抗精神病薬の断薬(後半) 断薬方法&手順 / D2占有率5%分ずつの減薬

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「D2受容体占有率」を基準にした減薬

現在の漸減法や隔日法でない方法

現在、抗精神病薬断薬する時、一般的には、漸減法(ぜんげんほう)や隔日法(かくじつほう)というやり方で行われているようだ。

しかし、前の記事でも書いたが、これらは数ヶ月以内という短い期間で行われたりしている。これで良い人もいるかもしれないが、離脱症状が出やすい人の場合は、もっと長くかけなくてはいけない

この記事では、漸減法隔日法をもっと洗練させたやり方について紹介する。具体的には、抗精神病薬ドーパミンD2受容体占有率5~10%ずつ減少させていく減薬のやり方がある。

D2受容体占有率

下の図は見にくいかもしれないが、脳内の神経細胞周辺の様子が描いてある。(青色の)10個の受容体のうち、6個が(緑色の)抗精神病薬によって、遮断(占有)されている。

仮に、脳内でこのような割合でD2受容体が遮断(占有)されていれば、この抗精神病薬のD2受容体占有率は、60%となる。

D2受容体占有率は高いほど、陽性症状への効果が高まる

陽性症状を抑えるためには、抗精神病薬によってD2受容体を65%以上占有し、遮断することが必要と言われている。それだけの量を飲む必要がある。

しかし、80%以上占有(遮断)してしまうと、錐体外路症状認知機能障害のリスクが高まるので、高ければ高いほど良いというのではない。

もちろん減薬をする事で、D2受容体占有率は下がっていく

D2受容体占有率の減り方

ところで重要な事だが、D2受容体占有率は、服薬量が少なくなる程、少し減らしただけで急激に下がってしまう。

下の図では、「ハロペリドール投与量」と「D2受容体占有率」の関係が描いてある。6mgから2mgに減らした時は、10%位しか減っていないが、2mgから0.5mgに減らしただけで、30%位も急に減っている。

0.5mg以下の減薬では、さらに急激にD2受容体占有率は減少していく

抗精神病薬の減薬は、D2受容体占有率5~10%分ずつ減らしていくというやり方が良い。

D2受容体占有率は、服用量が減れば減るほど急激に減少していく

終わりの方へいく程、本当に少しずつ減薬しなくてはいけない。

「減薬幅」と「減薬速度」

対応表がある薬の「減薬幅」

D2受容体占有率5~10%の割合で減らす必要があるという事だが、まず、いくつかの薬について、「D2受容体占有率」と「服用量」の対応表を、下の表に示す。

D2占有率(%)オランザピン(mg)リスパダール(mg)エビリファイ(mg)インヴェガ(mg)クエチアピン(mg)
8525.51211.219.4
80186.92.911.2
7513.54.61.67.6
7010.53.31.05.5
658.42.50.744.2
606.82.00.563.3
555.51.60.432.6
504.51.30.342.1
453.71.00.271.7
4030.820.211.381547
352.40.650.171.10874
301.90.510.130.87553
251.50.400.100.67365
201.10.300.0740.50242
150.80.210.0520.35155
100.50.130.0320.2290
50.240.060.0150.1039.9
000000
D2占有率(%)ソリアン(mg)ジプラシドン(mg)ハロペリドール(mg)クロザピン(mg)
80219211504.4
7510283962.9
706392262.1
654451511.6
603291091.2
55251820.971026
5019663.40.78534
4515449.50.62337
4012238.90.50230
3595.930.50.40164
3074.723.60.32118
2557.118.00.2485.1
2042.213.30.1860.0
1529.49.20.1340.1
1018.35.70.0824.2
58.62.70.0411.0
00000

上の表を参考にして、まずは現在の服用量から、D2占有率が5%~10%分減る服用量へ減らすところから、始めてみればいいと思う。

何年も長い間服用していた人は、もっと刻む必要がある人もいるかもしれない。結構大きく減らしても大丈夫な人もいるかもしれない。まずは、どれ位離脱症状が出るか、様子を見る必要がある。

