープ | |
不眠症 | 22.1% | 4.4% |
易興奮性 | 7.4% | 2.6% |
易刺激性 | 9.4% | 0.6% |
不安 | 9.1% | 0.7% |
鎮静 | 3.8% | 0.1% |
傾眠(眠気) | 11.8% | 1.9% |
倦怠感 | 9.5% | 1.0% |
うつ病 | 2.9% | 0.3% |
まず、H1遮断、M1遮断、α1遮断、5HT2A遮断、D2遮断などが関わる賦活(興奮)系や鎮静系の副作用を見てみる。
表を見てもらえばいいが、不眠、易興奮性、易刺激性、不安などの興奮を来たす副作用において、テープの方が3分の1から15分の1位の少なさになっている。
鎮静、傾眠、倦怠感、うつ病などの鎮静系の副作用の方に関しても、テープの方が6分の1以下になっている。
錐体外路症状
錠剤 | テープ | |
アカシジア | 24.1% | 10.4% |
運動緩慢 | 13.1% | 3.2% |
ジスキネジア | 5.4% | 2.8% |
構音障害 | 9.7% | 0.3% |
ジストニア | 4.6% | 1.9% |
運動低下 | 7.4% | (不明) |
振戦 | 21.9% | 7.9% |
筋骨格硬直 | 10.7% | 0.4% |
歩行異常 | 7.5% | 1.4% |
次に、D2遮断、5HT2A遮断などが関わる錐体外路症状について見てみる。
アカシジアは、テープで10%強しか起こっておらず、錠剤の半分の出現率になっている。他の錐体外路症状もテープの方が、半分以下の出現率になっている。
抗コリン性副作用
錠剤 | テープ | |
便秘 | 10.1% | 2.5% |
悪心 | 6.3% | 0.8% |
流延過多 | 12.3% | 3.3% |
嘔吐 | 4.0% | 0.8% |
排尿困難 | 3.1% | 0.3% |
口渇 | 9.3% | 0.3% |
M1~M5遮断が関わる抗コリン性副作用は、これも、テープの方が4分の1以下の少なさで、かなり少ない。
体重増加
錠剤 | テープ | |
食欲亢進 | 2.6% | 0.6% |
食欲減退 | 6.6% | 0.7% |
体重増加 | 2.7% | 6.1% |
体重減少 | 1.9% | 1.1% |
H1遮断や5HT2C遮断が関わる体重増加について見てみる。テープの方が食欲亢進も食欲減退も少ない。
体重増加は錠剤の方が少ない。
体重は6週間で、錠剤が平均0.33 kg減少、テープが平均0.22kg増加だった。錠剤の方が体重が減っているのは、食欲減退の副作用が錠剤に6.6%あることも関係しているかもしれない。
その他の副作用
錠剤 | テープ | |
浮動性めまい | 7.3% | 1.8% |
体位性めまい | 4.3% | 0.1% |
頭痛 | 5.7% | 2.4% |
頭部不快感 | 2.5% | (不明) |
月経障害 | 2.4% | 0.1% |
血中プロラクチン増加 | 18.3% | 4.3% |
無力症 | 5.8% | 1.1% |
熱感 | 2.1% | 0.1% |
上の表のように、2%以上出たその他の副作用もすべてテープの方が少ない。
皮膚の副作用
テープ | |
皮膚のかゆみ | 7.9% |
紅斑 | 9.3% |
しかし、ロナセンテープの方は、皮膚の副作用がある。皮膚のかゆみが7.9%出現し、紅斑(こうはん)が9.3%出た。皮膚の副作用は全体で18.6%あった。
ロナセン錠よりロナセンテープの方が全体的に副作用が少ない。
まとめ
- ロナセンは、鎮静作用が弱く出て不眠になる人が多いが、眠気が出る人もいる。
- 錐体外路症状やアカシジアは、他の非定型抗精神病薬と比べてやや多い。
- 陽性症状に対する効果はまあまあある。特にロナセンがよくフィットする人にはリスパダールより効果が出る。
- 陰性症状やうつに対する効果も、よくフィットする人には高く出るが、逆にうつ病の副作用が出る事もある。
- 体重増加は、非定型抗精神病薬の中で最も少ないと言われる。けれど、体重が増加する人も皆無ではない。
- 抗コリン性副作用がいくらかある。
- 厭世観や敵意という副作用も出ることがある。
- 飲み始めは良いが、中盤に調子が崩れやすい傾向があり、オランザピンやワイパックスが併用されることもある。長期的にはそれらを減量し、ロナセン単剤が可能になる。
- ロナセン錠よりロナセンテープの方が副作用がかなり少ない。
コメント
ロナセンは、よくフィットする人には良薬となり、合わない人には合わない薬ということだった。
精神科の薬は、まあまあの効果が誰にでも現れる薬より、一部の人に劇的に効くような薬が良い薬という事らしい。
ロナセンはその意味で良い薬だろう。
開発中新薬についても、治験で効果量が低くても、とりあえず発売してもらった方がいいらしい。 自分にとっては劇的に良い薬ということもあり得る。
なるべく多くの多様な薬を発売してもらって、選択肢が増えてもらいたい。効きが悪い人は、いろいろ試す事ができれば、自分によく合う薬を見つける事ができるかもしれない。
参考文献
- Blonanserin ameliorates social deficit through dopamine-D3 receptor antagonism in mice administered phencyclidine as an animal model of schizophrenia
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- https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC8884167/
- https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0920996419303354?via%3Dihub
- https://www.pmda.go.jp/PmdaSearch/iyakuDetail/GeneralList/1179048
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- https://ameblo.jp/kyupin/theme-10005991450.html
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