シナプスコネクター
シナプスコネクターによる治療という、従来のアプローチとは違った、新しい有望な、治療方法がある。
シナプスコネクターは、シナプスをつなげる(コネクトする)分子。そこでまず、シナプスについての説明から入る。
脳は、1~2千億個の神経細胞でできている。その神経細胞同士は、数百兆個のシナプスによって、つながっている。
神経細胞の有機的なネットワークがつくられて、脳が形成されている。(脳には様々な領域があり、それぞれの領域において記憶や運動などの特有な働きが果(はた)される。)
シナプスは、神経細胞間のつなぎ目の部分。下に神経細胞と神経細胞がつながっている図を貼っておく。
上の神経細胞から下の神経細胞へ長い軸索(じくさく)が伸びている。軸索が下の神経細胞に触れている部分が軸索末端になっている。
その軸索末端付近を拡大したのが図の右下の四角の枠。シナプスの文字が見にくいかもしれないが、この図に見えるようなつなぎ目の部分(接合部)がシナプスになっている。
要するにシナプスとは、神経細胞と神経細胞のつなぎ目(接合部)のこと。
図の四角の枠にあるように、シナプスでは、軸索末端側のシナプス前部から、受容体があるシナプス後部に向かって、情報が伝達されている。
つまり、ドーパミン、セロトニン、ノルアドレナリンなどといった神経伝達物質が、シナプス前部から、後部の受容体へ、放出されていて、神経伝達が起きている。
シナプスでは、神経伝達物質が、シナプス前部からシナプス後部へ送られている。つまり、神経伝達が起きている。
受容体に神経伝達がなされた神経細胞は、電気的に興奮し、発火する。神経伝達は、神経細胞から神経細胞へと連鎖していって、次々と神経細胞は興奮発火する。
ある脳部位において、神経細胞群が興奮(発火)する事で、例えば、何らかの感情が湧いたり、記憶の想起が起こったり、体の動き(運動)が起こったりする。
反対に、統合失調症、アルツハイマー病、自閉症などの精神、神経疾患では、ある脳部位のシナプスの数が減少していたり、シナプスの機能に異常があったりして、ある脳部位の神経伝達が妨げられている。それが、一因となって症状が起こっていると考えられている。
例えば、グルタミン酸仮説によると統合失調症では、前頭前皮質で、グルタミン酸等の神経伝達がうまくいっていない。それを統合失調症の原因としている。
統合失調症などの疾患では、脳のある部位で、神経伝達が妨げられ症状が起きている。
シナプスコネクターという分子は、数が減っていたり、障害されている部分のシナプスを再形成させて、神経細胞同士を結びつける。神経伝達を回復させ、症状を治す。
マウスの実験でCPTXという、人工シナプスコネクターの効果が試された。CPTXを投与することによって、脊髄損傷マウスの歩行を回復させたり、認知機能を回復させたりする事に成功した。
シナプスコネクターは、妨げられている神経伝達を回復させる。例えば、マウスの実験で、CPTXという人工シナプスコネクターの、様々な疾患への効果が確かめられた。
統合失調症や自閉症など様々な疾患への応用も研究されている。従来の薬剤治療とは全く異なる「神経回路の再接続」という新規の治療方法が、今後出てくるかもしれない。
まとめ
- シナプスとは、神経細胞と神経細胞のつなぎ目(接合部)のことをいう。
- シナプスでは、神経伝達物質が、シナプス前部からシナプス後部へ送られている。つまり、神経伝達が起きている。
- 統合失調症などの疾患では、脳のある部位で、神経伝達が妨げられ症状が起きている。
- シナプスコネクターは、妨げられている神経伝達を回復させる。
- マウスの実験で、CPTXという人工シナプスコネクターの、様々な疾患への効果が確かめられた。
- 今後、新規の治療法として期待されている。
リンク集
シナプスコネクターについて詳しくは、リンク先の記事を読んでもらいたい。
おそらく、次の記事は一般向けで比較的わかりやすい。
動けなかったマウスが歩き出す… 途切れた神経回路をつなぐ物質「CPTX」の誕生が導く未来
この記事(PDF)も一般向けだし、基本的なことを網羅しているが、上の記事よりやや難しい。
途切れた神経回路を再びつなぐ人工シナプスコネクターを開発~シナプス異常による精神・神経疾患の治療に新しい道~
上級者向けの記事。慶應義塾大学医学部の、柚﨑通介教授や鈴木邦道助教らによって書かれた英語論文。
“A synthetic synaptic organizer protein restores glutamatergic neuronal circuits”(人工シナプスオーガナイザーたんぱく質がグルタミン酸作動性神経回路を回復させる)
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