以上のように「D2受容体占有率」と「服用量」の対応表がある薬については、表に従って、1回の減薬ごとにD2占有率5~10%分減る幅で、薬を減らしていけば良い。

対応表にない薬の「減薬幅」

D2受容体占有率」と「服用量」の対応は、上の表にある薬しかわからない。

他の薬についてはわからない。ただ、D2占有率が、最大量からおおよそ5%ずつ減少していく時の服用量は、概算できるので下の表に示す。

最大量を服用していない人の場合、途中の回から開始すれば良い。また、回を1つ跳(と)ばしで減らしていけば、およそD2占有率10%分ずつ減らしていける事になる。

1回ごとD2占有率約5%ロナセン(mg)ルーラン(mg)ラツーダ(mg)シクレスト(mg)レキサルティ(mg)
最大量244880202
1回目減薬183660151.5
2回目減薬122440101
3回目減薬918307.50.75
4回目減薬6122050.5
5回目減薬4.59153.750.38
6回目減薬36102.50.25
7回目減薬2.254.57.51.880.19
8回目減薬1.5351.250.13
9回目減薬1.132.253.750.940.094
10回目減薬0.751.52.50.630.063
11回目減薬0.561.131.880.470.047
12回目減薬0.380.751.250.310.031
13回目減薬0.280.560.980.230.023
14回目減薬0.190.380.630.160.016
15回目減薬0.140.280.470.120.012
16回目減薬0.090.190.310.080.008
17回目減薬0.0450.080.150.040.004
18回目減薬00000

D2受容体占有率」と「服用量」の対応表がない薬については、次善の策として、占有率5%ずつの服用量を、独自に計算をしてみた。上の表を参考にしてもらいたい。それほど厳密ではないが、だいたいで大丈夫だと思う。

ところで言い残したが、ドーパミンD2受容体占有率5~10%ずつ減らしていけば、他のアセチルコリン受容体セロトニン受容体への抗精神病薬の占有率同じような割合で減っていくらしい。

なので、D2受容体占有率5~10%少しずつ減らしていけば、他のコリン作動性離脱症状セロトニン作動性離脱症状抑えることができる

実際の「1回に減らす量」「減薬速度」

1回にどれだけのD2受容体占有率減らすと、離脱症状が出るかは個人差がある

なので、最初の減薬の数ステップは、特に注意深く様子を観察して、「減薬量」や「減薬速度」をどれ位にするか考えなくてはいけない。

1回の「減薬量」は、D2受容体占有率10%減分かもしれないし、5%減分かもしれないし、それより少ない2.5%減分にするべきかもしれない。

減薬速度」つまり減薬の間隔(インターバル)については、1ヶ月2ヶ月かもしれないし、6~12週間とも言われるし、3~6か月とった方がいいとも言われる。

ただ、最初に減薬した後の2回目の減薬は、なんともなければ、1か月後位でもいいように、個人的には思う。けれど、減薬する前には何週間かの安定した症状の状態がある必要がある。

もし、減薬途中離脱症状の悪化があった場合、その時点での服薬量で一旦とどまり症状の安定を待つ事も必要。

症状がかなり酷い時は、ワンステップやツーステップ前の服用量に戻し、後退する必要がある事もある。 その後、よりゆっくり少しずつ減薬しなくてはいけないかもしれない。

その都度、症状の様子を見て、減薬量減薬速度を決める。

そうしていって、断薬が成功した後も、2年位引き続きよく症状を観察して、症状の再発がないか見ていかなくてはいけない。

離脱症状がどれ位出るかは個人差があるので、「1回の減薬量」や「減薬速度」は、実際に減薬していく中で、考えて決めなくてはいけない。

減薬途中でも症状をよく観察して、「減薬量」や「減薬速度」を柔軟に変更することも必要な場合もある。

服薬量の測り方

ところで、例えばオランザピンなどは、最後の方の減薬の際、0.01mgの幅まで服薬量を測らなければいけないし、途中でも細かく測らないといけない

もしかしたら、始めから細かく測る必要があるかもしれない。その辺りはおそらく、次のサイトのやり方が参考になると思う。

ドライマイクロテーパリングでの減薬方法

このサイトは、ベンゾジアゼピンマイクロテーパリング方法を説明している。薬の測り方などは抗精神病薬にも使えると思う。

(ハカリ)や薬匙(やくさじ)や細粒剤が必要になる。細粒剤は、例えば「オランザピン細粒1%」といった薬を処方してもらう必要がある。詳しくは上のリンク先のサイトを見て欲しい。

断薬手順の一例

例えばの話、オランザピン10mgを服用している人が、仮に断薬する場合、次のように行う事が考えられる。

1回目の減薬

まず、1回目の減薬について考える。

対応表では、オランザピンは、10.5mgでD2受容体占有率が70%で、8.4mg65%となっていたのだった。なので、まず10mgから8.4mgへ減薬し、D2受容体占有率を約5%減少させる。

