「ミノサイクリン」は「強迫性障害」への効果が結構ある|副作用も軽い

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はじめに

ミノサイクリンについて要望があったので書きます。この記事では、ミノサイクリンの強迫性障害(OCD)への使用について書きます。

要望では、ミノサイクリンの、「抗うつ効果」や「抗精神病薬的効果」についても、書いて欲しいという事でした。それらについては、記事の最後の方で一言書くにとどめます。

ミノサイクリンには、抗炎症効果、抗酸化作用、神経保護作用など、いろいろな効果がある。それらによって、統合失調症、うつ病、強迫性障害などを、治療できるのではないかと考えられている。

強迫性障害に対しての効果は、特に、ミノサイクリンの「グルタミン酸の調節作用」が関係していると言われている。

メマンチンやリルゾールなどの、過剰なグルタミン酸の活動を抑える薬も、強迫性障害を治療できる事が示されている。

また、強迫性障害の患者には、グルタミン酸に関する遺伝子に、変異がある事が見つかっている。

ミノサイクリンは、主に「グルタミン酸への調節作用」によって、「強迫性障害」を治療する。

「統合失調症」や「うつ病」などについては、ミノサイクリンは主に「抗炎症作用」によって治療すると、考えられている。

有効性

2010年発表の調査

強迫性障害には、第一選択薬として、SSRI(セロトニン再取り込み阻害薬)が使われる。しかし、満足のいく治療効果が得られる患者は、40%~60%しかいない。

SSRIに追加投与して、治癒率を上げられる薬はないか、という事に関心が集まっている。そこで、SSRIにミノサイクリンを追加投与して、どの位効果があるかが調査されている。

まず、2010年に発表された調査がある。SSRIを服用している9人の強迫性障害患者に、ミノサイクリンが追加投与され、効果が調べられた。12週間に渡って投与された。

けれど、その9人に対してのミノサイクリンの効果を「平均してみた場合」は、「有意な改善」効果は見られなかった。

その原因として、この調査に、あまり重度の強迫性障害の患者が含まれなかった、事がある。また、全員が治療抵抗性の患者で、なかなか治りにくい患者だった事も、影響しているとも言われている。

しかし、9人のうち2人、ミノサイクリンがよく効いた患者がいた。2人とも「年が若い」「ため込み症」の患者だった。

9人の中等度の強迫性障害の患者に対して、ミノサイクリンを追加投与し、効果が調べられた。「若い」「ため込み症」の患者2人には効果があった。

2016年発表の調査

この調査を受けて、2016年発表の調査が行われている。この調査は、ランダム化二重盲検プラセボ対照試験(RDBPCT)という、よりエビデンスとして強い調査となっている。

中等度から重度の強迫性障害患者102人が参加した。参加者全員にフルボキサミンが投与された。そのうち51人にミノサイクリンが追加投与され、残りの51人にプラセボ薬が追加投与された。

10週間に渡って投与された。エール・ブラウン強迫尺度(Y-BOCS)というのを使って、効果が測定された。

結果、「有意な改善」が見られ、ミノサイクリンの強迫性障害への有効性が示された。

「強迫性障害全体」への効果量は、0.56となっている。強迫性障害のうち「強迫観念の症状」に対しては、効果量0.64で、「強迫行為の症状」に対しては、効果量0.48だった。

効果量は、一般的に0.2で小、0.5で中、0.8で大、の大きさとされている。なので、ミノサイクリンの強迫性障害への効果は、まあまあ高いと思う。

また、ミノサイクリン追加投与で「完全寛解」した患者は、51人中36人もいて、プラセボの51人中15人より多かった。

ミノサイクリンは、SSRIに追加投与される事によって、強迫性障害を治す効果が「ある程度ある」という調査結果が出た。

有害事象(副作用)

ミノサイクリンの副作用は軽く、過去の調査研究では2年間に渡って投与されたが、副作用(有害事象)はほとんどなく、深刻な副作用(有害事象)もなかった。

先程の2016年発表の調査で出た有害事象の「発生件数」と「発生率」は、次の表のようになっている。

有害事象ミノサイクリンプラセボ
下痢6 (12.8%)3 (6.4%)
頭痛4 (8.5%)3 (6.4%)
食欲減退5 (10.6%)7 (14.9%)
めまい4 (8.5%)5 (10.6%)
不眠3 (6.4%)4 (8.5%)
吐き気6 (12.8%)4 (8.5%)
鎮静5 (10.6%)6 (12.8%)
腹痛6 (12.8%)4 (8.5%)

これらの有害事象は、全て「軽度」なもので、また、全てプラセボと「有意な差はなかった」。有害事象による投与中止も「1件もなかった」。

ミノサイクリンには、副作用がほとんどなかった。

開発状況

ミノサイクリンの強迫性障害に対する適応を目指した治験は行われていないと思う。けれど、ミノサイクリンにはジェネリックもあり、安価に手に入るかもしれない。市販はされていないと思う。

抗うつ効果、抗精神病薬的効果

このセクションは、要望をくれた人に向けて書く。それ以外の人は飛ばしてもよい。

ミノサイクリンは、脳の炎症を抑える事によって、うつ病や統合失調症も治療できるのではないかと、考えられている。

けれど、臨床試験の結果は、ポジティブな結果とネガティブな結果、両方あり、単純なものでない事が示唆されている。

特定のグループにしか効かないのではないかとも考えられていて、どのような患者に効くのか研究されている。

例えば、急性期の統合失調症患者には効くが、安定維持期の患者には効かないのではないか、と考えられたりしている。

また、そもそも、脳炎症については、うつ病、統合失調症などの「原因」ではなく、単にストレスの「結果」、脳炎症が起きているだけではないか、とも考えられている。

要するに言いたいのは、脳炎症と精神疾患の関連性については、まだわかっていない事が多く、研究が進められている途中の段階にある。

なので、「抗炎症薬」としてのミノサイクリンの、精神疾患への効果についても、まだよくわからない。特に、うつ病や統合失調症については、まだわからない。

強迫性障害については、ミノサイクリンの「グルタミン酸への調節作用」で効果が出る可能性はある。

ご要望のミノサイクリンの「抗うつ効果」や「抗精神病薬的効果」については、まだ研究されている途中で、はっきりわかりません。ご了承下さい。

  • ミノサイクリンは、グルタミン酸を調節する事によって、強迫性障害を治療する。
  • ある臨床試験では、SSRIにミノサイクリンを追加投与する事によって、強迫性障害治療できる事が示されている。
  • ミノサイクリンには、副作用ほとんど出なかった
  • ミノサイクリンのうつ病への効果や統合失調症への効果については、まだはっきりした事言えない

コメント

ミノサイクリンは、強迫性障害に結構効くのではないか、という事だった。でもまだ、102人の患者で出た調査結果に過ぎない。今後、よりたくさんの患者で効果が確かめられる必要がある。

ところで、今研究中の、強迫性障害に効きそうな薬が、まだいくつかある。

例えば、先程挙げたメマンチンやリルゾールの他にも、麻薬指定の麻酔薬ケタミンや、幻覚剤のシロシビンや、ビタミンB様物質のイノシトールなどがある。

機会があれば、強迫性障害について、もっとよく勉強して、これらの薬についての記事も書くかもしれない。

今後、強迫性障害の研究についても、よく見ていきたい。

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参考文献

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