10m→8.4mg(5%減)

離脱症状が出たら、そのまま様子を見るか、症状が酷い場合は、10mgと8.4mgの中間の9.2mgの量へ、少し戻す。この場合、1回目の減薬は、D2占有率約2.5%分の減薬となる。

10m→9.2mg(2.5%減)

9.2mgでも離脱症状が出た場合は、9.6mgへの減薬にするしかない。それでもダメだった場合は、さらに刻んで減らすしかない。

10m→9.6mg(1.25%減)

あるいは、全然大丈夫で、離脱症状が全くなかった場合、1回目として10mgから8.4mgにしていたものを、さらに減薬して6.8mgまで一気に減薬してもいいかもしれない。

10m→6.8mg(10%減)

オランザピン10mgは、D2受容体占有率70%弱で、6.8mg60%なので、D2占有率10%分の減薬となる。

2回目の減薬

その後、症状が安定して3,4週間位たったら、2回目の減薬をする。それは、1か月後かもしれないし、半年後位かもしれない。

2回目の減薬量は、1回目の減薬量を参考にする。1回目の減薬が10mgから8.4mgだった場合、2回目の減薬は、8.4mgから6.8mgへの減薬になる。

10m→8.4mg→6.8mg(5%減)

8.4mgのD2占有率は65%で、6.8mg60%なので、D2占有率5%減になり、1回目の減薬と同じ5%減になる。

また、1回目の減薬を10mgから9.2mgにした場合、2回目の減薬は、9.2mgから8.4mgへの減薬になる。D2占有率約2.5%分ずつの減薬になる。

10m→9.2mg→8.4mg(2.5%減)

1回目の減薬を10mgから6.8mgへの減薬にした場合、2回目の減薬は、6.8mgから4.5mgへの減薬となる。D2占有率10%分ずつの減薬になる。

10m→6.8mg→4.5mg(10%減)

3回目以降の減薬

3回目以降同様に、D2受容体占有率を5%分ずつ減薬したり、10%分ずつ減薬したり、2.5%分ずつ減薬したりしていく。

(2.5%分ずつ減薬は、厳密に言うと、1回に2.5%分ずつの減薬というより、2回で5%ずつの減薬と言った方がいいかもしれない。)

3回目以降も症状によって、どれ位のD2占有率減にするか変更する必要があるかもしれない。また、減薬の間隔も、1か月から半年位の間で、症状を見て、自由に決めていく。

そのようにして0mgまで減薬していく。仮にD2占有率を5%分ずつ減らしていき、減薬の間隔を1か月ごとにしても、オランザピン10mgの断薬をするのに、14か月かかることになる。

長いかもしれないが、離脱症状が出やすい人の場合は、これ位は必要かもしれない。

他に断薬する際に気をつけること

抗精神病薬を断薬する時には、患者側医師側の間の、共同意思決定(Shared Decision Making、SDM)によって行われなければいけない。全ての段階で、よく話し合って合意の下で行う。

家族、介助者、専門家などの、十分な心理的、社会的サポートがあれば、なお良い。それらの人が、できるだけ、離脱症状危険な徴候などを知っておくと良い。

十分な質と長さの睡眠を確保する。必要なら眠剤も使用する。

断薬は、十分に症状が安定している時に始める。

コメント

記事を書いた後で思いましたが、医師がこのやり方に付き合ってくれるのかはわかりません。

また、論文などを見て書いただけなので、実際にそっくりそのまま適用できるのかは、確信が持てません。

実際に断薬している人で、ここはこうした方が良いなどというご意見があれば、参考にさせてもらって、記事に取り入れるかもしれません。

それと、説明に不明なところがあれば、知らせてもらえると有り難いです。

ですが、離脱症状が出やすい人にとって、D2受容体占有率を基準にする断薬法は、少なくとも、現在の漸減法や隔日法よりも、良いやり方だと思っています。 断薬する人に参考になれば幸いです。

けれど、最後に言いますが、統合失調症の人の場合、医師の許可なしに断薬する事は全くお勧めしません。よく医師と話し合う必要があると思います。

離脱症状を概観した前半の記事へのリンクはこちら。
抗精神病薬の断薬(前半) 離脱症状の概観 / 出現率、期間、リスト、出やすい人など

ブログ改善のため、この記事の感想を是非お願いします。(複数選択可)No.56

参考文献

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